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Last Cross — 止まる僕と進む君 第6話 「初めてのデート、最後のデート」

Last Cross — 止まる僕と進む君 第1話   「あたり前が壊れた日」|観察者AiMe
Last Cross — 止まる僕と進む君 第5話  「初めての嘘と初めての温度」|観察者AiMe

土曜日の朝。

隼人は胸の奥がざわついたまま家を出た。

(……今日が…… 莉愛と二人で過ごせる“最後の一日”かもしれない……)

そんな思いが、足を自然と急がせた。

(1分1秒でも長く……莉愛と一緒にいたい……)

莉愛の家の前に着き、

インターホンを押す。

少しして、

寝起きのような、でも嬉しそうな声が返ってきた。

「……隼人くん……?

 え、今日……朝から……?」

玄関が開き、

莉愛が顔を出した。

「放課後に行くつもりだったから……

 着替え、もう持ってるけど……」

隼人「……うん。

 でも……今日は……

 朝から一緒にいたい」

莉愛は一瞬固まり、

頬を赤くして笑った。

「……うん……

 行こっか……隼人くん」

遊園地へ向かう途中──和也からのLINE

スマホが震えた。

和也『おい隼人。

 今日デートだろ?楽しめよ』

隼人『……うん』

少し間があって──

和也『……それとさ。

 莉愛のこと、ちゃんと見てやれよ?

 あいつ、隼人のことになるとすぐ不安になるから』

隼人はスマホを握りしめた。

(……和也……

 やっぱり……優しいな……)

胸の奥が痛む。

(……僕は……

 和也に嘘をついてるのに……)

電車の揺れが、隼人の体を揺らしている。

莉愛が隣で覗き込む。

「隼人くん……?

 どうしたの?」

隼人「……ううん。

 なんでもないよ」

遊園地に着くと、

莉愛は子どものように目を輝かせた。

「わぁ……!

 隼人くん、どれ乗る……?」

隼人「莉愛の乗りたいの、全部乗ろう」

莉愛「……全部……!?

 ふふっ……じゃあ……覚悟してね?」

ジェットコースターで叫び、

お化け屋敷でしがみつかれ、

メリーゴーランドで笑い合い、

写真を撮って、

ゲームでぬいぐるみを取って──

時間が溶けていくようだった。



アトラクションをひと通り楽しんだあと、

二人はお土産屋に入った。

棚には、

遊園地のキャラクターグッズや

カップル向けのアクセサリーが並んでいる。

莉愛が指をさした。

「隼人くん、これ……かわいい……」

そこには、ペアリング が並んでいた。

隼人は思わず息を呑んだ。

(……これ……

 莉愛と……つけたい……)

でも、

その横にあった別の棚が目に入る。

遊園地のヒーローキャラのキーホルダー。

(……和也……

 お前は……僕にとってのヒーローだよ……いつも僕を助けてくれてたんだから)

隼人は二つを手に取った。

莉愛とのペアリング

和也へのヒーローキーホルダー

莉愛「隼人くん……それ……?」

隼人は照れながら笑った。

「……莉愛には……これ。

 和也には……こっち」

莉愛は一瞬固まり、

頬を赤くして微笑んだ。

「……隼人くん……

 それって……」

隼人「……うん。

 観覧車で……つけよう」

莉愛は顔を真っ赤にして、

小さくうなずいた。

ソフトクリーム──手紙につながる記憶

お土産屋を出たあと、

二人はソフトクリームを買ってベンチに座った。

莉愛「隼人くん、ほら……ついてるよ」

隼人「え、どこ?」

莉愛はそっと隼人の頬に触れ、

指でソフトクリームを取った。

その瞬間、

隼人の心臓が跳ねた。

莉愛は自分の指先を見て、

顔を真っ赤にしながら笑った。

「……へへ……

 なんか……恥ずかしいね……」

(……この笑顔……

 絶対に……忘れたくない……)

隼人は胸の奥が熱くなるのを感じた。

その時── 胸に鋭い痛みが走る。

(……時間…… 忘れてた……)

