#3薄明スピンオフ『九条稜真の恋』
こちらの物語は、先日完結した長編恋愛小説『薄明』の番外編(スピンオフ)ですが本編をお読みになっていない方でも単体でお楽しみいただける内容になっていますので、本編未読の方もぜひ気軽にお読みください。
前回のお話はこちら
薄明スピンオフ『九条稜真の恋』第3話
11月の、午後6時過ぎ。
2人が美術館を出ると、外はすっかり日が暮れ、冷たい夜気が街を包み始めていた。
「日が暮れるのが、随分早くなりましたね」
「ええ、本当に。この前まであんなに暑かったのに、もうすっかり冬の気配ですよね」
二人は並んで歩き出す。
当たり障りのない季節の会話を交わしながら、稜真の頭の中は猛スピードで回転していた。
(ど、どこへお連れすればいい…?)
思わず「お茶でも」と言ってしまったが、もう”カフェでお茶”という時間は微妙に過ぎている。
ではかわりに食事に誘うとして、彼女に負担を感じさせない、程よく近くてさりげなくて、かつ静かに話ができる店とはどこだ。
気合が入りすぎたフレンチや寿司店では重すぎるし、かといって騒がしい居酒屋などに彼女を連れて行くわけにはいかない。
下心があると思われるのも本意ではなかった。
そう思われても仕方がないかもしれないが、ホテルのバーや、いやらしく口説くための照明の暗い店になどに行くつもりは毛頭ない。
かつてのように金で一夜を買うような関係ではなく、ただただ純粋に、奇跡のように再会できた彼女と、もっと普通に話がしたい。
あの優しい微笑みを、少しでも長く見ていたいだけなのだ。
稜真は必死に記憶の引き出しをひっくり返し、ちょうどいい雰囲気の、料理が美味しくて落ち着いた行きつけのビストロを頭に思い浮かべた。
「ええと……お茶、とは言ったのだけれど……」
稜真は少し立ち止まり、勇気を振り絞るようにして言った。
「この時間だと、カフェはそろそろ閉まる頃ですよね。
……もしよければ、静かに話せる馴染みの店があるのですが、そこで少し早い夕食でも、構いませんか?」
突然食事に誘って迷惑だと思われないだろうか。断られたらどうしようかと、内心ドキドキ緊張しながらわずかに息を詰める稜真。
しかしエリカは、少しも嫌がる素振りを見せず、自然な笑顔を見せた。
「いいですね。ちょうど、お腹が空いていたところなんです」
そして彼女はこう付け加えた。
「それに……今日は少し、美味しいお酒も飲めたら嬉しいなと思っていたので」
(……!!!)
彼女のその言葉を聞いた瞬間、稜真は強張っていた肩の力が、自分でも滑稽なほど抜けたのを感じた。
それと同時に、胸の奥底からじわじわと、言いようのない嬉しさが込み上げてくる。
ただ迷惑にならないようにと必死だったが、彼女もまた、自分との時間を前向きに楽しもうとしてくれている。
それがたまらなく嬉しくて、稜真の口元は隠しようもないほどゆるんで しまった。
「あ……じゃ、じゃあ、行きましょうか!ここから10分ほど歩くんだけど」
スマートに彼女をエスコートしようと、嬉しさのあまり少しだけ弾んだ声で足を踏み出した、まさにその時だった。
「あれーっ!九条さん!!」
背後から響き渡った聞き覚えのある快活な声に名を呼ばれ、稜真はビクッッッと漫画かと思うほど肩を強張らせた。
──この声は…
(か…加納……!!)
────声の主は、自分の会社『レガリア』で右腕を務めるビジネスパートナーの加納麗奈だった。
続きは明日21時頃更新予定です
あーあ麗奈に見つかっちゃった〜w
薄明を1話から読んでみたい方はこちら
あらすじセットもございます!
エリカが出てくるのは18章「仮そめの恋」です。よろしければご覧ください!もっと楽しめます🤗
それではまた明日!
