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ビギナーズラックの宴と市場の洗礼(前編)~羊社長の投資日記 〈第1話〉

【読者の皆様へ】
本連載は、過去の失敗や葛藤を乗り越え、現在の「損切りゼロ投資法」という独自スタイルを確立するまでの軌跡を、【全20話(予定)】の書き下ろし連載としてお届けします。

現在は第3話(投資人生初めての損切りにまつわるお話)までを公開していますが、今後はさらにコロナショックという未曾有の荒波に巻き込まれる激動の展開を予定しています。

多くの投資本では「損切りが正義」と語られますが、私は数々の逆風を経て「含み損でも愚直に企業を信じ続ける投資法」に辿り着きました。
インデックス投資全盛の現代において、個別株投資の秘めた魅力と、高いパフォーマンスの再現可能性を、成功と失敗を交えたリアルな教訓を通じてお伝えしていきたいと思います。

ぜひ最後までお付き合いください。


まえがき

日本時間2026年6月6日の未明、米国の雇用統計が予想外に強かった、というニュースがきっかけで、半導体の覇者・エヌビィデアを中心に、米国のAI半導体株が突如クラッシュ。ナスダック指数は-4%超、SOX(フィラデルフィア半導体)指数に至っては-10%超の大暴落に見舞われ、一夜にして時価総額200兆円がこの世界から消失いたしました。
(暴落の波は翌週の日本市場にも波及、日経平均を一時3000円超値下がりさせたのが、この記事の執筆時点までの経過)

背景には、アルファベットとメタの増資(メタは増資の検討)による株価の希薄化懸念、イラン戦争の長期化とインフレの波、インフレ対応のためのFRBの利上げ観測浮上など、複雑な要因が絡んでおり、膨らんだ風船が割れるタイミングを窺うようなチキンゲームの延長で起きたことだろうと思われます。
もっとも、これまで上昇が急激だった故に、その反動が来たという側面もあるでしょうし、数年後に振り返ってみれば、大きな上昇波動の小さな揺れに過ぎなかった、そんなお話で片付けられてしまうかもしれません。

ただ、まさか一夜にして日本のGDPの3分の1にも迫るようなお金が「蒸発する」とは誰も予想していなかったでしょう。
そう、その時価総額の大半は(現金化できたもの以外)文字通り蒸発して消え失せたのでございます。
なぜなら「株価」は「企業価値」という物差しを記号化し、人々の脳内で共有している「概念」に過ぎないのですから。

株式市場には魔物が棲んでいる⋯ワタクシはいつもそう思います。
魔物はお金という数字を吐き出したり吸い込んだりしながら、天を覆うような巨大な存在感で人間の心を良くも悪くも惹きつけます。

1年目の洗礼〜トランプ砲の威力

ワタクシが初めて魔物に襲われたのは投資歴1年目、いえ、正確にはまだ4カ月目の2019年夏のことでした。

それはトランプ砲と呼ばれるもので、日替わりの気まぐれ定食のようにメニューがコロコロと変わります。
ある日、美味しいと思って調子に乗って翌日も注文すると「今日のどんぶりには関税が10%上乗せされます⋯」などとふっかけてくるという具合でございます。
その頃もうすでに米中貿易戦争が始まっていたものの、ニュースで見るだけではその温度感は感じ取れません。当時のワタクシは貿易戦争の文脈を深く考えず、「株の面白さ」に魅了され、ポジションを積極的に取っておりました。

そこへ彼のツイッター攻撃が炸裂いたします。
それまで米中対立は一時停戦ムードだったにも関わらず、突如「中国からの輸入品3,000億ドル分に10%の追加関税を課す」とツイッターで表明。市場は完全に不意を突かれ、ここから下落トレンドが始まりました。
彼が呟くだけで世界が変わる。シーソーゲームのように価値が上下する。
「俺がカジノのオーナーだ(米国が覇権国でありルールを決める)」
彼の言動の行間にはそのような意味が読み取れました。

