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山の暮らしの物語11 はらんきょうの実る頃


「母ちゃん、はらんきょうが赤こうなったよ!」
畑の小道を駆け戻ったゆきちゃんが、息をはずませて報告すると
「そうかい… それじゃ 明後日にしようかね」と母さんは笑った。

父さんも母さんもあんまりお休みがない。
日曜日も祝日も関係ない。
ゆっくり休めるのはお盆と正月くらいだ。
村中がそんなだから、暦通りに休みがあるのは学校くらいだろう。

そんな母さんが
梅雨があけて、はらんきょう (すもも) が赤くなったら
お休みして釣りに連れて行ってくれると約束したのだ。
ゆきちゃんが待ちわびた日がやってきた。


その日、母さんとゆきちゃんは
おにぎりや水筒、釣りのエサが入った小瓶、もぎたての真っ赤なはらんきょうをリュックに詰めると、麦わら帽子をかぶり釣り竿を担いで出かけた。

父さんは朝から仕事に出掛けている。

山を降りて、下の川沿いをまあちゃんちとは反対の下流に向かって歩くと
村を東西に流れる一番大きな川に着く。

深い淵のそばの大きな岩の上に腰を据えて、母さんは釣りの仕度にかかった。

釣り糸をたらしておいて、お弁当を広げる。
外で食べるおにぎりの味は、特別だ。
水筒の水をごっくんと飲んで、川上に目をやると

村の若い衆がやって来るのが見えた。
魚をつくヤスを片手に深みに潜っては浮かび上がる。

流れにのって近くまで泳いでくると
「おう、珍しのう。今日は休みかい?」と声をかけた。
母さんとは顔見知りらしい。
「たまには気晴らしせんとね」母さんは楽しそうだ。

その時、竿がびくんと動いた。
「母ちゃん、引いとるよ!」
慌てたゆきちゃんが立ち上がった拍子に、エサの小瓶が転げ落ちて深みに沈んで行った。

「あれま、何しとるんや この子は」
若い衆は、笑ってすいっと潜ると小瓶を拾い上げ
「じゃな」と流れにのって下っていった。

むつ (注1) を、釣り針から外しながら
若い衆が泳いで行った方を見やって、母さんは言った。

「もうじき、この先にダムができるよ」
「ダム?」

「そうや、ダムの水で電気を起こしてな
 夜でも家中、明るうなるんや」

「ふう〜ん… 石油ランプより明るいの?」

ろうそくとランプしか知らないゆきちゃんには、よくわからない。
とりあえず、真っ赤な  はらんきょうをかじる事にした。
涼しい川風に吹かれながら、甘酸っぱい味が口じゅうに広がった。


注1 むつ コイの仲間だが、あまり大きくはならない。
  清流や田んぼのそばの小川など 何処にでもいて
  誰でも簡単に釣れるので、子供の遊びにはぴったりの魚。
  食べられるけど、全然美味しくない。



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