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知るメモ|【シャトレーゼ】|地方の食品メーカーが、何故再生ビジネスを始めたのか?~総合ホスピタリティ企業への変身!

「シャトレーゼ」と聞いて何を想像するでしょうか?
安くて美味しいケーキやアイスクリームなど、私たちにとって「シャトレーゼ」は、生活に密着した身近なスイーツメーカーとしてのイメージが定着しています。

しかし、そのシャトレーゼが現在、日本各地で経営破綻したホテルやリゾート施設を次々と買収し、見事に再生させている「凄腕のホテル再生請負人」としての顔を持っていることはご存知でしょうか。
北海道の「ガトーキングダム サッポロ」に始まり、近年では佐賀県の「唐津シーサイドホテル」、山梨県の老舗「談露館」、そして広島県の旧グリーンピアせとうちを「ガトーキングダム せとうち」としてリブランドするなど、その勢いはとどまることを知りません。
長野・山梨にゴルフ場やスキー場を運営していたりもします。

なぜ、山梨の地方菓子メーカーが畑違いに思える「ホテル・リゾート運営」という再生ビジネスに乗り出したのでしょうか?
そして、厳しいと言われるホテル業界において、なぜ次々と黒字化を達成できるのでしょうか?
今回は、シャトレーゼの歴史から紐解き、製造業のノウハウをサービス業に持ち込んだ独自のビジネスモデル、そして総合ホスピタリティ企業へと変貌を遂げたその全貌を、ビジネス戦略や経済の視点も交えながら詳しく解説していきます。


第1章 山梨・甲府の小さな今川焼き屋から始まった物語

たった4坪の菓子屋からのスタート

シャトレーゼの歴史は、1954年(昭和29年)、山梨県甲府市のオリオン通りという商店街にさかのぼります。
当時はまだ「甘太郎(あまたろう)」という屋号の、今川焼き風のお菓子専門店でした。
シャトレーゼはここから現在に至るまで、創業者で会長であった「齊藤寛(さいとうひろし)」氏が、1934年山梨で生まれ、2024年90歳で亡くなるまで、たった一代で築き上げた歴史です。

戦後間もないその頃、砂糖はいまだ統制品(国が管理・配給する物資)に近い存在で、多くのお菓子屋さんはサッカリンやズルチンといった人工甘味料を使って商品を作っていました。
しかし甘太郎は、北海道産の小豆と本物の上白糖にこだわり、焼きたての商品を実演販売。
それが「本物の味」として評判を呼び、朝から行列ができるほどの人気店になったといいます。

ただ、焼きたてを売りとする今川焼きには致命的な弱点がありました。
夏になると売り上げがガクッと落ちてしまうのです。


アイスで痛い目に遭い、シュークリームで奇跡を起こした

「夏にも売れるものを」と目をつけたのが、冷たいアイスクリームでした。
齊藤氏は1964年、故郷の東山梨郡勝沼町(現・甲州市)に「大和アイス株式会社」を設立し、アイスクリームの製造販売に参入します。

しかしこれが、想像以上の苦戦を強いられます。
アイスクリーム業界はすでに全国に販売ネットワークを持つ大手メーカーが牛耳っており、新参者が入り込む余地はほとんどありませんでした。
そのため、設備投資の負担が重くのしかかり、資金繰りに奔走する日々が続いたといいます。

追い詰められた齊藤氏が目をつけたのが、「大手ができないこと」でした。
当時の大手メーカーは、日持ちするものを大量生産によって全国で販売するといったものが中心で、傷みやすく日持ちのしない生菓子にはあまり手を出していませんでした。
そこで1967年、低コストで衛生的なシュークリームの製造に乗り出します。

当時のシュークリーム1個の相場が50円だったところを、アイスクリーム製造で培った技術を活かしてその約5分の1の価格の「10円」で提供。
冷蔵庫のある小売店がまだ珍しかった時代に「1日50万個」もの大ヒットになったといいます。

