耳ダンボ👂テーラー稲津の内緒話#64「控室の隙間からそっと菓子折りを──病院のお礼文化のグレーゾーン」
世の中には本当に色々な病院やクリニックがあるものだが、「お礼」に関しては、昨今とても厳しいルールが敷かれているらしい。
国立や市立、町立などの病院では、建前として「お礼一切受け取らない」ことになっている。
とはいえ、長年お世話になった医師や看護師に、何かしてあげたい──そんな家族の気持ちも確かにある。
例えば、私の叔母の場合。
十数年という長い間、伴侶が入退院を繰り返していた。
直接、菓子折りを渡そうとしても断られてしまうため、
「控室のドアの下が、ちょっと開いているのよ。だから、そこから菓子折りを入れておいたわ」
と、数十年前のことではあるが、そんな“忍者のような差し入れ方法”を語っていた。
差し上げた品物が返ってきたことは一度もなかったらしい。恐らく、看護師さんたちにも行き渡っていたのだろう。
また、私の知り合いは中堅どころの病院に入院していたとき、家族との話し合いのために入った診察室で、
「先生、この本、ちょっとよろしいですか?」
と言いながら、医師の机の上にあった専門書に、堂々と“お札の入った封筒”を挟んで帰ってきたという。
医師は圧倒されていたようだが、看護師の鋭い視線があっても、「これは受け取れません」とは言わなかったそうだ。
さらに、親が病院で亡くなり、最後に担当医と廊下で話をした息子が、
「大変お世話になりました。どうぞ、少ないですが、お受け取りください」
と言って、無理矢理、白衣のポケットにねじ込んできた──そんな話も聞いた。
ほかにも、難しい手術を控えた子どもの母親が、看護師がいない隙を見計らって、
「これをお納めください」
と、決して少なくはない額のお金を封筒に入れ、冊子に挟んで渡したケースもある。
もちろん、お金の工面がつかず、お礼をしたくてもできない患者や家族もたくさんいるだろう。
だが、現実として、ほとんどの病院は儲かっているわけではなく、雇われの医師も、世間が思うほど高給取りではない。
それなら、「せめて気持ちだけでも受け取ってほしい」という家族の思いがあってもいいのでは……と思ってしまう。
とはいえ、やはり個人病院以外では、お礼というのは“してはいけないもの”なのだろうか。
