クリスマスの翌日、何ももらえなかった私に起きたこと
この物語は、「何ももらえなかった」と感じたことのある人へ向けた、小さな贈り物です。
クリスマスの翌日は、世界が少しだけ置き去りになる。
昨日まで溢れていた光も、音も、笑い声も、朝になると嘘みたいに消えてしまう。
ミオは、その静けさの中で目を覚ました。
カーテン越しの光は淡く、冷たく、雪の白さだけが現実を主張している。
枕元に視線を向ける。
何度も確認する必要はなかった。
そこには、何もない。
胸の奥が、きゅっと縮んだ。
泣くほどじゃない。
でも、平気なふりができるほど大人でもない。
その「間」に、ミオはひとりで立っていた。
ベッドから降りると、足の裏に床の冷たさが伝わる。
昨日までの期待が抜け落ちた部屋は、少しだけ広く、少しだけ心細い。
ミオは本が好きだった。
本の中にいるときだけ、時間がやさしく流れる。
誰かの人生に触れ、誰かの言葉に救われ、ひとりで抱えなくていい場所。
本棚の前に座り、背表紙をなぞる。
紙の匂い、角の折れ、誰かの指が触れてきた痕跡。
それらすべてが、ミオにとっては「安心」だった。
一冊の古い本を抜き取った、その瞬間。
コトン。
小さな音が、部屋の奥で鳴った。
振り返る。
何も落ちていない。誰もいない。
それでも、胸の奥がざわりと揺れた。
もう一度。
コトン。
本棚の下。
昨日までは確かに空っぽだった場所に、小さな封筒が置かれていた。
派手でも、特別でもない。
けれど、なぜか分かった。
――これは、自分に向けられたものだ。
恐る恐る手を伸ばす。
封筒は冷たくなかった。
まるで、誰かの体温がまだ残っているみたいに。
封は、最初から開いていた。
中に入っていたのは、一枚の紙。
〈きのうは、もらう日。
きょうは、みつける日。〉
文字は、丁寧で、ゆっくり書かれていた。
急いでいない人の字だった。
意味は、すぐにはわからない。
けれど、胸の奥にあった「ぽっかり」が、少しだけ小さくなるのを感じた。
ミオはその紙を、本に挟んだ。
しおりの代わりに。
ページをめくる。
文字が、いつもより近く感じられた。
登場人物が迷うたび、胸が苦しくなる。
誰かに優しくされる場面では、喉の奥が熱くなる。
ミオは気づく。
物語を読んでいるのではない。
物語の中で、呼吸をしている。
昨日までは見えなかった言葉が、今日はちゃんと届いてくる。
それは、誰かがそっと背中に手を置いてくれたような感覚だった。
読み終えたころ、部屋は朝の光で満たされていた。
カーテンの隙間から射す光が、床に細い道をつくっている。
ミオは本を閉じ、深く息を吸った。
――昨日は、何ももらえなかった。
でも、今日は見つけた。
物語の中にあった気持ち。
誰かの言葉に、確かに救われた感覚。
そして、ちゃんと感じている自分自身。
ふと本棚の下を見る。
封筒は、もうなかった。
けれど、ミオは探さなかった。
代わりに、本を胸に抱きしめる。
クリスマスの翌日は、特別な日じゃない。
誰かにとっては、ただの平日で、少し寒い朝だ。
それでも、ミオは知っている。
物語は、プレゼントより遅れて届くことがある。
手渡しではなく、そっと心の奥に置かれる形で。
本を胸に抱いたまま、ミオは目を閉じた。
昨日より、ほんの少しだけ呼吸が深い。
ほんの少しだけ、自分がここにいていいと思えた。
きっとそれでいいのだ、と。
今日も、誰にも気づかれなくても――
心のどこかで、確かに、贈り物は生きている。
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