社内AI推進、始めてみたら想像以上に分断が深かった話
元々新しいものが好きなので、ChatGPTリリース後にいろいろいじりながらアウトプットを作って遊んでいました。(当時2023年)



まあこんな拗らせた遊びをしていた訳ですが、うわさが功を奏して会社の人から「社内でAI活用を推進してもらえないか」とお声がけいただきました。
選ばれた3名のプロジェクトということで、正直「いいじゃん、やろう」くらいの軽い気持ちでした。ChatGPTもClaudeも使ってるし、便利なのは自分が一番わかってますので、これをみんなに広めれば、きっと業務効率も上がるし、新しい価値も生まれるはず。そう思っていました。
でも、蓋を開けてみたら、想像以上に温度差があった。
「AIなんて一過性の流行りだろ」と言う人もいれば、「使ってみたいけど、何から始めればいいかわからない」という人もいる。一方で、興味を持ってくれる人もいる。この差、めちゃくちゃ大きい。
この記事は、「社内AI推進に成功しました!」っていう成功事例じゃなく、継続して推進を模索している備忘録として執筆しています。「分断」の正体が何なのか、推進する側がどんな葛藤を抱えているのか、自分の視点から論じていきます。
前提:おめぇの勤め先どんなとこなの?
HR系の無形ソリューション(ITとかは皆無)を提供する企業
人数は大体50-60名ぐらい
営業マンが7割、企画/マーケ/制作/バックオフィス部隊が3割
社内の「3層」
2024年からAI推進を進める中で気づいたのは、社内の人たちが大きく3つの層に分かれているということでした。
①生成AIを上手く使えないか模索している層
この人たちは、AIを日常に組み込もうと模索しており、一定本人なりに解が見えつつある人達です。ChatGPTやClaude、Perplexityといった言語LLMが元となるツールを使っています。 この層は結構新しいものが好きな層ですね。自分で巷にあるユースケースを参考に自分なりに模索している。
当初は議事録やメールなどの軽作業が焦点担っていたところ、現在は企画などのクリエイティブな思考にも活用している様子が見られます。彼らと話していると、「これがない時代にどうやって仕事してたんだっけ?」って本気で言っています。もう戻れない、という感覚です。
②興味はあるけど使えていない層
一方で、こういう人たちもいます。「便利そうだとは思うんだけど、何に使えばいいかわからなくて...」「使ってみたがよく分からん」この層が実は一番多い気がします。AIに対する拒否反応があるわけではなく、むしろ興味はある。それなりに触れていて、壁打ち程度には活用しています。でも、どう活用すればいいのか具体的にイメージできず、試してみてもうまくいかなかった経験があって、模索を止めてしまっている。検索エンジンの延長線上のイメージですね。情報リテラシーの問題もあるでしょうし、単純に忙しくて学ぶ時間がない、というのもあります。
③明確に拒否反応を示す層
「よく分からない」「AIなんて信用できない」「自分の頭で考えなくなるから使いたくない」という捉え方の人達。最初は、この層を「変化を嫌う人たち」って単純に捉えていました。でも、話を聞いていくうちに、実はこのグループにもいろんな背景があることがわかってきました。そもそもIT周りにすんごい苦手意識があったり、顧客からの信頼を何より大事にしているからこその慎重さだったり。
この3つの層が、同じ会社の中に混在しています。そして、それぞれの層の間には、想像以上に温度差があって、推進する側の僕らにとっての壁になってます。
AI活用が進まない「分断」の本質とは
最初は「ITリテラシーの差」だと思っていました。使える人と使えない人の違いは、単純にスキルや経験の差だろうと。 でも、推進していく中で見えてきたのは、もっと深い構造的な問題でした。
①正直、使わなくても既存業務は回せる
これが一番大きいです。AIを使わなくても、今まで通りのやり方で仕事は完結します。納品物も出せるし、顧客も満足してくれます。「今までのやり方で困っていない」という防衛本能は、想像以上に強いです。
そして、正直に言えば、我々推進プロジェクト側が「これは絶対使うべきだ!」と言い切れる強烈なユースケースを出せていない、というのもあります。「便利そう」「効率化できそう」では、人は動きません。特に、日々の業務に追われている人たちにとって、「試してみる」というアクション自体がコスト。この問いに、まだ明確に答えられていません。
②顧客への見られ方に対する懸念
