第8話『パラレルコネクター』ファンタジー小説部門
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【一章‐三節 ソーナ】
「ついたよ」とシロの声が聞こえる。
じんわりと視界が戻ると、目の前には慣れ親しんだ風景が浮かび上がった。
「……俺の部屋だ」
「うん。どうしてここに飛んだかわからないけど、同じ部屋みたい。でも間違いなく第四世界だよ」
俺は部屋を見渡す。確かに同じ部屋だけど、少しずつ違っていた。家具付き物件の家具は同じ、でも生活感は女のものだ。
そして、さっきまで人のいた気配がする。
「ゼンが言っていたように、コネクターが引き合うとしたら、きっとこの部屋にも意味があるんだよね?」
「そうかもな」
「ねえ、ヤマベ、話でもしながら少し待つことにしない?」
「それもそうだな。話せば、ダークマターも早く溜まる。このあとにはゼンの第五世界にもいかなければならない。第三世界を離れたからには、あとは待ったなしだからな」
「うん。ねえヤマベ、さっきゼンが言っていたこと、考えていたんだけど」
「アンタのコネクターのことか?」
「うん。いけにえを使わずに作られた、って。だから声が届かないし、一方通行なのかな。でも、誰かがそれを予見して作ったとしたら……きっと今こうしてつながっていることにも、意味があるのかなって」
「そうかもな」
その時、俺たちの会話を遮るように『ガチャリ』と外から鍵を開けた音がした。誰かが帰ってきたようだ。
黙ったまま、潜むように静かに呼吸をしながら待つ。扉から入ってきたのは二〇前後の若い女だった。
大きなマイバッグを二つぶら下げているその女は美しい金色の長い髪に、アンバーの目を持っていた。
俺は池から出てきて願いを聞いてくれる、森の中の女神を思い出した。同時に彼女を見た瞬間から、俺の中で時間の速度が遅くなったように感じた。
この懐かしさは、何なのだろう。
俺は長い間、彼女が現れるのを待っていたような気がする。
「あ……」
俺は何かを言いかけたが、その先の言葉が全く出てこなかった。
大量の荷物を持ったその女と目が合った。彼女は驚くこともおびえることも全くせずに、まっすぐ俺を見ていた。その目は俺に何かを伝えているように見えた。
彼女が何かを言いかけたとき、彼女の後ろで『ガチン』と扉が閉まり空気を固く振動させた。
その余韻が消え、部屋が再び沈黙に包まれたときに、彼女は口を開いた。
「いらっしゃい、今コーヒーでも入れるから座っていて。狭いところだけど」
彼女はその言葉だけを残し、キッチンに行ってしまった。
どう見ても日本人には見えない金髪とアンバーの瞳だったが、きれいな日本語を話した。
天地人はどんな言語でも扱えるという。コネクターを介せば言葉はわかるようになるが、それぞれの言語の癖は残る。でも彼女の日本語は違った。歌うような柔らかさで、俺の耳を優しくなでていった。
シロが小声で俺に聞く。
「ねえ、私たちがここにいて当たり前のような対応、いったいどういうことなのかな?」
「……わからん。でも俺たちが来ることを知っていたんなら、天地人の可能性もある。いずれにしても、コネクターに関与しているんだろう」
「う、うん。そう思ったほうがいいよね」
「シロ、ここは流れに身を任すしかない」
「わかった。でも私は、向こうのコネクターが出てくるまで暫く黙っている」
「大丈夫だって、向こうがコネクターを持ってなかったら、お前の声なんて聞こえないし」
「あ、それもそうか」
シロの声が急に大きくなった。単純な奴だ。
しばらくすると「お待たせ」と言って、女はアイスコーヒーを二つ持ってきた。
一つを俺の前に置く。細長いグラスに、氷とともにコーヒーが入っている。
俺はそれを一口飲み、とりあえず女が口を開くのを待つ。
女はストローを紙の袋から出し、先を少し曲げ、コップを持ち上げながら一口だけコーヒーを飲んだ。ストローから口を離すとき小さく「パッ」と音がした。
「私はソーナよ。遠見王家の生き残り」
それを聞いた瞬間、シロが素っとん狂な声をあげた。
「遠見王家の生き残り!! じゃあ、王家の方!?」
「ええ、そうよ」
「……遠見王家の方は天地人を受け継ぐと聞きましたが。ええっと、あなたがその天地人ですか?」
「そうね、呪われた宿命だわ」
「呪われたとは穏やかじゃない。どういうことだ?」
「まあ、それはおいおい話すわ。初めましてヤマベさん、シロさん」
「何故、俺たちの名前を……本当に天地人なのか?」
「えぇそうよ。まぁまだまだ新米だけどね」
あぁ、俺はやっと天地人に会えたんだな。
……でも大切なのはここからだよな。
「ソーナ、宜しく。あらためまして、俺はヤマベ、そしてこっちがシロだ」
「ソーナさん、パラレルコネクター・ホワイト、通称シロです。宜しくお願いします!」
「はい、二人とも宜しくお願いします」
ソーナはそう言うと、買い出しの荷物をキッチンに運びながら続けた。
「せっかくこうやって異世界の住人同士会えたんだから、パーティーをしようと思っていろいろ買い込んできたの。もう少しで夕食時だから、準備するまで待っていて」
夕食?
確かに、外の景色に目をやると、夕方のそれだ。
「シロ、俺たち朝に出たよな?」
「あれ、ヤマベ並行世界超えるの初めてだっけ? 体感は一瞬だけど、時間の伸び縮みの中、結構時間がたっていることもあるんだよ。なんかランダムみたいなんだけど。でもそれは前に進む方向だけで、過去に遡るのは不可能みたいだけど」
キッチンからソーナの声が聞こえてきた。
「コネクターでの並行世界移動は時間のズレはしょうがないわよね。それでも過去にも未来にもいくことは不可能だわ。どれだけ行きたいと願っても……」
なんだかこの女、ちょっと暗いとこあるな。
それにしてもあんな遠くからよく聞こえるものだ。天地人とはそういうものなのか?
