#43『薄明』第8章:出発⑤
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機内での激しい過呼吸は、櫂の適切な対処で少しずつ落ち着き、そのまま茉莉は櫂の胸に抱かれるようにして眠りに落ちた。
数時間後、シンガポールでの乗り継ぎを経て、モルディブの国際空港に到着する。
首都マレの国際空港──そう呼ばれてはいるが、そこは四方を海に囲まれた、滑走路のためだけの小さな島だった
2人がタラップを一段ずつ降りると、地面から跳ね返る熱気と、潮の香りが混じった風が全身を優しく撫でていく。
「……着いたのね、本当に」
ぼんやりと、まだ少し顔の白い茉莉を櫂が気遣い支える。
その湿り気のある南国特有の空気に触れていると、茉莉はなぜか身体がスッと軽くなったような気さえした
空港の出口では、手配した現地のトラベルコーディネーターが、白いリネンのスーツを着て待機している。
「ミスター・クロサキ、ミス・サイオンジ。お待ちしておりました。ボートの準備は整っております」
岸壁に並ぶプライベートボートのひとつに乗り込み、エンジンが重低音を響かせて加速する。
マレの喧騒が遠ざかり、視界を埋め尽くしたのは、水平線まで続く圧倒的な蒼の世界だった。
太陽はすでに西の空低く沈み、空は燃えるようなオレンジから、濃密なバイオレットへと溶け合っている。
「……綺麗……」
茉莉が感嘆の声を漏らす。
望まぬ縁談、父・征嗣へ二人の関係を打ち明けたこと、三ヶ月の試練
…そして空港での稜真との思わぬ邂逅。
そのすべての重力が、この広大な海の上でしゅるしゅると解けて蒸発していくようだった。
「……ようやく、二人きりになれますね」
櫂は茉莉の隣に座り、その細い肩を抱き寄せる。
様々な困難を乗り越えた二人の間に、言葉はもう必要なかった。
やがて、海の上に浮かぶ一筋の光の帯が見えてくる。
桟橋の両脇に松明が灯り、海の上に独立して建つ水上ヴィラが、宝石を散りばめたように輝いている。
ボートがヴィラの専用桟橋に滑り込む。
スタッフに導かれ、部屋の扉を開けた瞬間、茉莉は息を呑んだ。
床の一部がガラス張りになっており、足元にはライトアップされたエメラルドグリーンの海と、色鮮やかな魚たちが泳いでいる。
壁一面の窓を開け放てば、テラスの先にはプライベートプールと、そのまま海へと続く階段。
見上げれば、こぼれ落ちそうなほどの星々が、夜を始めたばかりの空に瞬いていた。
「茉莉。……今日から、ここはあなたと私だけの世界です。
誰の目も…過去の亡霊も、ここまでは追ってこれません。……だから、……もう何も怖がらないでください」
櫂の手が、茉莉をしっかりと抱き寄せた。
波の音だけが響く静寂の中。
束の間の楽園で潮風に煽られたカーテンが大きく揺れ、二人の影を月光が長く、濃く、床に映し出していた。
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8章「出発」が終わり、次回は8章のあらすじまとめになります
やっとモルディブ着きましたね。
9章は「楽園」
主に2人がイチャイチャします笑
思う存分イチャイチャしてくれ。君たちなにかと大変だったから。
官能部分が多くなるかもしれません…
それではまた明日!