この「大手ができないことをやる」「安くておいしいものを届ける」という姿勢が、その後のシャトレーゼのDNAになっていきます。


「ぶどうの城」という社名の意味

1967年、甘太郎と大和アイスが合併し、「シャトレーゼ」という会社が誕生しました。
社名の「シャトレーゼ」の由来は、フランス語で城を意味する「シャトー(Château)」と、ぶどうを意味する「レザン(Raisins)」を組み合わせた造語で、「ぶどうの城」を意味します。
ぶどうの産地として有名な山梨らしいネーミングです。

その後シャトレーゼは、1980年代から首都圏を中心にフランチャイズ展開を本格化させます。
1986年、千葉県の国道16号沿線に工場直売店1号店をオープン。
ちょうど中央自動車道が全線開通した時期とも重なり、全国各地から出店申込が相次ぎ、郊外型チェーンとして急速に全国へと広がっていきました。
ここで大きな特徴を発揮したのが、「問屋を通さない工場直売店」というビジネスモデルです。
アパレル業界でユニクロなどが取り入れている「SPA(製造小売業)」モデルを、洋菓子業界でいち早く実現したのです。
一般的な食品の流通では、メーカーが卸売業者(問屋)に売り、問屋が小売店に売るという多段階の流通経路をたどります。
しかし、この多段階の流通構造では中間マージンが発生し、商品の価格が高くなってしまいます。
また、店頭に並ぶまでに時間がかかるため、鮮度も落ちてしまいます。
シャトレーゼはその中間業者を全てカットし、自社工場から直接フランチャイズ店舗に商品を届けることで、圧倒的な低価格を実現しました。
さらに、卵や牛乳、フルーツといった原材料も、契約農家から直接仕入れる「ファーム・ダイレクト」を徹底しています。
これにより、中間コストを極限までカットし、「高品質なものを、より安く」提供できる圧倒的なコスト競争力を手に入れました。

しかも、他のフランチャイズチェーンとは大きく異なる点がひとつあります。
多くのフランチャイズでは加盟店オーナーから売上の数%をロイヤリティとして徴収しますが、シャトレーゼはロイヤリティを一切取らない方式を選びました。
シャトレーゼ自体が製造メーカーですから、その販売商品をフランチャイズの店舗に卸すことで、売れれば売れるだけ利益が取れるからです。
加盟店が稼ぎを本部に吸い取られる構造ではなく、ビジネスパートナーというスタンスを貫いたのです。


第2章 なぜ菓子メーカーがリゾート事業に? 最初の一歩

2000年代、異業種への「最初の越境」

2000年代に入ると、シャトレーゼは菓子販売の規模拡大と並行して、まったく異なる分野への進出を始めます。
その最初のきっかけは、北海道での動きでした。

2000年、北海道夕張郡栗山町に「シャトレーゼカントリークラブ札幌(現・シャトレーゼカントリークラブ栗山)」をオープン。
これがシャトレーゼにとって、レジャー・リゾート事業の最初の一歩でした。

ここで重要なのは、この施設は元々経営が破綻していたゴルフ場を買収・再生したものだということです。
最初から「安く仕入れて、価値を加えて再生する」という形式だったのです。
これはその後のシャトレーゼのリゾート戦略の原型となっていきます。


バブル崩壊の落とし子「札幌テルメ」を拾い上げる

シャトレーゼのリゾート事業を語るうえで、絶対に外せないのが「ガトーキングダムサッポロ」の誕生です。

話はバブル経済の時代に遡ります。
1980年代後半、北海道拓殖銀行(通称・拓銀)から巨額の融資を受けたソフィア中村グループ(通称:ソフィア)という企業グループが、ヨーロッパの高級リゾート施設を参考に「札幌テルメ」という大型クアハウス(温浴施設)と「テルメインターナショナルホテル」を次々と開業しました。
クアハウスとは、ドイツ語で「健康浴場」を意味し、温浴・水着でのプール・サウナなどを複合した健康型リゾート施設です。

