山の暮らしの物語10 初めてのお友だち
谷川が小さな滝になって流れ落ちるそばを、細い山道が通っている。ゆきちゃんは、滝といっしょにその道を降りて行った。
今日は、母さんに連れられて、ご近所にとうもろこしの苗をもらいに行くのだ。去年、イノシシにやられて種まきが出来なかったので
「苗なら ようけあるよ」と声をかけてくれたお家を訪ねる。
山を降りると、ざぶんざぶんと流れる大きな谷川に沿って
二人並んで歩けるくらいの平らな道が続いている。
川上に向かって歩いていくと
一軒家の小さな池で、白い鳥がガァーガァー騒ぐのが聞こえた。
ゆきちゃんは初めて見るあひるに目を丸くした。
よちよちと歩くのが面白くて
母さんに「ほら 行くよ」と言われても動かない。
でも母さんが行ってしまったので、仕方なく駆け出した。
そうやってしばらく行くと、お目当ての家が見えて来た。
「まあ よう来たね」
知らないおばちゃんが出迎えてくれたが
ゆきちゃんは、あわてて母さんの割烹着の裾をつかんで後ろに隠れてしまった。
「あれ 恥ずかしかい?」
「この子は人見知りで… 来年は学校に上がるというのに困ったもんや」
と母さんは嘆く。
おばちゃんは「なぁに すぐ慣れるよ〜」とにこにこしながら
「まぁちゃん ちょっとおいで」裏庭に向かって声をかけた。
すると 井戸端の青いあじさいの陰から 女の子の顔がのぞいた。
手に小さなスコップを持っている。
髪が長くて背の高い女の子だ。
同い年のはずだけど
ゆきちゃんには、なんだかお姉さんに見えた。
「あれ まぁちゃんも来年一年生やったねぇ」
母さんは、ほっとしたように言った。
「うん… ゆきちゃん?」と、小首をかしげてこっちを見る。
「そうや 仲良うしたってね」
女の子はうなずいて
「おいでよ、あっちの庭見る?」そう言ってにっこりした。
ゆきちゃんは母さんの顔を見上げたが
「ほれ 行っといで」と背中を押され、おずおずとついて行く。
やがて、あじさいの向こうから何やら楽しげな声が聞こえて来た。
二人の若いお母さん達は縁側に腰かけて、お茶をすすっている。
それから、どれくらい時がたっただろうか…
ゆきちゃんが駆けてきて
「これもらったの コスモスやて」
うれしそうに新聞紙に包んだ苗を見せた。
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