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AIがうばえなかったもの:第4話 失ったもの、残ったもの

AIが仕事を助けるようになってから、数年が過ぎた。

最初は、誰もが歓迎していた。

時間のかかる仕事をAIが短時間で終わらせる。

ミスも少なく、効率も上がる。

「便利な時代になったね」

そんな声が、あちこちで聞こえていた。

けれど――。

便利になるということは、人が必要とされる場面が少しずつ減っていくということでもあった。

ある日。

彩乃は上司に呼ばれた。

会議室には、数人の社員が集まっている。

重い空気の中、上司が静かに口を開いた。

「今後、業務の大部分をAIへ移行することになりました」

彩乃は黙って聞いていた。

「そのため、人員を大幅に見直します」

嫌な予感が胸をよぎる。

「つまり……?」

「申し訳ない」

その一言で、すべてを悟った。

弁護士になるために、何年も勉強した。

眠れない夜もあった。

何度も挫折しそうになった。

それでも夢をあきらめず、ようやく手に入れた仕事だった。

それなのに――。

「AIに……奪われるんですか?」

震える声で尋ねても、上司は黙ったままだった。

会社を出ると、人々はいつもと変わらず歩いていた。

世界は何も変わっていない。

変わったのは、自分だけだった。

その夜。

帰宅した直人は、暗い部屋でソファに座る彩乃を見つけた。

「彩乃?」

返事はない。

「どうした?」

彩乃は静かに顔を上げた。

「仕事……なくなった」

直人は言葉を失う。

「AIに置き換えられたの」

笑おうとしても笑えない。

「私、何のために頑張ってきたんだろう」

直人は隣に座った。

「彩乃の努力は、なくならない」

「でも仕事はなくなった」

その言葉に、直人は何も返せなかった。

実は、直人の病院でもAIの導入が急速に進んでいた。

AIは患者のデータを分析し、病気を予測し、治療法まで提案する。

ある日、若い医師が言った。

「先生、この患者さんはAIの診断の方が正確だと思います」

画面には、直人が考えていた診断と同じ答えが表示されていた。

しかも、一瞬で。

長年積み重ねてきた知識も経験も、AIは膨大なデータから瞬時に導き出してしまう。

やがて病院は、医師の数を減らし始めた。

直人は、自分も仕事を失うかもしれないという不安を、彩乃には話せなかった。

一方、千夏が働く介護施設にもAIロボットが導入されていた。

見守り。

服薬管理。

健康チェック。

会話の相手。

AIができることは、日に日に増えていった。

そんなある日、一人の入居者が千夏に尋ねた。

「私、ここにいても迷惑じゃないかしら」

千夏はすぐに隣へ座り、そっと手を握った。

「そんなことありません。私はここにいますから」

女性は安心したように微笑んだ。

「あなたがいると安心するわ」

その言葉を聞いたとき、千夏は思った。

AIは会話もできる。

質問にも答えられる。

でも、この人が今、本当に欲しかったのは、正しい答えではなかった。

ただ、誰かにそばにいてほしかったのだ。

その頃、裕太の弁当屋も厳しい状況になっていた。

AIが献立を考え、自動で料理を作る時代。

安くて早い店に客は流れていく。

「店、続けるの?」

千夏が聞いた。

「続けたい。でも、どうなるかな」

裕太は苦笑した。

「親父から受け継いだ店だから」

千夏は笑って言った。

「私は裕太のお弁当が好きだよ」

「え?」

「温かくて、優しい味がするから」

裕太は照れ笑いを浮かべた。

「……千夏は、いつもそうだな」

「何が?」

「落ち込んでいる時に、普通に励ましてくれる」

少しの沈黙。

そして、思わず本音がこぼれた。

「……好きだな」

「え?」

裕太は慌てて目をそらした。

「いや……弁当の話」

千夏は少し笑った。

「……そっか」

そう答えたものの、その夜、裕太の言葉は何度も千夏の胸に浮かんでは消えた。

AIが仕事を奪っていく。

努力も。

夢も。

積み重ねてきた時間さえも。

けれど、人の心まで奪うことはできない。

四人は、それぞれ大切なものを失いながらも、新しい未来へ向かって歩き始めようとしていた。

第5話に続く


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