北海道拓殖銀行 は、元々「北海道開発のため」に作られた特殊銀行です。
企業だけでなく、自治体や個人まで全部が拓銀と関係してように、北海道経済そのものだったと言っていいレベルです。
しかし1997年、その北海道拓殖銀行が経営破綻します。
拓銀は北海道経済の中心だったので、メインバンクを失った企業が資金繰り不能になりました。
この影響をもろに受けたソフィアの関連会社も翌1998年に次々と破産宣告を受け、施設は突然の閉鎖に追い込まれます。

その後、売却先を探して数年が経過しましたが、バブル後の不況の中でなかなか買い手がつきません。
複数の企業との交渉もことごとく実現せず、最終的に整理回収機構(不良債権を回収するための公的機関)の申し立てにより競売にかけられることになりました。

そこに現れたのがシャトレーゼです。
2001年の再入札で、なんと14億1,650万円という価格で落札しました。
バブル期に建設された「札幌テルメ+テルメインターナショナルホテル」は数百億円規模が投じられた巨大開発リゾート施設でしたが、それを当時の時価から考えると驚くほどの低価格での取得でした。

施設の改修を経て、2002年7月に「シャトレーゼ ガトーキングダムサッポロ」として再オープン。
「ガトー(Gâteau)」はフランス語でお菓子を意味し、「お菓子の王国」というコンセプトでリニューアルしました。
ただ、シャトレーゼはこの施設を「お菓子の街」をテーマにしたテーマパークに発展させる構想を持っていましたが、周辺地域が市街化調整区域(建物の建設が制限される土地)だったため、交渉が進まず計画は大幅に縮小されることになります。


第3章 八ヶ岳・長野への展開と「シャトレーゼリゾート」の誕生

長野・小海の複合リゾートを丸ごと手に入れる

北海道の成功に続き、シャトレーゼは2004年、長野県南佐久郡小海町にある「小海リゾートシティ・リエックス」を買収します。
この施設は川鉄商事(現・JFE商事)系列の会社が運営していたゴルフ・スキー・宿泊の複合リゾートで、やはり経営が行き詰まった施設でした。

また同時期、長野県南佐久郡川上村にある「八ヶ岳ザイラーバレースキー場」も取得し、「シャトレーゼスキーリゾート八ヶ岳」としてリニューアルオープン。
この2拠点を中核に、長野・山梨・静岡エリアを担当するリゾート運営会社「シャトレーゼリゾート八ヶ岳」が設立されました。

八ヶ岳山麓というロケーションは、シャトレーゼにとって単なるリゾートの場所以上の意味があります。
というのも、シャトレーゼの主力工場のひとつである「白州工場」(山梨県北杜市)や「野辺山高原」はこのエリアに位置し、新鮮な食材の宝庫でもあるからです。
近隣の契約農家から仕入れる搾りたてのミルク、生みたての卵など、こうした素材がスイーツに使われ、リゾート内のカフェやレストランでも活かされていくことになります。


バウムクーヘン工房が「年間1億円」を生み出す仕組み

この頃から、シャトレーゼのリゾート施設に独自のコンテンツが加わり始めます。
その代表例が「バウムクーヘン工房」です。

2021年8月、長野県小海町に「YATSUDOKI TERRACE 小海」とバウムクーヘン工場が同時オープン。
ここではバウムクーヘンの焼成工程をガラス越しに見学でき、焼きたてのバウムクーヘンを使ったスイーツをカフェで味わえます。
「できたてのバウムクーヘンの焼成工程を間近で見学できるのは世界初」とも言われました。

さらに山梨県笛吹市(石和温泉)にある「シャトレーゼホテル石和」にも、バウムクーヘン工房が設置されました。
このバウムクーヘン工房は、年間約1億円の売上を記録するほどの人気コンテンツになったと報告されています。
ホテルの付帯施設が1億円の収益を生む。これはホテル業界では驚異的な数字です。

お菓子メーカーならではの「体験型コンテンツ」として、見るだけでなく購買にも直結する施設を作り上げたのが、シャトレーゼ流の発想といえるでしょう。


第4章 コロナ禍が生んだ「再生ビジネス」の加速

コロナ禍でホテル業界に押し寄せた「廃業の波」

2020年から始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、観光業・ホテル業界に壊滅的な打撃を与えました。
国内外からの旅行者が激減し、特に地方の温泉旅館やリゾートホテルは長期にわたって客足が途絶えました。

