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#4|給湯室のチェックリスト④本当に走るべき場所は?『追いつけない』を勝手に語る

給湯室のチェックリスト

昼休みの給湯室。
今日も3人が、気になった話題を勝手に語り始める。

A子(24):SNSで見たら、とりあえず信じる。
B子(33):「わかる!」が口ぐせの愛され姉さん。
C子(43):経験豊富な頼れる先輩。でも推しの前では乙女。

(給湯室のドアがガラガラッと開く。マイボトルに氷がカランと入る音と、湿布をペリッと剥がすような音が響く)

B子:いったた……。ねえA子、ちょっと聞いて。私、週末に出来心でランニング始めたら、今朝からふくらはぎが爆発しそうなんだけど。

A子:あ、それ完全に『名前のないチェックリスト』第4話に影響されてますね? あゆみちゃんに誘われて、朝の皇居ランに突撃した「りおちゃん」のやつ。

B子:そうなのよ! 「ハイスペックは朝ランして頭を冴え渡らせて、仕事のパフォーマンスを上げてる」って言われたら、なんか「変わらなきゃ!」って焦っちゃうじゃん! で、りおちゃんが薄暗い皇居に行ったらさ、ランナーの波の中に、またいたでしょ。

A子:出ました、我らが「たくや」! いやもう、私の中でたくやの株価、ストップ高ですよ。朝の光を浴びて、イヤホンつけて一定のリズムで皇居を颯爽と走るハイスペック外資IT。横顔の減点ゼロ。最高じゃないですか?

B子:でもさ、りおちゃんとあゆみちゃん、数十メートルで息が上がって即脱落よ? たくやの背中は他のキラキラしたランナーの波に紛れて、あっという間に遠くなっちゃうの。あの置いていかれる感じ、めちゃくちゃリアルで胸がギュッとなったわ……。

A子:うーん、でも今回は、りおちゃんがちょっと勝手に傷つきすぎな気もしますけどね。だって、ランニングなんて自分のペースで走ればいいだけじゃないですか。SNSのインフルエンサーだって、みんな最初は初心者ですよ。まずは「#朝活」ってストーリーに載せるだけで自己肯定感爆上がりなのに。可能性は無限ですよ!

C子:(背後から無音で入ってきて、無言で腰をトントン叩きながら) ……浅いわね、二人とも。

A子・B子:あ、C子さん。

B子:C子さん、腰痛ですか? もしかしてC子さんも皇居を……?

C子:バカ言わないで。私は週末、推しの限定アクスタの先着販売にスマホ連打で挑んで指が腱鞘炎(けんしょうえん)なだけよ。……それより、4話の本質はそこじゃないわ。

A子:え、たくやの朝ランのフォームの美しさじゃないんですか?

C子:違うわよ。「追いつけない憧れの世界」のグロさよ。あゆみちゃんはシャワー浴びた後に「これで頭が冴えるらしいよ、仕事はかどるって」って、受け売りの意識高い系なセリフを言うじゃない。でもりおちゃんは、昼になっても夕方になっても、体がずーっと朝の疲労を引きずってるの。

B子:あー……。頭が冴えるどころか、ただただ体力を消耗して置いていかれたっていう現実だけが残るんですよね。今の私です・・・。

C子:そうなのよ。世間が言う「丁寧でハイレベルな暮らし」の枠組みに無理やり自分をハメ込もうとして、心も体もすり減らしてる。帰宅して靴を脱いだ瞬間、ゴミ箱の相談所のパンフが目に入って『私は、何を追いかけてるんだろう』って立ち尽くすあのラスト……。身の丈に合わない憧れを追いかけるのって、ただの自傷行為よ。……まあ、私は一切無理をしなかったから、いまだに独身だけどね。

A子:出た、C子さんの達観独身論。でもC子さん、じゃあ「変わらなきゃ」って思って行動した、りおちゃんの努力は無駄だったんですか?

C子:無駄じゃないわよ。でもね、他人の靴を履いて走っても、靴擦れするだけなのよ。本当に走るべきなのは、皇居じゃなくて「自分の心の中」よ。

B子自分の心の中……。

C子:(急に目が完全に100%の乙女モードに切り替わり、声のトーンが3オクターブ上がる) いい!? 私の推しの「レン君」を見てごらんなさいよ!!!

A子:はいはい、魔界のプリンスですね。

C子:身長185cm、職業・魔界のプリンス、年収・国家予算レベル!!!キプチョゲ級なのにヒロインの歩幅で歩ける男!!! の彼がね、第4話でヒロインの泥団子が潰れた時、マントを泥まみれにして一緒に丸め直した場所はどこだったと思う!?

B子:どこ、ですか……?

C子:ただの、そこらへんの道端よ!!! 皇居でもなければ、お城の舞踏会でもない!!! 泥まみれの日常のど真ん中よ!!! レン君はヒロインに「魔界のトップランナーになれ」なんて求めてないの!!! ありのままの泥団子を受け入れてくれるのよォォォォン!!!(悶絶しながら給湯室のドアの隙間に挟まりにいく)

A子:C子さん! ドアに挟まるとリアルに呼吸ができなくなりますから戻ってきてください!

B子:はぁ……。でも確かに、りおちゃんが「私は何を追いかけてるんだろう」って気づき始めたのは、ある意味、自分だけのチェックリストを作り始める第一歩なのかもね。

A子:そうですね。たくやの背中は遠ざかっちゃったけど、ここからどうやって自分のペースを見つけるのか……。私、続き読んできます。

C子:(ハッと我に返り、何事もなかったかのように髪を整える) ……コホン。いいわ、次を読んだらまたここで集合よ。

(C子、マイボトルを手にスッ……と風のように去っていく)

A子:……C子先輩、レン君のことになると完全に自分の世界に突っ走ってますね。誰も追いつけない。

B子:間違いないね(笑)。……さ、仕事戻ろ。私たちはハイスペックな朝ランじゃなくて、ローテンションな定時退社を追いかけましょ。

(二人はコーヒーを手に、足取り重く給湯室を後にする)

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私は皇居ランに憧れたものの、いつの間にかモーニングが目的になりました(笑)。


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