莉愛「隼人くん……? どうしたの?」

隼人「……っ……」

視界が揺れ、音がひとつずつ消えていく。

温かかった体は、抵抗もなく白い水底へ沈んでいった。


白い世界。静かにグラスを拭くマスターの姿が、ぼんやりと浮かび上がる。

隼人は、夢から覚めたようにゆっくり瞬きをした。

隼人「……僕、すっかり忘れてました」

マスター「ええ、存じております。ずいぶんと楽しんでおられたご様子だ。あなたは今日、確かに“選んで”おられましたよ」

隼人「……選んだ……?」

マスター「ええ。私はあなたの答えを見届けさせていただきましょう」

マスターは静かに微笑む。

白い光がゆっくりと薄れ──
──現実の色が戻る。

「隼人くん!! 隼人くん!!……」

目を開けると、 さっきまで隣で笑っていた莉愛が、 今は泣きそうな顔で僕を覗き込んでいた。

「隼人くん…… やっぱり最近調子悪いんじゃ……  

無理しないでもう。帰ろ……?」

まだ午後の光。 ソフトクリームの甘い匂いが残っている。

隼人はゆっくり息を吸う。
胸の奥に、白い世界の名残がまだ微かに残っていた。

(……戻ってきた……  まだ……終わってない……)

隼人はぎゅっと一瞬だけこぶしを握り、すぐに力を緩めた。

「……大丈夫。  ちょっと……ぼーっとしただけ」

莉愛は不安そうに眉を寄せる。

「ほんとに……?」

隼人は微笑んで、 そっと莉愛の手を握る。

隼人はポケットの中にある指輪に静かに触れると莉愛の目を見つめる。

「……うん。  観覧車……行こ?」

莉愛の表情が、 安心と照れの混ざった色に変わる。

「……うん……行こ……隼人くん」

観覧車に乗ると、

世界がゆっくりと上がっていく。

外の景色は夕焼けに染まり、街が金色に沈んでいった。

隼人の指先は、 ポケットの中の小さな袋── その中にある“二人のリング”の重みを確かに感じていた。

隼人はそっとその小さな袋を取り出した。

「……莉愛。

 これ……」

莉愛は目を丸くした。
「……え……
 これ……リング……? ほんとに……」

隼人「……うん。
 つけても……いい?」

莉愛は震える声で答えた。

「……うん……
 つけて……隼人くん……」

鼓動は早鐘を打ち、 観覧車の中だけが、世界から切り離されたように静まり返った。

隼人は息をひとつのみ込み、 震えそうになる指先をそっと伸ばす。

ゆっくりと── 本当にゆっくりと、莉愛の左手を取った。

そして、 長い時間をかけるように薬指へリングをはめた。

莉愛は涙をこらえながら笑った。

莉愛はそっと隼人の手を取った。 その瞬間、指先から伝わる震えが、 まるで自分の鼓動みたいに隼人の胸へ響いてくる。

莉愛はゆっくり── 本当にゆっくりと、隼人の薬指に同じリングをはめた。

二人は照れながら、
でも確かに“夫婦みたいに”笑い合った。

(……これが……
 僕たちの……結婚式……)

観覧車の頂上。

夕日が二人を包む。

隼人は、
莉愛の顔を見つめながら言った。

「……莉愛。
 僕……
 君のこと……
 本当に……大切に思ってる」

莉愛は涙を浮かべながら微笑んだ。

「……隼人くん……
 私も……だよ……」

二人はどちらともなくゆっくり顔を近づけた。
莉愛も目を閉じる。

そして──
コツン。

歯が当たった。

二人とも一瞬固まり、 次の瞬間、同時に小さく息をのんだ。

莉愛の頬がみるみる赤く染まり、 隼人も思わず視線をそらす。 観覧車の静けさだけが、二人の間に落ちた。

「……ご、ごめん……!」
「わ、私こそ……!」

気まずい沈黙。

でも──
隼人は勇気を出して、
もう一度そっと顔を近づけた。

今度はゆっくり、
確かめるように。
二人の唇が触れた。
世界が静かになった。

(……あぁ…… 僕は…… 莉愛に……残したい……)