同時に、それまで水面下に潜んでいた「後継者問題」をも浮き彫りにしました。
地方の旅館・ホテルのオーナーが高齢化する中で、もともと後継者に引き継ぐ体力がなかったところへコロナ禍の打撃が重なり、廃業や売却を選ばざるを得ない施設が全国で急増したのです。


シャトレーゼへの「買い取ってほしい」という相談が殺到

こうした流れの中で、シャトレーゼホールディングスへの相談が相次ぐようになりました。
「施設を買い取って、再生してほしい」というSOSが、全国各地から持ち込まれるようになったのです。

注目すべきは、シャトレーゼ側が積極的に買収先を探し回ったわけではないという点です。
報道によれば、「基本的には相談が持ち込まれたなかで再生可能と見込まれる物件を取得」するというスタンスで、あくまでも受け身の姿勢が基本だったようです。

それでもシャトレーゼが選ばれ続ける理由は、過去20年にわたるリゾート再生の実績と、「シャトレーゼブランド」の力が業界で認知されていたからでしょう。


具体的な買収実例を見てみましょう。

山梨県笛吹市・シャトレーゼホテル石和(2022年リブランド)
石和温泉は山梨県を代表する温泉地です。
既存の温泉旅館をシャトレーゼグループが取得し、バウムクーヘン工房やワンコインワインサーバーなど独自のコンテンツを加えてリブランド。
石和温泉駅から徒歩約7分の好立地もあり、愛犬同伴OKの客室なども整備されました。

山梨県甲府市・シャトレーゼホテル談露館(2023年取得)
1887年(明治20年)創業で、かつての建物では伊藤博文、原敬など歴代首相も宿泊したとされる老舗ホテル。
1980年に旅館からホテルに業態転換後は、他社ホテルの増加やコロナ禍で赤字経営が続いていたところを、2023年6月にシャトレーゼが取得・子会社化されます。
現在の従業員を引き継ぎながら、カフェやワイナリーとの連携も含めた再建が進められています。
これがシャトレーゼにとって国内10カ所目のホテルになりました。

佐賀県唐津市・唐津シーサイドホテル(2023年12月取得)
1936年に創業の、日本政府が外国人向け洋風ホテルとして整備した施設の一つ。
戦後は進駐軍の軍人や家族向けの保養所として運営された。
その後ホテルとしての営業を再開し、一時DHC創業者の吉田氏が代表を務める会社が経営していて、そこでリニューアルや新たに採掘し温泉をオープンさせた。
2023年12月にシャトレーゼが取得。
玄界灘に面したロケーションが魅力の海辺のホテルで、11カ所目の取得事例となりました。

2023年末時点でシャトレーゼが傘下に収めたホテルは11カ所。山梨県内に4施設、長野県内に3施設、北海道に2施設、そして佐賀・その他を含めた全国への展開となっています。


第5章 「シャトレーゼ式再生」の方程式とは何か

強みは「スイーツ×割安感×体験」

シャトレーゼのホテル再生には、他のホテルコンサル企業やファンドによる再生とは明らかに違う「独自の方程式」があります。

① 遊休スペースを「お菓子の体験」で埋める

既存のホテルには、使いきれていない空間や、客が素通りしてしまうような廊下・ロビースペースが少なくありません。
シャトレーゼはそこにバウムクーヘン工房、YATSUDOKI TERRACEのようなカフェ・スイーツコーナーを組み込みます。
単なる物販ではなく「見る・作る・食べる」という体験型の仕掛けで、客を館内に引き留め、消費を生み出す動線を作るのです。

レジャー産業の専門誌によると、シャトレーゼのホテル担当者は「幅広い顧客層に対応した独自のコンテンツでバリューアップを図ることから、ホテルにはシャトレーゼの要素を入れる余白が必要」と語っています。
物件選定の際、遊休スペースがあるかどうかが重要な判断基準になっているというわけです。


