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山の暮らしの物語9 行方不明の伝書鳩


春にはまだ早いある日
行商のおじいさんが珍しいものを売りに山道を登って来た。

背負った風呂敷包みをほどくと、出てきたのは大きな鳥かごだった。
中では、灰色の鳥が二羽 目をくるくるさせている。

「なんじゃ、こりゃぁ ハトかい?」
たまたま家にいた父さんが 相手をする。

「ハトならそこら辺にようけ居るぞ、そんなもん要らんで」

「いやいや、これは伝書鳩いうての〜 普通のハトとは違う。
 慣れたら、放してもちゃんと帰ってくるんじゃ」

「ん〜 聞いた事はあるけどなぁ」

ちょっと、考え込んだ父さんを見て
おじいさんは、
すかさず ゆきちゃんにあめ玉を差し出し鳥かごのそばに招き寄せた。

「ほれ、お嬢ちゃん 可愛いやろ こっち来てさわってみ〜」


お嬢ちゃんは、あめ玉をしゃぶりながら カゴのすきまから指を入れてそっとなでてみる。
つやつやした羽が気持ちいい。
小さい方が、くう〜 と鳴いた。

こうして、ゆきちゃんをダシに
父さんを口説き落としたおじいさんは、身軽になって山を降りて行った。


ゆきちゃんは、二羽に ポッポ と クウ という名前をつけた。
父さんが物置から金網を引っ張り出して、ハト小屋をつくってくれた。

二羽は小首をかしげながら小屋の中を歩き回り、だんだん慣れて可愛くなって来る。母さんがトントンとわらをたたく納屋で、米ぬかと菜っ葉のエサを作りながら、早く空に飛ばしたいなあとワクワクしていた。

「まだ放したら、あかん?」
「ちょっと早いやろ」と母さん。

そうして三ケ月ほどたったある朝
家族そろったところで、思い切って二羽を放してみた。
 
ハトは庭先の柿の木に止まり、しきりにあたりの様子をうかがっている。
しばらくすると、一羽がおそるおそる羽ばたいて舞い上がった。
もう一羽も後に続く。

ゆっくりと家の周りを何回か飛び回り 
やがて、五月晴れの青い空にむかってぐんぐん上昇して行った。

朝陽を受けて、翼がキラリと光った。
父さんと母さんは、まぶしそうに手をかざして見上げている。

ゆきちゃんは大きく手を振った。
空を飛べるって、なんてすごいんだろう! 

ところが、それきり二羽は帰って来なかったのだ。

晩ご飯を食べながら
「何が 伝書鳩なもんか…」と 父さんがぼやくと
「ありゃ じいさんとこへ帰ったんやの」と 母さんは笑っている。

それきり、伝書鳩の行方はわからないままだ。
ゆきちゃんが、大泣きしたかどうかもわからない。


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#むうらむにいなれおん


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