ワタクシは当時から少々政治に関心があり、中国の巨大化と背中合わせの日本の失われた20年のデフレ、また先進国の産業空洞化というグローバリズムの弊害を問題視しておりましたので、正直にいえばトランプ大統領の誕生に「歴史的必然性」いわば「説得力」を感じておりました。ですから、財界や知識人、マスコミ各社がトランプ憎しと彼を袋叩きにするのを冷めた目で観察していたのですが、いざ、自分の資産に悪影響が出た途端、彼の乱暴な呟きに憤りの感情がムクムクと湧いてきました。

人間とは都合がよいものです。いかに人々が「自分のポジションを前提」に物事を語るのか、我が身を通じて思い知った瞬間でした。

とはいえ、無理もありません。わずか数日で買値から-10%などと赤字で表示されるのは、初心者にとってかなりの心労でございます。
当時、400〜500万円ほど資産を運用して、含み損が50〜60万円は出ていたように思います。その額はざっと手取りの3ヶ月分以上の金額⋯ワタクシにとっては大金でした。

大人しくインデックス投資信託だけを積み立てていれば、ダメージはもっと軽減されていたでしょう。しかし個別株は株価指数とは別世界です。
安いと思った値段が予想外にもっと安くなる。もっともっと下っていく⋯。株式市場では当たり前の現象が目の前で起こった時、「株は怖い」と率直に感じました。

トランプ砲前夜の宴〜誰もが通る道:ビギナーズラック

少し時間を巻き戻しましょう。
相場の魔物の真の恐ろしさを知る少し前、実は順調なスタートを切っていた時期がございました。
そしてお恥ずかしい話なのですが、その時、ワタクシは、相場歴がまだ数カ月だったにも関わらず、ちょうど鼻がぐんと伸びていたのでございます。
ピノキオ⋯いえ⋯天狗です。

最初の入り口はいたってオーソドックスなものでした。
その年の春、証券口座を開設し、ワタクシは確信を持って「日経平均連動型のインデックスファンド」など、数本の投資信託を積み立て始めました。

理由は一般的な理論どおり、インデックス投資信託なら、市場全体の成長の平均値に相乗りでき、且つ中長期ではアクティブ投資信託(あるいは個別株)より高いリターンを享受できるからでございます。

株の入門書を読み始めた最初の時期に、その情報にふれて調べてみると、嘘偽りない真実であるとすぐに理解いたしました。なにしろ「株は長期的には上がるもの」そういう法則性が明らかにあることを歴史は証明しておりました。また、指数という平均値はいつも選りすぐりのエリート企業の成長力に牽引されることも推測できました。

ですから、市場に連動することはそのまま生き残ることを意味します。
実際、例えば下のような過去100年超のチャートを俯瞰して眺めれば、株式市場が幾度となく暴落に見舞われながらも、結局右肩上がりに上がってきたことが一目瞭然で分かります。

出所:Macrotrends "Dow Jones - 100 Year Historical Chart"より作成

ということは、なにも考えずにインデックス投資信託を積み立てていれば、やがて時間が味方をし、報われる日が来るだろう。そう考えて資産運用を始めたのですが、積み立て設定をして2ヶ月もしないうちに少し含み益が出てくると、額面の資産が増える喜びと同時に、どこか物足りなさも感じるようになりました。

なんか投資って簡単だなぁ⋯(寝てれば資産が増えるなんてちょっと退屈かも)。

そんな時、2019年3月期の決算シーズンが到来しました。5月の初旬でした。
ふと経済ニュースを眺めていると「トヨタの営業利益は過去最高」そんな情報が飛び込んできました。

