科挙とは何か?/宮崎市定先生を慕って―連作「科挙 中国の試験地獄」(2)
第二話 学校金食い虫説
このパートはエッセイ風に書いていきます。
根拠はすべて、宮崎市定著『科挙 中国の試験地獄』(中公文庫)と『詳説 世界史研究』(山川出版社)ですよ。あとネット情報も(笑)。
これ以降もすべてそうなので、今後はいちいち断りませんよ。
読みやすさ最優先で行きます。細かいことは言いません(笑)。
また、解釈も完全に我流です。
宮崎先生の著書や世界史の教科書を読んで、私が勝手に出力したものです。
六世紀末の中国で、なんでこんなものが考え出されたか?
それは、統一王朝の支配力を貫徹させるためです。
日本で超有名な三国時代以来、「九品官人法」という官僚登用システムがありました。
これは国が地方の英才を登用するために「中正」という役人を派遣して推薦させるというものでしたが、お察しのとおり地方のボス――貴族や豪族といった連中に骨抜きにされました。
推薦されるのが、貴族や豪族の子弟ばかりになったわけですよ。
結局「パパが偉いから私も偉い」っていう、最強のコネゲーということですね。
これではちっとも中央政府――皇帝が思うような政策を進められません。
しかしながら、二世紀末から六世紀までの間、中国はとんでもないカオスな時代でした。
世界史の教科書では、「黄巾の乱」「後漢の崩壊」「三国時代」「西晋による一時的統一」「八王の乱」「五胡十六国」「南北朝」「六朝」……色々と用語が出てきますが、言い換えますね。
気候の寒冷化による異民族の侵入、異民族の傭兵化、そして実力を自覚し積極的に暴れ出した異民族たち。
弱肉強食が極まった、狂ったヤツらによる狂った支配が横行したということです。
具体的な例はあまりにも凄惨なため、ここでは触れません。
自分がされたくないことを全部された上に、肉体をバラバラにされるとでも考えていただければ、だいたい当たっているでしょう。
こんなカオスの中では、中央政府(笑)は支配力を発揮できませんでした。
ですが、カオスの中では生活していけないので、億兆の人民の祈りがついに、混沌に終わりを告げる王朝を生み出します。
それが、「隋」でした。
隋の建国者はこう思いました。
「貴族どもめ!もうブチギレた!『ガチの実力テスト』を導入してやんよ!」
これが科挙の始まりということなんですね。
初めから科挙は「試験だけ」をするものでした。
学校なんてもんは、ま、存在感がありませんでした。
だって、金かかるでしょ?
隋はとても、頑張った。
実質的な皇帝は二人だけだけど、内政改革やらインフラ整備やら、四十年弱で強行しました。
頑張り過ぎて人民をボロ雑巾のように使役し、海外遠征まで強行したから、皇帝が嫌われちゃいました。
そして、多数の人民がブチ切れて大反乱が起き、またカオスになりかけました。
そのカオスを防いだのが、キラキラしたイメージで語られることの多い「唐」です。
唐は隋の成果を、誰の怨みも買わずに丸パクリしました。
官僚の登用システム、科挙ももちろんパクりました。
だいたい三百年近く、唐は中国を支配しました。
それでも貴族は、しぶとく粘っておりました。
貴族にトドメを刺したのは、唐滅亡後のカオス「五代十国」でした。
これまた狂ったヤツらの狂った支配で、貴族はターゲットにされて略奪を受けまくり、消滅しましたとさ。
中国の大半を再統一した「北宋」の時代には、もう表だって皇帝に逆らえる貴族は滅び去っていました。
貴族がいなくなった北宋の皇帝はこう思ったはずです。
「よっしゃ、邪魔者は消えた! これからは、全国民を試験ジャンキーにして、私に従わせる最強の洗脳システムを完成させるぞ!」
皇帝自ら、こんなポエムを詠みやがりましたよ。
――金持ちになりたい?お屋敷に住みたい?お供が欲しい?嫁が欲しい?
男たるもの、大人物になりたければ、刻苦勉励し、経書を読め(笑)――
「経書を読め(笑)」を言い換えましょう。
「スタートラインに立つには、まずは四十三万一千二百八十六字、暗記だね(笑)」
まずは陛下が、手本を示されてはどうですかな(笑)。
さぁ、ここからが本当の地獄の始まりですよ(笑)。
北宋の時代、「科挙、どうする?」みたいなことが内政改革の課題になりました。
当時から既に、「試験ばかりしても、実力を判定できないよね」という当然すぎる問題が提起されていました。
「やっぱさあ、ちゃんと学校建ててさ、きちんと教育指導しようぜ。でないと、せっかくの人材を逃してしまう」
「それに、試験に落ち続けたヤツら、王朝への憎悪が酷いから、反乱予備軍を科挙で育成してるよね?」
でも、結局「学校って金食い虫だよね」が勝ちました。
「試験さえやってれば、全国からわんさか志望者が来るんだよ?安上がりじゃん。効率的だよ!」
この役所仕事感!
そういうお役所なノリが、結果として「一発勝負に人生を賭けるしかない狂信者」を大量生産することになるんですよね。
さて、そんな狂ったシステムが、ついに完成形(明・清)へと突入していくわけだけど……。
教育に金を出さず、選別(試験)にだけ情熱を注ぐ国。
これって、一千年前の中国の話……だけじゃない気がするのは、私だけですか?(笑)
次のモンゴル帝国は脳みそ筋肉なので、「科挙?美味しいの?」でした。
学者を社会の底辺に突き落として、指さして嗤っていました。
モンゴル帝国が、中国に寄生する脳みそ筋肉ということがすっかりバレてしまい、また大反乱が起こりました。 そこから中国を統一したのが「明」ですね。
国の名前は「明」だけど、ちっとも明るくない時代。
キチガイ粛清魔が二人も出てきて暴れたり、リアル戦争ごっこでモンゴルの残存勢力の捕虜になったり、女の尻に敷かれて何もできなかったり、政務を放棄して遊んで水に落ちて死んだり、女に絞め殺されかけ薬物ジャンキーになったり、出勤拒否して引きこもって遊ぶだけだったり、亡国プレッシャーでヒステリーを起こしたりと、見ている分には面白いけど、そんな皇帝に仕えたくねえよ!と思いますね。
そんなイカれた皇帝を余所に、民間はもう勝手に繁栄していました。
でも、税金が年々倍々か月々倍々かって勢いで爆上がりして、さすがに民衆がブチ切れて、またまた大反乱!
明、滅亡。皇帝を死に追いやった反乱勢力も、売国奴に先導されてやってきた異民族に瞬殺されてしまいました。
こうして誕生したのが、最後の王朝「清」ですね。
さぁ、いよいよ最後の王朝、清。
ここで科挙は「究極の完成形」を迎えるんだけど、それは同時に、何百万人もの受験生の脳みそを「使い物にならない廃人」に変えちゃう最強の呪いにもなったんだよね……。
第一話を思い出してください。
ぶっちゃけ、今の共通テストとか司法試験が可愛く見えるレベルです。……いや、比較できません(笑)。
だって、四十三万字暗記しても、受かるのは数千人に一人。
受験生は皆、親からも親戚からも期待されているから、とんでもないプレッシャーを負っています。
及第しなければ、「コイツはダメ人間だった。期待した自分がバカだった」って言われますし。
そんな「デスゲーム化した学歴社会」のディテール、第三話もエッセイで紹介していきますよ!
