#87『薄明』15章:荒野へ②
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自分に対する様々な声を背に受けながらも、茉莉は努めて気丈に振る舞い、日々の膨大なタスクを次々にこなしていった。
心が折れそうになる瞬間は正直何度でもあったが、茉莉はその度に奥歯を噛み締め、誠実に、ひたむきに仕事と向き合い続けた。
そんな彼女の姿勢に、少しずつだが、空気が変わる兆しが現れ始める。
最初に茉莉の情熱に気がついたのは
外部コンサルタントの真壁 恒一(まかべ こういち)だった。
彼は最初から全く期待していなかった。
西園寺の令嬢が始める慈善事業。
聞こえはいいがそういう場合、実態は大抵、体裁を整えるための綺麗事だ。
本人は”看板”で、実務はすべて外部に投げられる。
今回も、その類だと思っていた。
――が。
茉莉から受け取った資料をめくる。
各部門へのヒアリング結果
現場ごとの課題抽出
それらを踏まえた上で組まれた育成スキームのたたき台
どれも、妙に現場の温度を知っている。
“お嬢様”にありがちな、曖昧な理想論ではなく、数字と現実を前提にした提案がずらりと並んでいた。
(これは…机上で組んだ計画ではないな。
足を使って、耳で拾って、自分で咀嚼した痕跡がある…。)
視線の先では、茉莉が担当者に頭を下げていた。
言葉遣いは丁寧だが、媚びていない。説明は簡潔で感じがよく、逃げもない。
もう一度資料に目を落とす
(……ここまでやるか?普通)
未経験者の、社長の娘──
正直、やりづらいと思っていた。
甘ったれていて、厳しく言えばすぐに泣く、指摘すればすぐへこむ、世間知らずの若い女。
何かあれば自分のせいにされる──
どうせそんなものだろうと。
しかし彼女はどうも違った。
必死に背伸びして貪欲に学ぼうとする姿勢がいい。
厳しくしても折れない。
聡明で骨がある。
泣かない。
───いや、正直泣きそうにはなっているな。しかし涙を見せない気概を持っている。
自分と現実をよく分かっていて、それでもやると決めている覚悟を持った人間だ。
「お嬢様の暇つぶしだろう」
そう言っていた現場の連中の顔が、頭に浮かんだ。
(見る目がないな…いや、違うか。
彼らがまだ彼女をちゃんと見ていないだけだ。いずれ…気づくだろう)
少なくともこれは、遊びではない。
真壁は資料を閉じ、静かに息を吐いた。
「西園寺さん」
呼びかけると、茉莉が振り返った。
真壁はわずかに口角を上げた。
「このスキーム、もう一段精度を上げられそうですよ。時間、いただけますか?」
試すような声音ではない。同じ土俵に立つ者としての、それだった。
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一生懸命頑張ってると、見ている人が必ずいますね。
全く関係ありませんが私の初恋はときめきトゥナイトの真壁くんです。