② 「同じ価値で3割安く」という本業の哲学をホテルにも応用

シャトレーゼはお菓子の世界で長年、「同じ品質なら大手より安く」という姿勢を貫いてきました。これをホテル事業にも持ち込んでいます。
食材は年間使用量をまとめて生産者から直接仕入れることでコストを削減。
利益率の高い製造業(お菓子づくり)の仕組みと組み合わせて、労働集約型であるホテル業の利益率を高める戦略を進めているといいます。

  • 調達の合理化とスケールメリット:
    ホテルのレストランで提供する食材は、シャトレーゼグループ全体(全国約1000店舗の菓子店、ゴルフ場、ワイナリーなど)の購買網を活用して一括調達します。
    年間使用量を担保して生産者から直接仕入れることで、高級食材であっても仕入れコストを劇的に(時に3割以上も)引き下げることができます。

  • 品質監査と標準化:
    M&Aで買収した古いホテルは、往々にしてスタッフの意識低下や施設の老朽化による「品質のブレ」を抱えています。
    シャトレーゼは自社の工場で培った厳格な品質管理や衛生管理のノウハウをホテル運営に適用し、業務の標準化を図ることで、無駄なコストを省きつつサービスの質を安定させました。


ターゲットとするポジションを、業界では「手の届くプレミアム」と表現しています。

  • 笑顔が絶えない「スイーツ推し」の顧客体験(CX)
    シャトレーゼが運営するホテル(ガトーキングダムなど)に宿泊すると、他のホテルでは考えられないような体験が待っています。

    • ウェルカム・スイーツビュッフェ: チェックインと同時に、シャトレーゼの美味しいケーキや焼き菓子が並ぶビュッフェでお出迎え。

    • 温泉上がりのアイス無料: 大浴場の入り口にはアイスの冷凍庫が置かれ、シャトレーゼの定番アイスが食べ放題。

    • 夕食・朝食のデザートバイキング: 食事の最後には、自社工場から直送された色とりどりのスイーツや自社のワイナリーで醸造されたワインが並びます。

  • ターゲット層の完全な一致
    この戦略の秀逸な点は、「シャトレーゼの店舗のお客さまと、ホテルのターゲット客層が完全に一致している」という点です。

    • 菓子店としてのシャトレーゼの主な客層は、ファミリー層や女性です。
      そして、休日や長期休暇にホテルやリゾートを利用してレジャーを楽しむ層も、まさに同じファミリー層です。

    • 全国に約1000店舗あるシャトレーゼのお店を利用するお客様は、シャトレーゼの味やブランドに親しみと安心感を持っています。
      そのお客様たちが、「シャトレーゼが運営しているホテルなら間違いない」「あのアイスやケーキがホテルでたくさん食べられるなら行ってみたい」と、強力な見込み客へと変わるのです。

特に女性や子どもにとって、これほど嬉しいサービスはありません。
滞在中、至る所でシャトレーゼの強みである「甘い魔法」が散りばめられており、顧客体験(CX)は圧倒的なものになります。
高級ホテルほどではないけれど、スイーツや食事の内容に対してコストパフォーマンスが高いと思ってもらえる。
「この価格でこれほどの体験ができるのか」という顧客満足度を飛躍的に高めることに成功しているのです。


③ 従業員の雇用を守る「地域へのコミット」

買収にあたって、シャトレーゼは既存の従業員の雇用を基本的に継続しています。
これは単なる社会貢献ではなく、地方の旅館・ホテルを運営する際に「地域に根ざした人材」がいかに重要かを知っているからでしょう。
温泉地の旅館には長年の常連客とのつながり、地域独自の文化とホスピタリティがあります。
それをゼロから作ることはできない。だから人材ごと引き継ぐことで、施設のDNAを守りながら収益構造だけを改善していく手法をとっています。


「多くが黒字化」という成果

日本経済新聞などの報道によると、シャトレーゼが再生を手がけたホテルの「多くで黒字化を実現した」とされています。
これは決して簡単なことではありません。ホテル業界では再生ファンドが買収しても赤字が続くケースが多く、そこにシャトレーゼのような食品メーカーが異業種から参入して黒字化を達成しているのは注目に値します。


