山の暮らしの物語19 行商のおじさん遭難事件
The Peddler Man's Distress Incident
仕事に出かける前の父さんを囲んで 朝ごはんを食べていると
「おるか? えらい事や」と 山の下のおんちゃんが 息を切らして やって来た。
「どしたんや」
「誰ぞ 崖から まくれとる(転げ落ちている)」
「なんやと 誰や」
「分からん 。今朝 山仕事に行きよる兄ちゃんが 見つけた 。川下のきつい谷んとこや」
「そら なんぎな所やな」
「おう すぐ来てくれんか」
「よっしゃ わかった」
父さんは 、箸をガラッと置いて 立ち上がると
山仕事の靴をはいて 上着を引っ掛け、納屋にあった縄のたばを 担いで
おんちゃんと一緒に山道を駆け下りて行った。
ゆきちゃんは 何だかよくわからなくて 心配そうに母さんの顔を見る。
母さんは ちょっとほほえんで 不安を隠し
「はよ 食うてしまい」
「うん」
二人だけのご飯を終えると
母さんは いつものように さっさと後片付けをし
井戸端に出て たらいで洗濯にかかった。
ゆきちゃんも ホウキを持ち出し 部屋の掃除を始める。
泥だらけになった父さんが 帰って来たのは お昼をだいぶ過ぎた頃だった。
心なし青ざめているが、ほっとしたような顔だ。
「行商の 常( つね )さんやった。足が折れとるようやが 気はしっかりしとる」
父さんのために お粥を温めていた母さんが 振り返った。
「そうか… 助かってよかったねぇ」
「ゆんべ 暗ろうなってから、足滑らしたらしい」
「なんで 又 そないな時間に歩いとったんかいね」
「なんぞで 遅なったんやろな~」
常さんは 時々 村にやって来る行商のおじさんだった。
村には宿がないので 、行商人は親しくしている村人の家に 一夜の宿を取る。常さんも 以前この家に泊まった事があった。
ゆきちゃんは、ふと その時もらった紙風船を思い出していた。
村には 警察がない。
お医者さんもいない。
救急車や 消防車など 聞いた事もないという暮らしである。
何かあれば 村の若い衆が 力を合わせるしかない。
以前は、病人が出れば 戸板に乗せ、くねくねと曲がった山道を 4、5時間かけて お医者さんまで 運んだらしい。
最近になって、やっと細い林道が出来たので
行商のおじさんは、村にたった一台の自動車 … 軽トラックで、町の医者に運ばれていった。
小さな 英語レッスン
行商人の遭難事件
The Peddler Man's Distress Incident
村には 警察がない
お医者さんもいない
There is no police in the village, no doctor.
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