山の暮らしの物語22 発電所で何かあった!
<このシリーズは、戦後、ある山村に実在した一家に材を取った物語です
古い資料や聞き書きを元にしているが、作者が創作した部分もあります >
Something happened at the power plant
ゆきちゃんの暮らす村に
自家発電の明かりが灯って しばらく経ったある日の事
父さんは必死で走っていた。
ダム沿いの林道を駆け抜け
川下の発電所に下りる急な坂道を、転げ落ちるように走っていた。
事の起こりは、20分ほど前だ。
村の発電所では、夕方発電機を回し、朝はそれを止める。
父さんがその役目を担当しているので
父さんが忙しい時は、母さんが代わりにやる。
今日は、母さんがゆきちゃんを連れて 発電機を回しに行く事になっていた。
その時、父さんは 母さんの実家のそばで 急ぎの大工仕事をしていた。
夕方になって 仕事場の電球に明かりがついたので
( ああ カァちゃん ちゃんとやってくれたな ) と思ったのもつかの間
いったん灯った電球が す〜っと暗くなって消えてしまったのだ。
父さんは真っ青になった。
そばで立ち話をしていた実家のじっちゃんも固まってしまった。
発電所で何かあった!
いったんついた明かりが消えるなど、ただ事ではない。
カァちゃんか、ゆきがベルトに巻き込まれたのか。
父さんは、大工道具のノミもカンナも放り出して、二十分以上かかる道を走った。その後から、じいちゃんも追いかけて来る。
二人の脳裏には、恐ろしい光景が浮かんでいたに違いない。
一方 その頃 発電所では
母さんは、いつものように発電機のモーターと水車をつなぐベルトを確認し
貯水槽の仕切り板を開けて水を落とし込んだ。
勢いよく流れ落ちる水の力で発電機が回り出し、裸電球にうっすらと灯りが灯る。
ところが、モーターを回していたベルトが何かの加減でゆるんで
いったん灯った電球がす〜っと暗くなって消えてしまったのだ。
「ありや どうしよう」
母さんは困ってしまって
とりあえず、そばのみかん箱に腰かけて一息入れる事にした。
あたりはだんだん暗くなって、川の水音だけが ザァザァと大きく響いている。
「ねえ ねえ どうしたの?」
ゆきちゃんが、心配そうに母さんの顔を見上げて来る。
その時である。
ダダダっと足音がして、荒々しくドアが開き
「カアちゃん、どないした?」
父さんが怒鳴るように叫びながら、発電所に飛び込んで来た。
母さんはのんびりと
「あ〜あぁ やりそこのうたよ〜 」と笑って父さんを迎える。(注1 )
父さんとじいちゃんは、その場にヘタヘタと座り込んでしまった。
それから、父さんの手で発電機はしっかりと動き出し
親子三人そろって、暗くなり始めた山道を登り 家路についた。
家までは40分はかかるだろう。
懐中電灯を照らして歩く父さんにおんぶされて、ゆきちゃんはいい気分だ。
家に着いた時、あたりは真っ暗で
だれもいない一軒家に こうこうと明かりがついていた。(注2)

闇に押しつぶされそうな小さな明かり
それは、ちょっと物悲しい光景だったに違いない。
後に 父さんは言ったそうだ。
「おれは あれほど恐ろしい事はなかった」
注1 やりそこのうたよ〜 … やり損なった (失敗した)
注2 発電所があっても変電設備がなく、電圧などのコントロールができないため、各家庭は、いつも電気を付けっぱなしにする決まりになっていたらしい。そうでないと、発電機に支障が出るとか… 筆者も詳しくは分からない。
小さな 英語レッスン
発電所で何かあった
Something happened at the power plant
二人の脳裏には、恐ろしい光景が浮かんでいた
A horrible scene flashed through their minds.
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