そうか⋯誰もが知るキングメーカー・トヨタ自動車の利益は過去最高なのか⋯。

そこで、株価をチェックしてみると、意外にもなにやら緩慢な動きで、モミモミと安値を這っておりました。少し引いた目で見ると、2015年の春をピークに株価は長期低迷の状態にあり、高値から20%超も下落していたのです。
次に株価指標を調べると、PBRは1倍割れPERは1桁台に甘んじておりました。
初心者でしたが、入門書を何冊か読んで、「PBR1倍以下、PER15倍以下は割安」と一般的な基準があることは知っておりました。
なぜだろう?純粋に疑問を持ちました。

2015〜19年半ばまでのトヨタ自動車のチャート
出典:Investing.com

トヨタほどの優良企業が、持っている資産よりも時価総額が低く(PBR1倍割れ)、向こう数年間の利益しか株価に反映していない(PER数倍)なんてバカげている。

株式市場ってひょっとしておバカさん?
ワタクシはシンプルに思いました。
なにしろ足元では過去最高益。そして向こう1年の利益予想も悪くないものでした。さらに調べると、リーマン・ショック時の赤字を大底に、利益も配当も右肩上がり、順調に業績を伸ばしているではありませんか!

なぜ?⋯なぜ?⋯なぜ?⋯おかしい⋯おかしい⋯おかしい!

思えば思うほど、その感情は正義感や使命感にも似たものとなり、買いたいという衝動に結晶化しました。
そしてワタクシはトヨタの株を100株だけ購入しました。
当時の株価で約6553円(株式分割前の値段)ですから約65万5千円。月収3ヶ月分以上の値段でした。
月々数万円程度から地道にやっていこう、そんなふうに始めたインデックス投資信託の積み立てとは額が違います。
買う時は「成行」なのか「指値」なのか、どちらが適切かも分かりませんでした。

さて、その買い判断ですが、実のところ間違ってはいませんでした。
まず結論からいえば、1ヶ月後、ワタクシはその株を67万5千円で売却しました。
約2万円の差額、税引き後1万6000円程度の利益です。
今になって思えば、あれだけの使命感に駆られて購入しておいて、翌月には売却なんて愚の骨頂なのですが、その時、ワタクシはどうしても「売却益」というご馳走を味わってみたいと思ったのでございます。
生まれて初めての利益確定⋯あの感動は忘れられません!
そしてふと我ながら思いました。

案外才能があるのでは?

ちなみに、トヨタへの投資を長い目で見た場合、やはり「買いの選択」が正しかったことは歴史が証明しています。実際、2019年夏と2020年前半、そこが株価の大底で、その後、株価は大幅な上昇軌道に乗りました。特に2023年以降は、欧米発のEV失速と軌を一にしたハイブリッド車の再評価、恒常的な円安が業績を押し上げたことは周知の事実。
ですから、2019年当時、株式市場は確かにおバカだったのでしょう。

2016〜24年初頭までのトヨタ自動車のチャート
出典:Investing.com

はっきりと申し上げて、あの時「おかしいな?」と思ったワタクシの違和感は、ごく自然でまっとうなものだったと思われます。
ただ、その根拠が薄弱で、言語化できていない点が問題でした。

なにしろ、安い株価には安いなりの理由があるもの。
考えてみれば、市場関係者はトヨタの株価が安いことを当然知っています。しかしながら「米中貿易戦争の激化」「日本に対する関税の懸念」などの不透明要因があったため、様子見に徹していたのでしょう。また、テスラの台頭などが始まっていましたから、相対的にトヨタの魅力度が下がり、利益を最大化させるための投資対象からは、程遠い存在になっていたと思われます。

なるほど、その点を踏まえ、それでもなお買う必然性があるなら立派な投資なのですが、ワタクシは、当初こそ正義感めいたものを感じて買いを入れたのに、翌月には手放してしまうという選択を取りました。
つまり、大した心構えはなかったというわけです。
相場において、そうした行動は案外深刻な怪我につながるもの。とはいえ、その頃のワタクシに、想像することは難しいものでした。
おそらく、それは誰もが通る道に違いなかったからでございます。

株主という感動がもたらした変化〜天狗の鼻で二足歩行のバリューハンターに

ところで、初めての個別株売買を通じて、ワタクシは思いました。

手取りが20万円にも満たない契約社員の自分が⋯世界に冠たる御トヨタ様の株主になれるとは⋯なんて株式市場は民主的で開かれた世界だろう!

