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船員のお金の話 〜貯まりやすい働き方と、時間という資産〜

はじめに

「持ち物」「ミニマリズム」と、船員という生き方について書いてきました。この「生き方」シリーズの締めくくりに、もう少し生々しいテーマに触れようと思います。お金の話です。

お金の話は、煽ろうと思えばいくらでも煽れます。「船員は儲かる」「これで一気に貯まる」といった調子で。でも、この記事はそういう書き方をしません。

船員という働き方には、陸の仕事とは違う「お金の流れ方」があります。その特徴を、経験者の視点から、できるだけ淡々とお伝えします。これから海技士を目指す方が、この仕事のお金まわりを知る、ひとつのヒントになれば幸いです。

乗船中は、お金が貯まりやすい

初めての本格的な乗船で、私は半年間、船の上で過ごしました。下船して、ふと預金口座を見ると、250万円以上が入っていました。特別に節約を意識したわけでもないのに、です。学生時代の自分には、とても考えられない金額でした。

理由は二つあります。まず、乗船中は、お金を使う機会が極端に少ないこと。

船の上には、コンビニもショッピングモールも飲食店もありません。仕事帰りにふらっと買い物、という日常そのものが存在しない。なんとなく買う飲み物、付き合いの食事、衝動買い——日々の細々とした出費の機会が、まるごと消えます。

もう一つ大きいのが、住居費と食費です。乗船中は船に寝泊まりし、食事も支給されるので、この二つがかかりません。陸で暮らせば給料の多くが毎月確実に消えていく費目が、そっくり手元に残ります。

働き方そのものが、貯蓄を後押ししてくれる。あの250万円は、私の頑張りというより、この仕事の構造が自然と残してくれたものでした。

同期たちは、それぞれの使い道を選んでいた

下船して大きなお金を手にしたとき、人がどうするか。これが、見事に分かれます。

私の同期たちも、本当にさまざまでした。新車を買った者がいる。バイクを手に入れた者がいる。長期休暇を使って、何週間もかけて海外を旅した者もいる。中には、貯めたお金を元手に、パートナーと結婚式を挙げた者までいました。

何に使おうか、と考える時間そのものが、うれしい悩みであり、楽しみでもありました。

そして大事なのは、ここに使い道の優劣はない、ということです。車が正解でもなければ、旅行が正解でもない。貯め続けるのが偉いわけでもない。それぞれが、自分にとって今いちばん価値のあるものに、お金を充てていた。同じ働き方で、同じように貯めたお金が、こんなにも違う形で使われていく。お金はその人らしさを映す鏡なのだと、あの光景に教わりました。

まとまった休暇という、時間の資産

船員のお金の話には、もうひとつ欠かせないものがあります。「時間」です。

船員には、長期の乗船と引き換えに、まとまった休暇があります。陸の仕事ではなかなか取れない長さ——私の場合は2か月から4か月程度——の休み。これは、お金とは別の種類の「資産」だと考えています。

同期たちが海外を何週間も旅できたのも、結婚式の準備にじっくり取り組めたのも、この休暇があってこそです。陸の多くの仕事では、お金があれば時間がなく、時間があればお金がない。その両方が、社会人一年目からそろう。ここに、この働き方ならではの面白さがあります。

お金と時間の使い道は、その人の価値観そのもの

まとまったお金と、まとまった時間。この二つを同時に手にできることは、船員という職業を選んだ者に与えられた、ひとつの特権です。そして、その使い道には、その人の価値観や人生観が、驚くほど正直に現れます。

大事なのは、まず自分の働き方が持つ「お金と時間の特徴」を、正しく理解すること。船員という仕事は、その豊かな土台を与えてくれます。

その上に何を築くかは、すぐに答えが出るものではありません。私自身もそうでした。船での日々を重ね、経験を積むなかで、自分にとって何が大切かに少しずつ気づき、一歩ずつ、自分なりの答えに近づいていく。お金と時間との付き合い方も、そうやって時間をかけて育てていくものだと思います。

おわりに

「持ち物」「ミニマリズム」「お金」と、三回にわたって船員という生き方を書いてきました。

振り返ってみると、この三本を貫いていたのは、ひとつの芯でした。

それは、「自分にとって本当に大事なものを選ぶ」ということ。

持っていくものを選ぶ。減らして、残すものを選ぶ。そして、貯めたお金や時間を、何に使うかを選ぶ。船の上での暮らしと、その先に待つ休暇は、限られた条件の中で「選ぶ」という行為を、繰り返し私に教えてくれました。その積み重ねが、いつのまにか、生き方そのものになっていました。

これから海技士を目指す方へ。この仕事の先には、決して楽ではないけれど、陸では得られない経験と、人生を考える時間が待っています。お金のことも、その大切な一部です。

手にしたお金と時間を、何に使い、どんな人生を歩んでいくのか。その答えは、これからのあなた自身の航海の中に、きっとあります。

良い航海を。

この「生き方」シリーズは、次の三本で構成しています。あわせて読んでいただくと、船員という働き方の全体像が見えてくると思います。

・第一回
航海士が6ヶ月の航海に持っていくもの 〜航海士のリアルな持ち物リスト〜|りく

・第二回
船が教えてくれたミニマリズム 〜片付けは美学ではなく、安全だった〜|りく

・第三回(本記事)
船員のお金の話 〜貯まりやすい働き方と、時間という資産〜|りく


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