見出し画像

⑮誰にも救われなかった僕が、異世界では“上限なし”

選択が、書き換えられていく


村での生活は、
思ったより静かに始まった。

朝、井戸に水を汲みに行く。
昼、畑仕事を手伝う。
夕方、家の前で道具を整える。

特別なことは、何もない。

でも。

(……息ができる)

それだけで、
十分だった。

村の人たちは、
必要以上に近づいてこない。
必要以上に遠ざかりもしない。

“昨日までいなかった人間”として、
自然に扱われている。

それが、
どれほどありがたいか。



変化は、
三日目に起きた。

昼過ぎ、
畑から戻ると、
代表が立っていた。

表情が、
どこか曖昧だ。

「……少し、話せるか」

嫌な予感が、
胸をかすめる。

空き家の前で、
立ち止まる。

「村の連中がな」

代表は、
言葉を選んでいる。

「最近の出来事を、
 思い出せなくなっている」

「……思い出せない?」

「君たちを、
 受け入れると決めた理由を、だ」

胸の奥が、
冷たくなる。

(……そんなはずは)

「あの夜、
 確かに話し合った」

「だが今は」

「“そういう流れだった気がする”
 くらいの感覚しか残っていない」

……曖昧化。

レイヴァの言葉が、
頭に浮かぶ。

世界は、
力ではなく、
意味を削る。



「……後悔してるんですか」

そう聞くと、
代表は首を振った。

「いや」

「ただ……」

視線が、
少しだけ揺れる。

「なぜ、
 そう決めたのかが分からない」

「理由が分からない選択は、
 怖い」

……それは。

(……正しい)

誰だって、
そうだ。

「だから」

代表は、
静かに続けた。

「もう一度、
 考え直そうという声が出ている」

「追い出そう、という声じゃない」

「だが——」

言葉が、
途切れる。

「“受け入れ続ける理由”が、
 薄れている」



夜。

家の中で、
レイヴァと向き合う。

「……これが、
 世界の干渉?」

「そうだ」

即答だった。

「直接、
 命令はしない」

「選択そのものを、
 “自然に揺らす”」

「違和感を消し、
 理由を曖昧にする」

「……ずるいな」

「世界は、
 常にそうだ」

「自分で選んだと、
 思わせながら」

「実際には、
 選び直させる」

拳を、
ゆっくりと握る。

真紅の翼の紋章が、
かすかに熱を帯びる。

(……じゃあ、どうする)

(……また、耐える?)

違う。



翌日。

村の広場で、
人が集まっていた。

“話し合い”という名の、
空気の確認。

誰も、
強い言葉は使わない。

でも。

「……悪い人じゃないとは思う」

「でも、
 理由が分からない」

「受け入れた覚えが、
 薄いんだ」

その言葉が、
胸に刺さる。

(……覚えが、薄い)

一歩、前に出る。

喉が、
少し乾く。

「……理由なら、あります」

ざわめき。

代表が、
こちらを見る。

「昨日までの理由は、
 忘れたかもしれない」

「でも」

息を吸う。

「今日の理由は、
 今日、作れます」

静かになる。

「僕は、
 力を振るわない」

「条件も、
 押し付けない」

「ただ」

視線を、
一人ひとりに向ける。

「今日、
 一緒に働いたか」

「今日、
 話をしたか」

「今日、
 困っている人を
 見捨てなかったか」

「それだけで、
 十分だと思う」

沈黙。

長い、沈黙。



代表が、
口を開いた。

「……世界は、
 理由を消せる」

「だが」

「積み重なった今日までは、
 消せない」

誰かが、
小さく頷く。

誰かが、
息を吐く。

決断は、
戻ってきていない。

でも。

揺れは、止まった。



夜。

レイヴァが、
小さく笑った。

「うまくやったな」

「……自信はない」

「それでいい」

「世界は、
 完成を嫌う」

「だが——」

「続く選択には、
 干渉しきれん」

窓の外で、
風が吹く。

居場所は、
また揺れている。

でも。

(……書き換えられるなら)

(……書き直せばいい)

そう思えた。



読者のみなさまへ

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

この章では
世界が“人の選択そのもの”に干渉する瞬間を描きました。
排除でも命令でもなく、
理由を薄めるというやり方です。

もし
「この干渉をどう乗り越えるのか気になる」
「居場所が本物になる過程を見届けたい」
と感じていただけたら、
• 👍 スキ
• ⭐ フォロー
• 💬 コメント
• ☕ チップ(応援)

で応援していただけると、とても励みになります。

いいなと思ったら応援しよう!

ひら🎈 🌟ぜひ応援お願いします🌟 もっとがんばります(ง •̀_•́)ง

この記事が参加している募集