山の暮らしの物語12 スイカが消えた
春先に植えたスイカに黄色い花が咲いて、小さな実がついた。
母さんは、そこに ”8月5日“ と書いた木札を立てた。
「これ なあに?」
ゆきちゃんがたずねると
「この頃に食べごろになるんだよ」
と母さんはにこにこした。
梅雨が明ける頃から、スイカはどんどん大きくなった。
ここは山の一軒家なので平らな場所が少ない。
畑もずいぶん傾斜がきつくて
スイカは、母さんが敷いたワラの寝床に危なっかしく収まっている。
やがて夏になり
おひさまは高くあちこちでセミが鳴き、汗だくの日々がやってきた。
ゆきちゃんは、畑の下を流れる小さな谷川で水浴びに夢中だ。
そんなある日
母さんは、指でスイカをポンポンとはじきながら言った。
「ちょっと早いけど、そろそろ食べごろやね」
「え、ほんとに?」
「明日の朝、採ろうかね」
「うん」
ゆきちゃんは、ワクワクして眠れなかったけど
朝いちばんに起きて畑に飛んで行った。
すると … ない。
昨日まであった縞模様の大きなスイカがなくなっていた。
「わぁ〜」ゆきちゃんは、半べそをかきながら走った。
ちょうど起きてきた父さんが井戸端で顔を洗っている。
「父さん! スイカが無くなった」
「なんやて?」
二人で畑に駆けつけると、スイカのツルは根本でちぎれている。
こんな山奥にスイカ泥棒なんかいるはずがない。
イノシシか猿にやられたのだろうか?
でも、どこにも食い散らかした跡がない。
ただ、ゆきが踏んづけたのか、小さな足跡があってワラの寝床が崩れているだけだ。
それを見ていた父さんはゆっくりと畑の小道を降りて行く。
やがてゆきちゃんが、水浴びをする川っぷちの草むらにしゃがむと
「お〜い あったぞ〜」
大きなスイカを抱えて立ち上がった。
ゆきもあわてて駆け降りて行った。
転びそうになってサンダルが片一方すっとんだ。
「ゆんべのうちに転がって来たんやな」
「割れんでよかった〜」
「今度は柵を立てんとあかんな」
二人は、にぎやかに笑いながら畑の坂道を引き返す。
井戸端に帰りつくと
父さんは、すり傷だらけのスイカを冷たい井戸水に放り込んだ。

ざっぷんと水があふれて、ゆきはあわてて飛びのく。
遠くでセミの声がした。 今日も暑くなりそうだ。
その後、この家のスイカは一つずつ柵で囲まれる事になった。
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