#23『薄明』第5章泡沫の蜜月①
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カーテンの隙間から差し込む初夏の朝日が、シーツの海に投げ出された二人の肌を淡く照らしていた。
昨日の雷雨が嘘のように今朝は晴れ渡っている
櫂は、意識が浮上すると同時に、隣にある気配に気づく。
(茉莉…)
指先に触れる、吸い付くような柔らかな肌。
夢ではない。
視線を落とせば、自分の腕の中に、すやすやと安らかな寝顔を覗かせている茉莉がいた。
(……ああ。……本当に……
本当に、ここにいる)
まだ、すぐには信じられない。
こみ上げてくる愛しさに、櫂は肺の奥が焼けるような錯覚を覚えた。
昨夜の、雷鳴に紛れて結ばれた記憶
自分の名を呼ぶ声、潤んだ瞳、乱れた長い髪、指を絡め、必死に自分を受け入れようとしてくれた茉莉の呼吸。
自分を迎え入れた瞬間の、あの狭く、熱く、甘い締め付け──。
そのすべてが、今も生々しくこの手に、この肌に、残っている。
愛する人に愛されて眺める景色はこんなにも美しいのだろうか
これまで、櫂は数え切れないほどの女性を抱いてきた。
茉莉への禁じられた情愛が膨れ上がり、胸が張り裂けそうになるたび、別の誰かの肌でその熱を冷まそうとした。
名前も知らない女の身体に沈み、肌を重ねても、心はいつもそこになかった。
行為のあとに訪れるのは、救いようのない虚しさと、自分という男の卑しさを再確認するだけの、泥のような時間。
けれど、昨夜は違った。
初めて心が身体に追いつき、溢れ出した。
どんなに遠くの星も、今、腕の中の近すぎる茉莉の頰も、自分の無骨なこの手さえ。
全てが細かくきらめきふるえ、ひとつひとつの輝く命の躍動を感じる
そこに宿る捉えられるわけのない無数の愛を一つ残さず感じている
最愛の女性をこの腕に抱くということが、これほどまでに幸福で、これほどまでに自分を臆病にさせるものだとは知らなかった。
「……茉莉」
音にならない声で愛おしい名をつぶやく。
昨日まで「お嬢様」という楔で自分を繋ぎ止めていた鎖は、もうどこにもない。
一線を越えてしまったという事実は、彼にとってもはや罪悪感ではなく、命を賭してでも守り抜くべき、尊いものへと変わっていた。
(もう、二度と離さない。……誰にも渡さない、何があっても)
櫂は、茉莉を起こさないよう細心の注意を払いながら、彼女の額に唇を寄せた。
しかしその努力も虚しく──
「ん…………」
微かな感触に、茉莉の長い睫毛が震えた。
ゆっくりと開かれた瞳が、至近距離にある櫂の顔を捉える。
一瞬の困惑のあと、昨夜の記憶が蘇ったのだろう。
彼女の頬が、夜明けの空のようにポッと赤く染まった。
「……おはようございます。……茉莉」
「……、……おはよ……櫂」
まだ眠気の残る甘い声で恥ずかしそうに呼ばれ、櫂は胸の奥に広がる甘美な疼きを我慢できずに彼女をシーツごと強く抱きしめた。
腕の中で驚いたように跳ねる茉莉の心拍すら、愛おしくてたまらない。
「………幸せすぎて………死にそうです……、、、」
「……ちょっと櫂…、おおげさ…」
茉莉はくすくすと笑いながらも、彼の頰にそっと手を添えた。
その手を自分の大きな手で重ね、櫂の瞳には再び、静かで深い熱が宿り始める。
「大袈裟ではありませんよ。
あなたに受け入れられることが、こんなにも心が喜びで震撼するとは思っていませんでした…。
……覚悟してください。
今日から私は、あなたの手を引くのも、髪に触れるのも……昨日までのように、ためらうつもりはひとつもありませんから…」
初夏の光を浴びながら、櫂はもう一度、愛する女性の唇にやさしく触れた
それは、これまでの長い渇きを癒やすための、そしてこれから始まる蜜月への、ひそやかで、甘く尊い、誓いだった。
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櫂よかったね☺️