第6章 「総合ホスピタリティ企業」への変身。

グループが手がけるリゾートの全貌

2024年時点で、シャトレーゼホールディングスのグループが運営するリゾート・レジャー施設は、ホテルだけでなく多岐にわたっています。

  • ホテル・リゾート
    ガトーキングダムサッポロ(北海道)、ガトーキングダム小海(長野)、シャトレーゼホテル石和・談露館・にらさきの森・旅館富士野屋(山梨)、シャトレーゼホテル長野・野辺山(長野)、シャトレーゼホテル栗山(北海道)、唐津シーサイドホテル(佐賀)など

  • ゴルフ場
    国内約20カ所(一部オーストラリアにも展開)

  • スキー場
    シャトレーゼスキーバレー小海、シャトレーゼスキーバレー野辺山など2カ所

  • ワイナリー
    シャトレーゼベルフォーレワイナリー(山梨県甲府市)、シャトレーゼベルフォーレワイナリー勝沼ワイナリー(山梨県甲州市)

こうしてみると、「お菓子屋さん」という範疇をはるかに超えた規模感です。


菓子事業も1000店舗を突破

本業の菓子販売も着実に成長し、2024年には国内外合わせて1000店舗目となる横浜鴨居店が開業しました。
海外はシンガポール、マレーシア、香港、インドネシア、タイ、ベトナム、アラブ首長国連邦など幅広い国・地域に展開。
2012年にはオランダの菓子メーカー「Maitre Paul社」もグループに加わって、ヨーロッパでのブランド展開を担っています。

国内の商品ラインナップも進化しており、2019年には高価格帯のプレミアムブランド「YATSUDOKI(ヤツドキ)」が誕生。
銀座に1号店を出店し、ギフトニーズにも対応する新しいポジションを獲得しています。


亀屋万年堂・さかえ屋との連携

リゾートや海外展開だけでなく、国内菓子業界の再編にも一役買っています。
2015年には福岡県の老舗菓子メーカー「さかえ屋」、2021年には自由が丘発祥の和菓子の老舗「亀屋万年堂(ナボナで有名)」がシャトレーゼグループに加わりました。
経営難の菓子メーカーを再生するという文脈では、ホテル再生と同じ発想が働いています。


第7章 課題と展望「お菓子の城」はどこへ向かうのか

課題:施設の老朽化とサービス品質のばらつき

もちろん、順風満帆な面ばかりではありません。
シャトレーゼが再生を手がけたホテルの口コミを見ると、「全体的に評価はいい半面で、一部のホテルの評価がばらついている」という指摘もあります。

特に、もともと老朽化していた施設を低予算で再生する場合、ハード(建物・設備)の改修に限界があり、「設備が古い」という声が出てくることがあります。
また、雇用を引き継いだ既存スタッフと新しいシャトレーゼのサービス哲学をどう融合させるかという、いわゆる「人の問題」も、ホテル再生では常につきまとう課題です。

シャトレーゼが本業で磨いてきた「製造業の効率化」の発想は強みである一方、ホスピタリティには数値化しにくい「人の温かさ」という要素も重要です。
この2つをどう融合させていくかが、今後の鍵になるでしょう。


なぜシャトレーゼは株式上場(株式公開)していないのか

知名度もあるこの企業が、資金を集めるために株式上場しないのはなぜなのでしょうか?

まず、本業の菓子販売が非常に高い利益率を持っていること。
問屋を通さない「工場直売」モデルは中間コストを省くため、菓子製造業としての収益基盤が強固です。
その潤沢なキャッシュが、様々な買収・再生の原資となっています。
次に、創業者・齊藤寛会長の「お客様に喜ばれる経営」「お取引先様に喜ばれる経営」「社員に喜ばれる経営」という「三喜経営」の哲学によるところも大きいです。

実は10年ほど前(2010年代頃)、株式上場を真剣に検討したことがあったとのこと。
斎藤氏は「昔の人間で、上場して一人前の会社になるという感覚があった」として、幹事の証券会社まで決めて準備を進めていました。
しかし直前でやめてしまったのです。

