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第十二話 視線|新しい春

第三章 ユウ先輩編
第十二話 「視線」

好きだと気づいてから、
大学へ行く朝が、
少しだけ変わった。

サークルのある日はもちろん。

何もない日だって、
キャンパスを歩いていると、
気づけば人混みの中を探してしまう。

会える約束なんて、
していないのに。

今日、いるかな。
会えたらいいな。

そんな小さな期待を抱えて、
大学へ行くようになっていた。


サークルの日。

気づけば、
ユウ先輩を目で追っていた。

ふいに、
ユウ先輩がこっちを向く。

慌てて目を逸らした。

……今、見てたのバレたかな?

そう思いながら、
少ししてまた見てしまう。

今までだって、
同じようにそこにいたはずなのに。

好きだと気づいただけで、
横顔も、
笑い声も、
何気ない仕草も、
ひとつずつ、目に残るようになった。


サークルが終わった後、
校舎裏へ向かう。

夕方の風が、
昼間より少し涼しい。

いつもの植え込みが見えてくる。

「あ。」

先に来ていたユウ先輩と目が合った。

「また来た。」

「先輩もじゃないですか。」

そう言いながら、
会えたことが嬉しかった。

「まあね。」

先輩がやさしく猫を撫でた。

「ユウ先輩って優しいですよね。」

「そう?」

「猫のこと放っておけないですよね?」

「うーん。」

ユウ先輩は、
猫を撫でながら少し首を傾げた。

「リオも来てるし。」

「え?」

一瞬、心臓が跳ねる。

「リオだけだと、まだ緊張するかもじゃん。」

「え……猫が?」

「そう。猫が。」

ユウ先輩が笑う。

「もう、めっちゃ仲良しですよー!」

私も笑った。


夕方の風が吹くたび、
植え込みの若葉が
さらさらと音を立てる。

この場所で過ごす時間が、
いつの間にか楽しみになっていた。

「そろそろ帰るか。」

「…はい。」

立ち上がって、並んで歩き出す。

肩が触れるほど、
近いわけじゃない。
手が触れることもない。

ユウ先輩は、いつもと何も変わらない。
変わったのは、私だけだった。

名前を呼ばれると、
嬉しい。

目が合うだけで、
一日が少し特別になる。

別れたばかりなのに、
次はいつ会えるかな、
なんて考えてしまう。

好きな人がいる毎日は、
思っていたより、
ずっと楽しかった。

明日も、
会えたらいいな。

そんなことを思っていられたのは、
まだ何も知らなかったから。


第十三話へ続く



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