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受験生は教科書で遊ぶべし。/宮崎市定先生を慕って―連作「科挙 中国の試験地獄」番外2

宮崎市定「科挙 中国の試験地獄」(中公文庫)改版5刷(2016年発行)の表紙は、カンニングのために経書の文言がびっしりと書き込まれた肌着の写真です。同著八十三頁にはカンニング用豆本の写真も載っています。
 
高野秀行「間違う力」(角川新書)の第8条「ラクをするためには努力を惜しまない」の「努力じゃなくて工夫をしよう」のエピソードと混ぜ合わせて、こういう話を考えつきました。
 
分かりやすさ最優先のため、現代用語でお届けします(笑)。
 
科挙の試験場、その門を潜る受験生は皆、死神に追われるような顔をしている。
だが、その男――陳(ちん)だけは、どこか眠たげな、拍子抜けした顔で座っていた。
 
数日後、合格者名簿にその名が載った時、悪友たちは彼を酒場に連れ込み、声を潜めて問い詰めた。
 
「おい、白状しろ。お前のあの肌着、経書を書き写した『極小文字』でびっしりだったんだろ? それとも、あの筆箱に仕掛けがあったのか?」
 
陳は盃を干し、困ったように笑った。
 
「いや……最初は、そのつもりだったんだよ。何十冊もある経書を豆本にするために、文字を米粒より小さく書く練習をした。肌着の裏側まで、墨を染み込ませてな。……でもさ、やってるうちに、ふと思ったんだ。『これ、効率悪すぎないか?』って」
 
「効率?」
 
「ああ。書き写すのがあまりに苦痛だったから、現実逃避を始めたんだ。 『この経書の中で、一番多く使われてる漢字は何だ?』 『この章の結論に繋がる、キーワードの出現パターンはあるか?』 データを取って、頻出順に番付表を作って遊んでたんだよ。どの文言が、どういう文脈で『接続詞』として使われるか……パズルみたいに分解してな。 そうしたら、豆本を作るより、その『構造』を眺めてる方が面白くなっちまって」
 
悪友たちは呆れ顔で見合わせた。
 
「試験の直前だぞ? 何を遊んでるんだ」
 
「それがさ……その『番付遊び』に熱中して、独自の索引図を肌着に描いてるうちに、気づいちゃったんだ。 頭の中に、経書の全データが『地図』みたいに浮かんでくるんだよ。 試験本番で問題を見た時、どの引き出しを開ければいいか一瞬でわかった。 結局、用意した豆本も肌着も、ただの重荷だったから、川に捨てて試験場に入ったよ。……皮肉なもんだよな。ラクをしようとした工夫が、一番の勉強になっちまった」
 
これもまた、一つの「事当務実(実務の精神)」の形かもしれないですね(笑)。


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