#5『薄明』第一章バレンタインの夜⑤🔞
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今回は物語の展開上、官能的な描写が含まれます。
着替えを終え、髪を整えてから茉莉はサイドテーブルのスマートフォンを手に取った。
『遅くなってごめんなさい。お迎え、お願いします』
櫂に宛てたメッセージの送信ボタンを押し、小さく息をついたその時だった。
「……もう、呼んだの?」
背後から響いたのは、いつもの穏やかさとは違う、どこか冷ややかな稜真の声。
「あ……はい。あまり待たせるのも、悪いかと思って……」
稜真は茉莉がスマホを持っている方の手をやわらかく下に押さえて、彼女の目を見て信じられないひと言を発した
「もう一回、していい?」
「えっ?!」
直球すぎる言葉に、心臓が跳ねる。
「あ……で、でも、もう連絡してしまったし、時間が……」
「すぐ済むから。……大丈夫」
戸惑う茉莉の手をひっぱって稜真は壁一面のガラス窓の方へと歩いていく
「……っ、稜真さん、え、ちょっと
うそ、
こんなところじゃ…そ、外から見えます!」
慌てる彼女の言葉を制し、稜真が茉莉を見据えて言い放つ
「見えないよ、ここは地上200メートルだ。……それとも、誰かに見られるのが怖い?
例えば、迎えに来るあいつとか。」
茉莉は息を呑む
「稜真さん櫂は、そういうんじゃ──」
「ほら…向こう向いて、両手をついて」
有無を言わせず窓に両手を突かされ、目の前には星屑のような東京の夜景が広がる。
暗い空に放り出されたような心許なさと、背中から押し当てられる体温。
稜真は茉莉の項に顔を埋め、深くその香りを吸い込んだ。
「……あいつの元に帰す前に、もっと僕のことを君の身体に刻みつけたくなった。……帰したくないんだ、本当は」
思い詰めたようなその言葉と共に、整え終えたばかりのドレスの裾が無造作に捲り上げられた。
同時に稜真が片手でベルトのバックルを外し、スラックスのジッパーを下げる
(嫉妬、しているんだ
櫂に)
冷たい空気が太ももを撫で、羞恥に身体が強張る。
けれど、彼はそれを宥めもせず、ショーツとストッキングを同時に引き下ろすと茉莉の腰を強く掴み、背後から自分を受け入れるように促した。
「…ごめん、今回は優しく出来ないかもしれない」
手のひらが押し当てられた窓ガラスが、吐息と熱で白く曇っていく。
「……あぁっ…」
いつものような慈しみのある愛撫とは違う、焦燥感の混じった、固く尖った楔。
突き上げられる衝撃のたびに、目の前の夜景が揺れる。
ガラスに映る自分の顔は、困惑と快楽で見たこともないほどとろけていて、それを見つめる稜真の瞳は、猛禽のような鋭さを帯びていた。
「……っ、……あ、あ……稜真、さん……っ……!」
繋がった場所から伝わる、彼の荒い拍動。
稜真は後ろから茉莉の耳たぶを甘噛みし、そのまま首筋のラインに沿って、這うような接吻を繋げていく。
その痺れるような刺激に、茉莉の指先はガラスの上を泳ぎ、冷たい感触と体内の熱さの境界線がわからなくなっていく。
「君を……一日も早く僕だけのものにしたい……早く…僕の…腕の中だけに…っ」
繰り返される、深く、重い衝撃。
彼は茉莉の腰を掴む手に力を込め、最後は祈るように彼女の名を呼びながら、その熱いすべてを茉莉の中へと吐き出した。
白く曇った窓ガラスが、ゆっくりと涙を流すように結露していく。
静寂のあと、稜真は茉莉を背後から包み込んだまま、しばらく動かなかった。
──────
急いで身支度を整え乗り込んだ階下へ向かうエレベーターの中で、
稜真が茉莉の肩を抱き寄せそっとキスをする
「…ごめん。明日も予定あるって言ってたのに。
…まぁ反省はしてないけど」
茉莉は苦笑した。
すると稜真は彼女の手を取って、愛おしそうに指先に口づける
「……結婚の話。
君のお父さんが退院して落ち着いたら、正式に申し込みに行くよ。指輪もその時に…それとも一緒に買おうか」
茉莉は少しはにかんで答える
「…、、…はい。私も…父に、それとなく話をしておきます」
稜真はにこりと微笑んで、安心したように正面を向いた
「お父さんの帯状疱疹、早く良くなるといいね。ストレスも原因のひとつなんだろ?
氷の帝王なんて噂されてるけどあれだけの大会社のトップだ。重圧も相当なものだろう…無理もないよな。
うちの会社も上の連中は色々と大変そうだよ。
そういえば親父も最近何だかやつれてるな……ちゃんと見といてやらないと」
「本当にそうですね。稜真さんのお父様も、あの東都キャピタルの社長でいらっしゃるから…
トップにおられる方は特にストレスや圧力も段違いでしょうし、健康が一番ですもの。体調にはよく気をつけてさしあげてください。」
稜真は優しい目で微笑み、茉莉の頰をそっと撫でると「ありがとう。優しい妻だ。」とさりげなく言った
…妻。
慣れない響きで違和感が強い
そうか私は
誰かの娘から、誰かの妻になるんだ
エレベーターが1階のロビーへ着くと、ホテルのエントランスに、漆黒のセダンが静かに滑り込んでくるのが見えた
運転席から素早く降り立ち、ドアを開けて待機する櫂。
「遅くなってすみません。彼女のことよろしくお願いします。
じゃあ茉莉さん、また。」
稜真は余裕の笑みを浮かべて櫂の方へ送り出す
「ええ…稜真さん、また。おやすみなさい」
茉莉は稜真に微笑みかけ、後部座席に乗り込んだ
扉が閉まり、車が音もなく出発する
……
なんだろう、この空気
茉莉は車内に漂う居心地の悪さを感じた
櫂はいつも通りだ
いつも通りのポーカーフェイスで
いつも通りの声で
いつも通り、揺らぎのない立ち振る舞い
でも何かが違う。
そう、
私はわかってしまう。
櫂がどんなに隠そうとしても
…わかってしまうのだ
後部座席の窓をほんの少し開ける
だけどなんだろう
この、怒りとも、悲しみとも説明のつかない妙な空気は。
(きっと、遅くなってしまったから不機嫌になってるんだ)
茉莉は無理やりそう思い込んで自分を納得させた
きっとそうだ
深く考えてはいけない
頭の隅で本能がそう言う
茉莉はついにこの日、稜真にプロポーズされたことを櫂には言えなかった
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