廃用症候群ってなに?|動かないことで起きる悪循環を理学療法士が解説
以前、「廃用廃用って言うけど、廃用症候群ってそのもそなんなんですか?」と質問いただきました。
今回はそのことについて書いていこうと思います。
「最近、急に弱った気がする」
「入院してから、歩くのがおっくうになった」
「年のせいだと思っていたけど、本当にそれだけ?」
そう感じたことがある方は少なくないと思います。
実はその背景に、「廃用症候群」という状態が関わっていることがあります。
厚生労働省の資料では、廃用症候群を、
「使わないこと、すなわち不活発な生活や安静によって生じる、全身のあらゆる器官・機能の心身機能の低下」
と説明しています。
つまり、病気やケガそのものが原因ではなく、「動かない状態が続くこと」そのものが原因で起きる機能低下を指す言葉です。
この記事では、そもそも廃用症候群とはどんな状態か、廃用症候群がなぜ悪循環になりやすいのか、そしてその悪循環をどこで止められるのかを整理していきます。
なぜ「動かない」だけで、体全体に影響が出るのか
廃用症候群という言葉を聞くと、筋力が落ちることだけを想像する方が多いのですが、実際に影響が出る範囲はもっと広いです。
筋力やバランス能力の低下だけでなく、
心臓や肺の機能低下
骨がもろくなる
関節が固まる
食欲が落ちる
便秘になりやすくなる
気分が落ち込みやすくなる
といった変化が同時に起こりやすいことが知られています。
体を動かすという行為は、筋肉だけでなく、循環器・消化器・精神面にまで信号を送り続けている行為でもあるためです。
動かないことが続くと、その信号が減り、体のあらゆる部分が「使われていない」と判断してしまう、というイメージに近いと思います。
特に高齢者では進行が早く、
1週間の安静だけで10〜15%程度の筋力が低下する
という報告もあります。
若い方であれば数日の安静で済むところが、高齢者では同じ期間でも影響が大きく出やすいという特徴があります。
なぜ「悪循環」になりやすいのか
廃用症候群がやっかいなのは、一つの機能低下が、次の機能低下を引き起こしやすいという構造にあります。
たとえば、
足の筋力が落ちると、歩くときにふらつきやすくなります。
ふらつきを感じると、本人は「転んだら怖い」と感じ、動くことを避けるようになります。
動かない時間が増えると、さらに筋力が落ち、ふらつきが強くなります。
この繰り返しが、いわゆる悪循環です。
同じことが、気分の面でも起こります。
動けないことへの落ち込みから外出や会話が減り、刺激の少ない生活が続くことで、意欲そのものが落ちていく、というパターンも多く見られます。
この悪循環の厄介な点は、
「動かない→機能が落ちる」という一方通行ではなく、
「機能が落ちる→動くのが怖くなる→さらに動かなくなる」という、
気持ちの部分も一緒に絡んでいるところです。
筋力訓練だけを頑張っても、この気持ちの部分が変わらなければ、悪循環が止まりにくいことがあります。
悪循環はどこで止められるのか
悪循環というと、止めるのが難しく感じられるかもしれませんが、実際には、どこか一箇所にでも働きかけられれば、循環全体が緩みやすくなるという性質もあります。
私が意識している止め方の例を挙げると、以下のようなものがあります。
「できる動作」を一つでも見つけ、そこから自信につなげる
「怖い」という気持ちをそのまま否定せず、安全に動ける方法を一緒に探す
動く量を一気に増やすのではなく、今より少しだけ多い量から始める
座っている時間を減らし、立ち上がる・移動するという小さな動作を生活の中に増やす
体の状態だけでなく、会話や外出など、気分が動く機会も一緒に増やす
こういった対応を並べているのは、悪循環を止めるには「体を動かす」という一点だけでなく、気持ちや生活のリズムまで含めて手を打つ必要があるためです。
どれか一つだけを頑張るより、小さな働きかけを複数の方向から重ねる方が、結果的に効果が出やすいというのが現場での実感です。
家族や本人が気をつけたいこと
廃用症候群は、「もう歳だから仕方ない」と見過ごされやすい状態でもあります。
しかし、年齢のせいだけで説明できるものではなく、動かない期間が続いたことが原因になっているケースは多くあります。
急に歩くのが不安定になった、以前より疲れやすくなった、外出や活動を避けるようになった、といった変化があれば、「年のせい」で片づける前に、動く機会そのものが減っていないかを一度振り返ってみてください。
思い当たる場合は、担当の医師やリハビリスタッフ、ケアマネジャーに相談することで、早い段階で対応できることがあります。
なお、廃用症候群からの回復にかかる期間や方法は、原因となる疾患や年齢、動かなかった期間によって大きく異なります。
断定的に「これで治る」と言えるものではなく、個々の状態に応じた見立てが必要になりますので、詳しくは担当の専門職にご確認いただくことをお勧めします。
よくある質問
Q. 廃用症候群は、若い人には起きませんか
若い方でも、長期間の安静が続けば起こり得ます。
ただ、回復のスピードは高齢者より早いことが多く、影響の出方にも差があります。
Q. 一度廃用症候群になると、元には戻りませんか
状態や期間によって差がありますが、多くの場合、適切なリハビリと生活の中での活動によって、一定の改善が見込めます。
ただし、完全に元通りになるとは限らず、その人にとって無理のない生活の形を目指すことが現実的な目標になります。
Q. どのくらい動かないと廃用症候群になりますか
明確な基準はありませんが、数日から1週間程度の極端な安静でも、筋力などに変化が出始めることが報告されています。
個人差が大きいため、目安として捉えていただくのがよいと思います。
まとめ
廃用症候群は、
「動かないこと」が原因で起きる、全身に及ぶ機能低下。
一つの機能低下が次の機能低下を招くという悪循環の構造を持っているため、放置すると進行しやすい一方で、どこか一箇所に働きかけるだけでも循環が緩みやすいという特徴もある。
すべてを一気に元に戻そうとする必要はありません。
まずは、今できている小さな動作を一つ見つけて、そこから広げていくくらいの気持ちで向き合ってみてください。
今回は、ご質問に答えてみました。
お読みいただきありがとうございました。
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