⑧誰にも救われなかった僕が、異世界では“上限なし”
初めて、耐えなかった日
「排除、開始」
その言葉は、感情を含まなかった。
宣言でも、脅しでもない。
ただの処理開始。
(……やっぱり、同じだ)
理解できないものは消す。
理由は要らない。
説明も、対話もない。
昔の教室と、
構造は何ひとつ変わらなかった。
でも。
今回は――
違う。
「……来るよ、レイヴァ」
「分かっている」
彼女の声は低く、落ち着いている。
翼は広げない。
力を誇示しない。
「お前が前に出るなら、
我は“支える”」
「背中は、任せろ」
……ありがたい。
本当に。
排除者の一人が、
無音で距離を詰めてくる。
踏み込みの角度。
視線の置き所。
逃げ道を塞ぐ配置。
(……全部、最短だ)
殺すための最短。
躊躇のない最短。
昔の僕なら、
身体が固まっていた。
頭が真っ白になって、
何もできずに終わっていた。
でも――
(……息ができる)
呼吸が、乱れない。
右拳が、
じんわりと熱を帯びる。
真紅の翼の紋章。
「……レイヴァ」
「聞いている」
「これ、
どう使えばいい?」
レイヴァは、
一瞬だけ黙った。
「“使う”な」
「……え?」
「解放しようとするな」
「今のお前に必要なのは、
出力ではない」
「選択だ」
選択。
「相手を、
“敵”として見るな」
「“現象”として見ろ」
……なるほど。
(……怖がらせてくる人って、
本当は寂しいことが多い)
レイヴァに言った言葉が、
自分に返ってくる。
こいつらは、
怖がらせようとすらしていない。
だから、
感情で応じる必要はない。
(……ただ、止める)
それだけでいい。
排除者が、
腕を振る。
刃のような魔力が、
空気を裂く。
避ける。
……いや。
通らない。
魔力が、
僕の前で“ほどけた”。
「……?」
排除者の動きが、
一瞬だけ乱れる。
《警告》
《対象、干渉拒否》
《補正不可》
……拒否。
(……そうか)
(“上限なし”って、
力の話じゃないんだ)
制限されない。
測れない。
縛れない。
だから、
“通らない”。
もう一人が、
背後に回り込む。
視界の端で、
レイヴァの翼が僅かに揺れる。
(……任せた)
背中が、
温かい。
振り向かない。
拳を、
静かに突き出す。
速さは、ない。
力も、込めていない。
ただ、
“ここに立つ”という意志だけ。
拳が、
排除者の胸に触れた。
触れた――だけ。
なのに。
排除者の身体が、
内側から崩れた。
爆発じゃない。
粉砕でもない。
“成立しなくなった”。
「……え?」
自分でも、
声が漏れた。
「……やはりな」
レイヴァが、
小さく息を吐く。
「お前は、
“破壊”していない」
「存在の前提を、
否定しただけだ」
存在の前提。
(……存在していいか、どうか)
それを、
世界じゃなく、
僕が決めた。
残る二人が、
距離を取る。
《再計測》
《脅威レベル、再定義》
《対象:観測不能→危険》
……危険。
少しだけ、
笑ってしまった。
「……やっと、
そう見えるようになった?」
レイヴァが、
静かに言う。
「良い顔だ」
「……え?」
「耐えている顔ではない」
「選んだ者の顔だ」
胸の奥が、
じん、と熱くなる。
(……耐えるだけの僕は、
もういない)
残る排除者が、
撤退動作に入る。
《報告》
《対象、即時排除不可》
《世界補正、再検討》
空気が、
元に戻っていく。
街の音が、
ゆっくりと戻る。
……終わった。
いや。
始まった。
「……ねぇ、レイヴァ」
「何だ」
「僕さ」
拳を見る。
真紅の翼。
「もう、
戻れないよね」
レイヴァは、
少しだけ笑った。
「戻る場所など、
最初からない」
「だが」
「進む場所は、
今、できた」
……それでいい。
それがいい。
僕は、
一歩前に出る。
世界は、
まだ敵だ。
でも。
僕は、
ここに立っている。
選んで。
読者のみなさまへ
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
今回は
⑧ 初めて“耐えなかった”反撃を描きました。
もし
「この先が気になる」
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