第九話 SAKURA|新しい春
第三章 ユウ先輩編
第九話 「SAKURA」
この日の授業は三限で終わりだった。
「いいなぁ。」
ユリが机に突っ伏す。
「私たち、四限まで授業あるよー。」
笑いながらバッグを肩に掛ける。
「頑張ってね!お先に。」
「また明日ね。」
教室を出ると、
夕方にはまだ少し早い、
やわらかな日差しが校舎を照らしていた。
バッグの中から、
ピンク色のiPodを取り出した。
イヤホンを耳につける。
何曲も入っているはずなのに、
気づけば指は、
『SAKURA』を選んでいた。
この曲を聴くと、高校の頃を思い出す。
卒業して、
みんなそれぞれ新しい生活が始まった春。
前へ進もうと思うたび、
気づけば、この曲を再生していた。
理由なんて、
自分でもよく分からない。

そのまま校舎裏へ向かう。
もちろん、
猫に会うため。
……そういうことにしていた。
植え込みの前まで行くと、
茶トラの猫は今日も
暖かい日差しの下で丸くなっていた。
「いた。」
しゃがみ込んで頭を撫でる。
猫は目を細めて、
気持ちよさそうに喉を鳴らした。
「今日はご機嫌だね。」
少しだけ遊んでから、
私は立ち上がる。
「またね。」
猫に手を振って、校門へ向かった。
イヤホンから流れる音楽に
耳を傾けながら歩いていると、
「あ。」
向こうから歩いてきた人と
目が合った。
授業終わりの
ユウ先輩だった。
「あ、お疲れ。」
「お疲れさまです。」
私がイヤホンを外すと、
ユウ先輩がiPodに目を向ける。
「何聴いてるの?」
「いきものがかりです。」
「へぇ。」
「『SAKURA』って曲で。」
ユウ先輩は少し笑った。
「春終わるのに?」
その言葉に、
私もつられて笑う。
「気づくと、聴いちゃうんです。」
「そういう曲あるよね。」
ユウ先輩はそれ以上、
理由を聞かなかった。

「じゃあ。」
ユウ先輩がコンビニの方へ歩き出す。
「あ、そういえば。」
思わず呼び止めた。
「今日もいましたよ。」
ユウ先輩が思わず笑う。
「会ってきたんだ。」
「じゃあ、帰りに寄って帰ろ。」
その後ろ姿を見送りながら、
私はもう一度イヤホンを耳につける。
『SAKURA』が静かに流れ続ける。
この曲を聴く理由は、
まだ自分でも、
よく分かっていなかった。
第十話へ続く
私の高校生の頃の恋は
こちらから🌸