隼人は時間をかみしめるように目をつむった。

観覧車を降りた後夢心地のまま、二人は海の見えるベンチに座る。

夜の風は火照った隼人の体を少しだけ冷やしてくれた。

「莉愛…… 僕本当に今日楽しかったよ」

莉愛は隼人の目をぼーっとした表情で見つめた後頷いた。

「私も!! ……隼人くんがいてくれるだけで、いつも楽しいけど ……今日は記念日にもなったから…… 余計と……」

莉愛は恥ずかしそうに下を向いた。

そんな莉愛を見て耐えきれずに隼人は抱きしめた。

「は、隼人くん!? ……みんな見てるよ?」

莉愛はその後も何か言おうとしていたが声は次第に聞こえなくなり隼人を優しく抱きしめるように腕を回した。

「莉愛…… 今までありがとう…… 僕は莉愛がいてくれて幸せだった」

言葉は隼人の口から自然と漏れ出していた。

隼人は、言葉にしてしまえば本当に終わってしまう気がして、 それ以上は何も言えなかった。

莉愛はその言葉に一瞬体をこわばらせたがすぐにその力は抜けた。

「うん…… 私も…… 隼人くんがいてくれて…… 幸せだよ ……これからももっといっぱい思い出作ろうね」

その言葉に答える代わりに隼人は少しだけ強く莉愛を抱きしめた。

その後二人は電車に乗り込んだ。

揺れる電車の中で隼人の肩で眠る莉愛の温度は、隼人の体にしみこんでいくようだった。

駅につくと二人は手をつなぎながら外へ出る。

駅につくと二人は手をつなぎながら外へ出る。 夜の街はもう静かで、遠くで車の音がかすかに響いていた。

「……隼人くん、今日はほんとにありがとう」 莉愛は眠気の残る声で笑った。 その笑顔が街灯に照らされて、少しだけ大人びて見えた。

「ううん……こっちこそ。  莉愛と一緒にいられて……本当に幸せだったよ」

隼人の声は穏やかだった。 けれど、その穏やかさの奥にある“終わりの気配”に、 莉愛は気づかない。

二人は家へ向かう道をゆっくり歩いた。 手をつなぐ指先が、離れないようにと願うように絡む。

家の前に着くと、莉愛は名残惜しそうに隼人を見上げた。

「……ねぇ隼人くん。  また……遊園地行こうね。  今日みたいに……いっぱい笑って……」

隼人は一瞬だけ目を閉じた。 その一秒が、永遠のように長く感じられた。

「……うん。  莉愛が望むなら……いつでも」

言葉は優しいのに、 どこか遠くへ消えていきそうな響きだった。

莉愛は気づかないまま、そっと隼人に抱きついた。

「おやすみ、隼人くん。  ……大好きだよ」

隼人はその言葉を胸の奥で噛みしめるように受け止めた。 そして、抱きしめ返す腕にほんの少しだけ力を込めた。

「……おやすみ、莉愛」

腕を離した瞬間、 夜風が二人の間に静かに流れ込んだ。

莉愛が家の中へ入っていく。 扉が閉まる直前、隼人は小さく微笑んだ。

扉が閉まる音が、 隼人の胸の奥で“最後の区切り”のように響いた。

隼人はしばらくその場に立ち尽くし、 ゆっくりと夜空を見上げた。

「……ありがとう、莉愛」

誰にも届かない声で、 そっと呟いた。

家に着くと、昼間の喧騒は嘘のような静けさが部屋を占拠していた。

机の引き出しを開ける音だけが響く。

隼人はレターセットを取り出した。

2枚の手紙。

そこに隼人はペンを載せた。

Last Cross — 止まる僕と進む君 第7話 「伸ばした手は」|観察者AiMe

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