特に、我々のようなHRの無形商材営業を生業にしている会社では、この懸念が強いです。 「AIに頼って提案資料作ってるって思われたら、プロとして信頼されないんじゃないか」「HRのプロなのに、AIに丸投げしていると思われたくない」 顧客との関係性の中で、AIを使うことがマイナスに働くんじゃないか。その不安は、決して的外れなものじゃありません。実際、顧客の中にも「AIで作った提案なんて...」って思う人はいるでしょう。 プロフェッショナルとしてのプライドと、効率化の狭間で、多くの人が葛藤しています。
③シンプルに学習する時間がない
そして、これも無視できません。日々の業務に追われて、新しいツールを学ぶ余裕がありません。 「触ってみよう」と思っても、その時間を確保できません。特に営業や講師陣は、顧客対応で手一杯です。研修の準備、提案書作成、打ち合わせ、フィードバック対応...やることは山積みで、「AIの勉強」なんて優先順位の下の方になってしまいます。 「今すぐ使えないなら、後回し」これが現実です。
④そして、これらが全て「管理職以上」に集中している
ここが一番クリティカルでした。 指示を出す側、評価をする側である管理職層が、①②③の理由で積極的に使えていない状況があります。これは管理職が悪いとかそういう話じゃなくて、むしろ管理職こそが一番忙しく、顧客との関係性に責任を持ち、学習時間を確保しづらい立場にいるということです。
でも、組織の構造上、管理職が使わない/使えないと、メンバー層も「上司が使っていないし...」「使っても評価されるかわからないし...」となってしまいます。積極的だったとしても、リテラシーが低いため、メンバーに具体的な使い方を指導できません。
結果、組織全体として具体的な活用イメージが湧かない、という悪循環に陥ります。 これは誰が悪いというより、組織の構造的な課題なんだと思います。推進側の説明不足もあります(自戒を込めて)。
こう整理してみると、「分断」って実は「技術の問題」じゃなくて、組織の構造そのものが生み出している問題なんだと気づきました。 特に、「評価者・指示者が使っていない/うまく使えない」という事実が、組織全体のAI活用を止めています。これは、どんなに現場が頑張っても、どんなに推進側が啓蒙しても、超えられない壁なのかもしれません。
推進する側もぶっちゃけ葛藤してる
正直に言うと、推進している自分自身も迷いがあります。 「みんながAIを使えるようになるべきだ」と、本当に言い切れるのでしょうか。AIを使わない選択をする自由もあるはずです。それなのに、なぜ僕らは「推進」しなきゃいけないのでしょうか。誰かに強制する権利が、本当にあるのでしょうか。
でも同時に、「使える人と使えない人で、成果に差が出始めている」という現実もあります。 議事録を5分で仕上げる人と、30分かけて書いている人。提案資料の初稿を10分で作る人と、1時間かけて作っている人。この差は、今後もっと広がっていく危機感があります。推進担当として、どこまで「強制」していいのか、どこまで「自主性」に任せるべきなのか。特に、管理職層は本当に忙しい中で会社を支えてくれています。その人たちに「AI使ってください」って言うのは、ある意味さらに負担を増やすことにもなります。
しかし、放置すれば組織全体の変化が止まってしまう。「使いたい人が使えばいい」という考え方もある。でも、それだと結局、使える人だけが得をして、使えない人は取り残されます。組織としての底上げにはなりません。 どうすればいいのか、答えはまだ見つかっていません。
とはいえ進んだこともあった
とはいえ推進していく中で、小さいけど確かな変化も見えてきました。
①「使えた!」という成功体験
懐疑的だった人が、一度「これは便利だ」と感じると、急に使い始めます。この瞬間を何度か目撃しました。 いわゆるクイックウィンってやつですね。特に反応が良かったのは、「自分の業務に直結する具体例」を示せた時です。 いくつか業務に直結するGPTsを作って全社展開。そのうえで実演まで行う勉強会を設計することで、若手の営業担当には興味を持ってもらえて、使って貰えました。
抽象的な「便利ですよ」じゃなくて、「あなたのこの作業、楽になりますよ」っていう具体性が人を動かすんだと。一度成功体験を得た人は、自分で勝手に使い始めます。「じゃあこれもできるんじゃないか」「あれもやってみよう」というこの連鎖が、少しずつ広がってきている気がします。
②世代を超えた学び合い
意外だったのが、世代を超えた学び合いが生まれてきたことです。 若手がベテランにAIの使い方を教えます。「こうやってプロンプト書くと、精度上がりますよ」「この機能、便利ですよ」と。
