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#5薄明スピンオフ『九条稜真の恋』

こちらの物語は、先日完結した長編恋愛小説『薄明』の番外編(スピンオフ)ですが本編をお読みになっていない方でも単体でお楽しみいただける内容になっていますので、本編未読の方もぜひ気軽にお読みください。

前回のお話はこちら



薄明スピンオフ 九条稜真の恋  第5話



​「……はい。藤江です」


​エリカが短くそう答えた瞬間、麗奈は感極まったように小刻みに震え、歓喜の雄叫おたけびを上げた。


​「ううううそっ……やっぱり……!!!!
あ、あの、私っ……
昔から、藤江社長……理華さんの大ファンで!!!!」


​突然の熱烈な告白。


完全に蚊帳かやの外に置かれた稜真と高木が、ただただ唖然としてその光景を見守る中、麗奈は慌てた手つきで自分のバッグからシステム手帳を取り出した。

そして、そのページの間から、大切そうに折りたたまれた一枚の紙切れを取り出す。


​「あの、実は私、昔通訳をしていて……あっ、今は九条さんの会社で働いているんですけども!

── 通訳時代に、富裕層のお客様の邸宅で見せていただいた会員制の雑誌に、理華さんの特集が載っていて…、私、それを読んでトラベルコーディネーターに転職したんです!!」

​麗奈が震える手で広げたその紙は、綺麗に切り取られた雑誌の特集記事だった。

​「えぇっ?」

​エリカは目を丸くし、戸惑いながらも微笑んだ。

​「ずいぶん前の記事ですよね。もう、5年くらい前の……」

「はいっ! でも、この記事が私の人生の大きな指針になっていて……」

​麗奈は半分泣きそうな顔で何度も頷きながら喋り続ける。

​「いつか、絶対に理華さんみたいになりたいってずっと思いながら、この切り抜きをお守りみたいに宝物にしていて……。
それが、まさかまさかこんなところでお会いできるなんて!」

​興奮冷めやらぬ麗奈と、思いがけない熱烈ファンとの遭遇に嬉しそうに微笑むエリカ。


その手前には、何の話をしているのかさっぱりわからず、ぽつんと立ち尽くすメンズが二人。


​(ファン……? 雑誌の特集……? 社長?人生の指針……?)

​稜真の脳細胞は、目の前で繰り広げられる予期せぬ情報量に完全にキャパシティを超え、白煙を上げていた。


​「ああああの……っ、サ、サイン、とか、もらってもいいですか!?」

「えっ?…サインなんて…
いやだ、私書くの初めてですよ。本当に私でいいんですか?」

​クスクスと笑いながら、麗奈の勢いに押されるようにして、エリカは手帳に挟まれていたペンを受け取り、切り抜きに文字を走らせる。

そしてペンを返すと麗奈に向かって優しく微笑み、チラリと稜真のほうへ一瞬だけ視線を向け、麗奈に話しかけた。

​「ごめんなさいね。今日はこれから九条さんとお食事の約束があるので、この辺りで。
……いつかまた、ゆっくりお話しできたらいいですね」

​その流れるようなスマートな気遣いに、稜真は突然現実に戻されドキリとしてしまう。

​「あっ……はいっ! お邪魔してすみませんでした! 一生の宝物にします!!」

​感激で胸をいっぱいにした麗奈は、手帳を胸に抱きしめながら、最後に稜真に向かって(あとで詳しく!!!!!!!)と強い念を込めた目配せを送り、隣で呆気にとられている高木の腕を引いて大騒ぎのまま去っていった。

……

​嵐のような時間が過ぎ去り、静けさを取り戻した歩道。

取り残された稜真は、未だに事態が飲み込めず「????」と頭の上にたくさんの疑問符を浮かべたまま立ち尽くしている。

そんな彼の顔を見て、エリカは少し困ったように苦笑した。

​「ごめんなさい、私もびっくりしちゃった。
……詳しいことは…あとで話しますね。とりあえず……行きましょうか」

​そう言って首をかしげる彼女の姿は、社長と呼ばれるような威圧感など微塵もない、稜真の知る『エリカ』のままだった。




つづく


続きは明日21時頃更新予定です


エリカ…何者?



本編『薄明』の物語を1話から読んでみたい方はこちら

あらすじセットもあります

エリカが出てくるのは18章「仮そめの恋」です。良かったら読んでみてね😉

それではまた明日!

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