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⑫誰にも救われなかった僕が、異世界では“上限なし”

居場所は、条件付きだった


行商の列は、昼過ぎに小さな村へ入った。

石積みの家。
低い柵。
畑に立つ人たちの、ゆっくりした動き。

(……静かだ)

嫌な意味で、だった。

視線が、合わない。
でも、
背中に当たる。

ミレアは、
いつもより言葉が少なかった。

「……この村、初めて?」

そう聞くと、
少しだけ首を振る。

「最近、空気が変わってて」

「排除者の噂が、
 ここまで来てる」

……やっぱり。

(……居場所は、広がらない)

(……追いかけてくる)



広場に荷車を止めると、
村の代表らしい男が現れた。

歳は五十前後。
落ち着いた声。
でも、目は鋭い。

「行商だな」

「はい」

ミレアが答える。

男の視線が、
僕とレイヴァに移る。

一瞬。
ほんの一瞬だけ。

「……その二人は?」

「道中で、
 手伝ってもらってます」

間があった。

(……来る)

「村に入る条件がある」

代表は、
淡々と言った。

「最近、
 “問題”を運ぶ者がいる」

「排除者を呼び、
 災いを連れてくる存在だ」

「……疑っている?」

ミレアの声が、
少し硬くなる。

「疑うのが、
 役目だ」

代表は、
僕を見る。

「君たちは、
 噂に当てはまる」

空気が、
張り詰めた。

「だが」

男は、
続けた。

「証明できるなら、
 構わない」

証明。

(……何を?)

「今夜、
 村の外れで、
 獣が出る」

「それを、
 処理してほしい」

……なるほど。

(……“安全”の証明)

(……力を使え、ってことか)

ミレアが、
口を開こうとする。

でも、
代表は見ていない。

視線は、
僕に固定されたままだ。

「できないなら、
 夜明け前に出ていけ」

条件付きの居場所。

選択肢は、
二つ。



村を離れ、
広場の端で立ち止まる。

ミレアが、
唇を噛む。

「……ごめんなさい」

「私が、
 連れてきたせいで」

「違う」

すぐに答えた。

「……分かってた」

こうなるって。

(……それでも)

(……どうする?)

力を使えば、
簡単だ。

獣を倒す。
村は安全。
居場所は、
“条件付き”で手に入る。

でも。

(……それは、
 世界の言う“役割”と同じだ)

危険な存在だから、
役に立て。

役に立てば、
居ていい。

(……それは)

(……居場所じゃない)

「……レイヴァ」

小さく呼ぶ。

彼女は、
すぐに隣に来た。

「分かっている」

「どちらを選んでも、
 正解とは言えん」

「だが——」

視線が、
真っ直ぐだった。

「どちらが、お前の選択かだ」

深く、息を吸う。

胸の奥で、
何かが、静かに固まる。



代表の前に、
戻る。

「……引き受ける」

ミレアが、
驚いた顔をする。

でも、
すぐに続けた。

「ただし」

代表が、
眉を上げる。

「条件がある」

「獣は倒す」

「でも」

一歩、前に出る。

「それは、
 居場所の代わりじゃない」

「僕は、
 “証明”しに来たんじゃない」

空気が、
ざわめく。

「助けるのは、
 嫌いじゃない」

「でも」

「それを理由に、
 僕たちを測らないでほしい」

沈黙。

長い、沈黙。

代表は、
僕を見つめる。

「……随分、
 勝手な言い分だ」

「そうかも」

正直に答えた。

「でも」

「条件付きでしか
 存在できないなら」

「それは、
 最初から居場所じゃない」

レイヴァが、
小さく息を吐く。

(……言ったな)



夜。

村の外れで、
獣の気配を感じる。

でも。

(……今日は、
 それだけじゃない)

僕は、
決めていた。

倒す。
でも、
見せつけない。

誇らない。
縛られない。

(……居場所は)

(……作るものだ)



読者のみなさまへ

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

この章では
居場所が“条件付きで与えられる瞬間”を描きました。
力を使えば簡単でも、
それが正解とは限らない。

もし
「この選択の先が気になる」
「居場所はどう作られるのか見届けたい」
と思っていただけたら、
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