逆に、ベテランが「こういう業務に使えるんじゃないか」「顧客対応でこう活用できそうだ」ってアイデアを出してくれます。若手には思いつかなかった視点です。 普段の業務ではどうしても縦割りになりがちな組織の中で、AIをきっかけに横のつながりが生まれています。これって、推進プロジェクトの副産物として、すごく価値があることなんじゃないかと思っています。 意外と組織開発にAIはいいかも…?と思ったりしました。これはこれで探究したい。
③「AI使う/使わない」じゃなくて、「どう使うか」の議論に変わってきた
最初の頃は拒否反応が強かったところ、最近は少し変わってきました。「どこまでデータを喰わせていいのか?」「どこまでAIに任せて、どこから自分でやるべきか?」と、論点が「どう付き合っていくか」の議論になってきています。
実は大きな前進なんじゃないかと思っています。 完全に受け入れているわけじゃないけど、完全に拒否しているわけでもない。そのグレーゾーンで、みんなが自分なりの距離感を探り始めています。 「使う/使わない」っていう二元論じゃなくて、「どう使うか」っていう建設的な対話ができるようになってきました。これは、1つ成果だと思っています。
見えてきたことと今後の展望
正直に言えば、まだプロジェクトは道半ばですし、「分断」を完全に解消できたわけじゃありません。 なんなら自分自身のスキルも足りない。Difyとかでアプリ作ってみたりとか色々試したいが自分も学ぶ時間が取り切れていない。歯がゆいです。
でも、少なくとも「なぜ分断が起きるのか」は見えてきました。そして、どうアプローチすべきかも、おぼろげながら形になってきました。 今後考えていること記して締めたいと思います。
・ユースケース開発に、HCD(人間中心設計)のプロセスを導入する
もともとUI/UXに興味があったこともあり、プロセスが応用出来るように思っています。今まで、推進側の「これ便利だから使おうよ」っていう押し付けになっていた部分があります。本当に必要なのは、「現場の人たちが本当に困っていること」から出発することだよなと。
HCD(Human-Centered Design:人間中心設計)はもともとプロダクト開発で使われる手法ですが、AI推進にも応用できるんじゃないかと思っています。「使う人」を中心に置いて、その人たちの課題から設計していく。 なんならそっからノーコードでアプリとか作れるとより良いなと思います。スキルも向上するし
・課題のレバレッジが大きいところにアプローチする
もう一つ重要なのは、「少し便利」レベルではなくて、「これがあるとめちゃくちゃ楽になる!」というインパクトの大きい課題から攻めることです。 「質を担保するために、時間をかけてやらんといけない」タスクこそ、AI活用のレバレッジが大きいです。ここで成功体験を作れれば、「AIって本当に使えるんだ」って実感してもらえるのではと思っています。
あとChatGPT含む言語型のLLMを基にしたサービスって一般人からするとUXがそんな良くないことに気がつきました。ユーザーの言語化力、読解力に色々依存するし、あとは何より一気に出てくる情報量を読み解く認知的コストが高い。営業担当からすると行動していくうえでの枷になる訳です。
なので日常の業務プロセスに「融かす」必要がある。勝手にAI使ってました、という状況を作ることが理想。汎用的に使ってもらうためにはユースケースのUX設計がすっごい大事なんだろうと思います。
・どういう順番で使うのか
・どんなプロンプトをAIに投げればいいのか
・出力をどう修正・活用すればいいのか
・何に気をつければ安全に使えるのか
ここまで含めて、使いやすいフローにしないと、結局「使われないツール」で終わってしまうように思います。
まとめ
HCDのプロセスも、ワークショップも、全部うまくいくかはわかりません。正直、まだ不安もあります。
でも、少なくとも「推進側の独りよがり」から「現場と一緒に作る」にシフトすることで、何か変わるんじゃないかとも思います。
AI推進は結局「技術導入プロジェクト」ではなく、「組織開発のプロジェクト」に近しい。
技術の話じゃなくて、人の話、組織の話、関係性の話に向き合わないと、どんなに優れたツールを入れても、使われないままで終わります。同じように推進する立場にいる人、あるいは「AI使う/使わない」で悩んでいる人と、一緒に考えていきたいです。
あなたの職場では、どんな「分断」が起きていますか?どんな工夫をしていますか?感じたことがあれば、ぜひコメントで教えてください。
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