真っ直ぐな感動とワクワク感が、ワタクシの体に経験したことのないエネルギーを吹き込みました。
思えば、いつも猫背で、俯きがちにため息をつき、四畳半の寝床にこもって昼夜寝転んで暮らしたい怠け者の羊です。そんな羊が、明日を夢見て、二足歩行で胸を張って前進しようという気になったのですから、株式市場の持つ魅力は相当なものです。

ワタクシは、決算資料や経済新聞の読み方など、色々な本を手に取り、研究するようになりました。学校の勉強とは違って、お金を払って知識を吸収するのではなく、知識が対価を生む可能性があるのですから、学ぶ愉しさはひとしおです。

1週間、いや1日ごとに、脳内がアップデートされていく感覚を味わいました。
それから個人投資家が愛用する「株探」に登録し、気の赴くままに企業リサーチを始めました。頭にあったのは「安く買って高く売ること」。投資の本に必ず書いてあるお約束通りの視点で「安い株価」を探しました。

ワタクシは元来「安いもの」が大好物。もったいない精神で、お金を使わないことに関しては天才的な能力を発揮いたします。そんな性分からでしょうか、どうしても「低位株」に目が行きました。
たとえば「10万円以下で買える(高配当/高収益/高成長⋯)銘柄」とか、そんなテーマの特集に目がとまりました。

するとゴロゴロ⋯ゴロゴロ⋯出るわ出るわ⋯安い株が日本市場には転がっているではありませんか。もうそれは掃いて捨てるほどの数でございます。

そういう銘柄のなかで、ビビッときたものをいくつか拾っているうちに、ワタクシに最大の成功体験がやってきました。

はい、初めてのストップ高でございます。

2015年〜2019年までのトレジャー・ファクトリのチャート
出典:Investing.com

銘柄はトレジャー・ファクトリー。有名なリサイクルユースのお店を展開する企業ですね。当時から売上高を年々伸ばしている成長銘柄だったのですが、株価は2015年につけた高値を最後に4年間下落基調にありました。

見た目に株価が安くて上昇余地が大きそう⋯とはいえ利用したことのない店だしよくわからない⋯。

そんな第一印象だったのですが、調べるとすぐに「Amazonと提携を開始」という情報が飛び込んできました。Amazonの巨大なネットワークを使って販売するなら、店舗を構えるよりずっと拡大余地がありそうだ。ワタクシは分かりやすいカタリストに飛びつき、今なら株価も安いし買っておいて損はないだろう、そんな軽い気持ちで購入しました。
そして、その数日後のこと、決算発表とともに、増益予想が好感されて株価が吹き飛んだというわけなのです。

結局、ワタクシはトレジャー・ファクトリー1銘柄で数万円の儲けを出しました。当時、インデックス投資信託の年間上昇率の平均は歴史的に5〜6%などといわれていましたから(それと比べて現在は歴史的な大相場ですね)、短期間に相当効率よく資産を増やせたことになります。
そしてめでたく、天狗の鼻は角のように硬くなり、ワタクシは確信したのでございます。

そうだ!バリューハンターになろう!ーーと。
その決意が嵐の波間を縫うような航海になるとはつゆとも知らず⋯。

(次回に続く)

前編の振り返り(自戒をこめて)

  • 暴落はいつもどこかでやってくる

  • 株式市場は民主的で、誰にでも平等にチャンスを与えてくれる場所である

  • 個別株投資は人生を二足歩行で歩く希望となり得るが、時に天狗になる副作用も伴う

  • ビギナーズラックは高確率で発生する

📘前編(第2話)はこちらから

📘前編(第3話)はこちらから


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