Last Cross — 止まる僕と進む君 第2話「薄れていく世界」
Last Cross — 止まる僕と進む君 第1話 「あたり前が壊れた日」|観察者AiMe
朝。 隼人は、昨日と同じ時間に目を覚ました。
布団から出て、 洗面所へ向かい、 顔を洗い、 歯を磨く。
昨日と同じ動作。 でも、昨日とは違う。
匂いが、味気ない。
洗面台の鏡に映る自分を見た瞬間、 胸の奥がひやりと冷えた。
(……生きてる感じがしない)
昨日と同じ顔。 昨日と同じ髪。 昨日と同じ自分。
なのに、鏡の中の自分だけが、 どこか“薄い”。
(……何も変わってないのに)
そう思った瞬間、胸がきゅっと締めつけられた。
学校に着くと、 いつものようにクラスメイトが声をかけてくる。
「おはよー隼人!」
「おはよ」
和也が近づいてきて、 隼人の顔を覗き込む。
「なんだよ、いつもより元気ねぇじゃん。 昨日遅くまでゲームでもしてたのか?」
莉愛がすかさず言う。
「隼人くんはそんなことする人じゃないですー」
そして、心配そうに一歩近づく。
「……なにかあった?」
隼人は苦笑いでごまかす。
「いや、なんもないよ。 なんか昨日、寝つけなくてさ。あはは」
莉愛はまだ納得していない顔をしたが、 その場はそれで流れた。
昼休み。 3人で机を寄せて弁当を食べていると、 近くの席からクラスメイトの声が聞こえてきた。
「来週の中間テストどうする?」 「体育祭の準備もあるしなー」 「夏休み、どこ行く?」
隼人の手が止まる。
(……来週…… 僕には、もう……)
箸が震えた。
和也が気づいて、 隼人の肩を軽く叩く。
「おい隼人、どうした? 腹でも痛いのか?」
隼人は慌てて笑う。
「なんでもないよ。 ……和也、汗くさい」
「嘘だろ!?」
莉愛が鼻をつまんで冗談っぽく言う。
「ほんとに汗くさいかも〜」
「おいおい、この俺が汗くさいなんて事件じゃねぇか!」
和也は鞄からデオシートを取り出し、 「ちょっと待ってろ!」とトイレへ走っていった。
二人きりになった瞬間、 莉愛が小さな声で言う。
「……隼人くん。 本当に、なんでもないの?」
隼人は視線をそらす。
「うん。大丈夫。 ちょっと寝不足なだけ」
莉愛は納得していない。 でも、無理に聞こうとはしなかった。
和也が戻ってきて、 昼休みはいつものように終わった。
帰り道。 3人で歩いていると、 隼人はふと、 昨日の出来事が頭をよぎった。
(……Last Cross…… 本当にあったのかな……)
気づけば、 口が勝手に動いていた。
「ねぇ……二人とも。 “Last Cross”って喫茶店、知ってる?」
和也が眉をひそめる。
「は? なんだそれ。 聞いたことねぇぞ」
莉愛も首をかしげる。
「ラスト……クロス? そんな名前の喫茶店、この辺にあったっけ?」
隼人は笑ってごまかす。
「……そっか。 なんか昨日、夢で見た気がしてさ。 変な名前だよね、あはは」
和也 「お前ほんと寝不足なんじゃねぇの?」
莉愛 「隼人くん、今日は早く寝たほうがいいよ?」
隼人 「……うん。そうするよ」
二人は本気で心配してくれている。 それが逆に胸に刺さった。
(……やっぱり、夢じゃない)
胸の奥がざわつく。
夕方の光が、 どこか遠く感じる。
(……この時間も、もう終わるんだ)
和也の声が遠い。 莉愛の笑顔が滲む。
そして──
発作が来た。
視界が揺れ、 足元がふらつき、 世界が白く染まる。
白い光が視界を覆い、 気づけば隼人は、 昨日と同じカウンターの前に立っていた。
「……また……ここ……?」
マスターは静かに頭を下げる。
「いらっしゃいませ。」
隼人 「……夢じゃなかったんだ……」
マスターは、 ゆっくりとブラックコーヒーを置いた。
隼人 「わからないよ…… いきなり死ぬなんて言われても…… どうすればいいかなんて……」
マスター 「それを決めるための、残り6日間です。」
隼人 「……決めるって……何を……?」
マスターは隼人の前にコーヒーを押し出し、 問いかけるように言った。
「あなたにとって大事なことは、なんなのでしょうか?」
「ただ時間をむさぼるだけでしょうか? 勉強をすることでしょうか? それとも…… 和也くんや莉愛さんとの時間なのか?」
隼人の胸が痛む。
マスターは続ける。
「あるいは、 口には出さずに心配しているご家族なのかもしれません。」
隼人は目を伏せる。
マスター 「私にはわかりません。 でも── あなたの心が求めているものは、 あなたが一番感じているのではないのでしょうか?」
隼人は、 コーヒーの湯気を見つめながら、 小さく息を吐いた。
(……僕が……求めているもの……)
白い光が再び隼人を包む。
気づくと、 隼人は現実世界の道端に立っていた。
「隼人!? 大丈夫かよ!」
「隼人くん……顔真っ青……!」
隼人 「……うん。 ちょっと立ちくらみしただけ……」
でも胸の奥では、 マスターの言葉がずっと響いていた。
(……僕が……求めているもの……)