「上場すると、株価を上げたり配当を増やしたりすることを考えなければいけなくなる。お客様よりも株主が一番になってしまうことを懸念した」
というのが自身の言葉です。
つまり、「三喜経営(お客様・取引先・社員に喜んでもらう)」という創業以来の哲学と、上場企業が避けられない「株主第一主義」が根本的に相容れないと判断したわけです。
四半期ごとに株主へ利益を示さなければならない上場企業の論理とは確かに噛み合いにくい面があります。

サントリーの創業家の佐治信忠氏やその一族、YKKの創業者の吉田忠雄氏など、日本には同じ理由で意図的に非上場を続けている大企業が他にもあり、シャトレーゼはその代表例のひとつです。


影の部分も・・・2025年、下請法違反問題が明るみに

公正取引委員会が2025年3月27日に発表した内容は、シャトレーゼが下請法(下請代金支払遅延等防止法)に違反していたというものです。

具体的には、洋菓子などに使う包装資材や香料の製造を下請け業者11社に発注していたにもかかわらず、シャトレーゼは完成した商品を「必要になった都度に一部だけ受け取る」という慣行を続け、残りについては納入日を過ぎても受け取りを拒否し、下請け業者の倉庫に無償で保管させていました。

受領拒否した商品の総額は、2024年12月時点で約2,383万円分。
そのうち発注書上の仕上がり日から1年以上が過ぎていたものが約1,300万円相当に上り、消費期限が切れるなどで廃棄を余儀なくされた商品も出ていたといいます。

公正取引委員会はシャトレーゼに対し、
①受領していない商品を引き取ること
②受領できない場合は代金を支払うこと
③保管費用を支払うこと
④下請法の遵守体制を整備すること——の4点を勧告しました。

シャトレーゼは公式サイトで謝罪文を掲載し、古屋勇治社長は「当社の下請法に関する知識の不足、並びにリスクの抑制・モニタリングの不備に起因するものと大変重く受け止めている」とコメント。
この慣行は業界では「仕掛依頼」と呼ばれるもので、20年にわたって続いていたとされています。
この問題を受け、シャトレーゼは取引慣行の全面的な見直しを表明しました。

少し補足しておくと、「下請法」とは大企業が中小の下請け業者に対して不当に不利な取引を強いることを防ぐための法律です。
今回の「受領拒否」とは、下請け業者が完成品を納品しているのに買い取らず、その保管コストも負担しないという行為で、下請け業者に一方的なリスクを押し付けることになります。

この下請法違反問題は、急拡大する企業が直面しがちな「理念と実態のギャップ」を浮き彫りにしました。
「三喜経営」を掲げる企業として、この問題にどう向き合い、取引先との関係を再構築していくかは、今後のブランド信頼に直結します。


◆まとめ

「なぜ地方の食品メーカーが再生ビジネスを始めたのか?」

その答えは、自社の持つ「製造から販売までを一貫する力」と「食(スイーツ)の魅力」を掛け合わせることで、衰退しつつある地方の資産に新しい命を吹き込み、お客様に価格以上の感動を提供する仕組みを完成させたからでしょう。
シャトレーゼはもはや、単なる「お菓子屋さん」ではありません。
スイーツを起点として、ワイン、ゴルフ場、そしてリゾートホテル群を有機的に結びつけ、私たちの人生のあらゆる余暇(レジャー)を豊かに彩る「総合ホスピタリティ企業」へと見事な変身を遂げました。

「良いものをより安く」という創業時からの変わらぬ理念。
それを実現するための、泥臭くも精緻なシステム構築と徹底したコスト管理。
そして、目の前のお客様を笑顔にするための「甘いおもてなし」。

これからもシャトレーゼは、日本各地の眠れるリゾートを目覚めさせ、私たちに新しい休日の楽しみ方を提案し続けてくれることでしょう。
次のお出かけ先には、お菓子な魔法がかかったリゾートホテルを候補に入れてみてはいかがでしょうか!


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