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[オアシスvsブラー]ゾンビですが何か?[君はどっち派?] その18

前回のあらすじ
(プロジェクト・エッグ
egg = Everyone’s Gal & Gyaruo
全人類ギャル男&ギャル化計画
)

Lately did you ever feel the pain
In the morning rain.
As it soaks you to the bone.

オアシスvsブラー
ゴスロリおばさんゾンビを撃退してから、俺は昼間は室内で身を潜め、夜は近所を徘徊して10Gaで野良ゾンビをフリーズさせる練習をしていた。
そして、人間とゾンビの数が逆転するのをじっと待った。
こうなってしまった以上、このゾンビの身体でやっていくしかない。
ゾンビウイルスを作って、ばら撒いたのは藤村で間違いないだろう。
まだウイルスが世界中に撒かれる前に、俺が9Gaを介して橘の精神世界で一瞬だけ見たヴィジョン。そこには確かに、藤村と、ゾンビがいた。
橘は知っていた?..…。もしくは、何かを予感していた。
俺は鏡を覗いてみた。ゾンビが映る。
この先、絶対に幸せになれない気がする。
ゾンビに訊ねる。
俺をこんな姿にした藤村が憎いか?
正直、よくわからなかった。
世の中がこんなにメチャクチャになって、もう新しい映画や漫画やアニメが作られる事はないだろうな。
それに関しては寂しく感じた。
俺には、何かしら生まれつき諦観のような物が備わっている。
祖父母に育てられた事と関係あるのだろうか。
今まで、たくさんの映画を観てきた。
映画の中では、宇宙やら深海やらキャンプ場やらで、みな散々酷い目にあっていた。
実は現実も、そう変わらない。事故や病気や事件や災害で誰もが酷い目にあっている。
とうとう自分の番が来た、ただそれだけの事なのかもしれない。
しかし、これが故意の人災であるのなら、せめてその理由を知りたかった。

* * *

慎也は藤村と橘と3人で飲みに行った事があった。

いや、正確には飲みに行ったのではなく、1度目は慎也が1人で飲んでる店に、偶然2人が来た。2度目は慎也がたまたま1人で飲みに入った店に、2人が居たのだ。
どちらの時も、慎也は2人に見つからないように隠れようとしたが、『あ、大倉君じゃん!』と橘に見つかって、強引に3人で飲む事になったのだ。
大した話はしなかった。
藤村はオアシス派で慎也はブラー派で橘は椎名林檎が好きとか、そんな感じだ。

藤村はいくら飲んでも何も変わらなかった。慎也と橘はベロベロになっていた。

店内はやや煙たく、焼き鳥の香ばしい匂いが鼻をつく。テーブルの上には、枝豆、キムチ、いぶりがっこ、ほっけの一夜干し、唐揚げ、つくね、サラダ、蛤の酒蒸し、冷や奴。
慎也は生ぬるくなったレモンサワーを口に運びながら、斜め向かいの藤村と、その隣の橘を眺めていた。
藤村「...…つまりリアムの声その物がパンクスピリッツなんだよ。労働者階級の怒りと誇りが詰まってるんだ。その声が、あのノエルが紡ぐビートルズ直系の美しく悲哀のあるメロディーに乗る。完璧だ。完璧なんだよオエイシスは」
慎也「ぐぬぬぬ、、」
いつもこうだ。オアシスファンと論争して勝った事は1度もない。
「彼らはたった2人でブリティッシュロックの歴史全てを体現しているんだ。」
「悠君はオアシス語らせるとうるさいんだよね」
橘が口を挟む。グラスに口をつけながら、目だけが藤村を射抜いていた。
恐らく、20以上歳上の彼氏の事を、橘は『悠君』と呼んでいた。
尤も、藤村の見た目はどう見ても20代後半〜30代前半にしか見えないなので、特に違和感は無い。
藤村「ああ。ボンベイロールもギャラガー兄弟から教わったからな」
橘「ボンベイロール?」
慎也「やめろ橘!その穢れた大人の声に耳を傾けるな!」
藤村「あれ?橘にはこの話してなかったっけ、、じゃあ今度試してみるか。デュフフフフフ」
橘「試す?別にいいけど」
慎也「ああああああああああああいやああああああ」
橘「なんか大倉君が大ダメージ喰らって、泣きながら後ろに吹っ飛んでったけど」
「泣いてないやい!生レモンサワーの汁が目に入っただけだい!…グスン」
慎也はネギと鰹節が乗った冷奴に醤油をかける。
「いや、俺もオアシス1枚目はめっちゃ聞いたんすよ。それこそ、すり切れるくらい。でも2枚目、なんか違うなって。完成され過ぎてるっていうか」
「まず大前提として」藤村が、冷奴にポン酢を垂らす。「オアシスは君の為にアルバムを作ってるわけじゃない。君の事なんかオアシスは知らない。それに、毎回同じようなアルバムを出して何が面白いんだ?アーティストもリスナーもお互いに自己実現の為に、日々努力し、進化していく。それがあるべき姿だ」冷や奴に柚子胡椒を乗せた藤村が、冷たく言い放つ。
「ああああああああああああいやああああああ」
「あ、また吹っ飛んだ」
慎也は涙目でキムチを冷奴に乗せる。
「違うんスよ。ブラーの良い所は、バンドマジックを信じてるって所なんですよ」
「バンドマジック?」サラダに入っていたミニトマトを冷奴に乗せながら橘が聞き返す。
「デーモンはゴリラズで大成功、グレアムもドラマのサントラで高い評価、アレックスはチーズで女王賞、デイブは弁護士で副代議士。
もうブラーやらなくてもいいのに、また集まるんすよ。それは友だちだからっていうのもあるけど、彼らがバンドマジックに魅了されてるからに他ならない」慎也はトートバッグからベビースターラーメンを取り出して、冷奴にそれをかける。
「長々と喋ってくれたのに申し訳ないが…」藤村がスーツの胸ポケットから韓国のりを取り出し、冷奴に乗せながら、低いが、よく通る声でさらに冷たく言い放つ。
「君はバンドのバックグラウンドを説明してるだけだな。それは曲の良し悪しとは何の関係もない事だと思うが」
「ぐぬぬぬぬ、、」慎也は苦し紛れに、スライスされたアボカドを冷奴に乗せた。
「私、ブラーって聴いた事ないけど、顔は好きだな。特にベースのカレ。モデルみたい」橘が冷奴にラー油とごま油をかけながら呟く。
「黙れタチバナ!おまえのような表層ファンがグレアムをうつ病に追い込んだんだぞ!」慎也が納豆とオクラを冷奴にかけながら橘を睨め付ける。
「びええええええええええええええええええん」
「あ、泣いた」
「わ、わわ、ごめん、、スウェーデンのブラーと呼ばれたビンゴピンコのCD貸すから、もう泣くな。あれサブスクに無いんだよ」
「ぴんこ?」
「断言しよう。オアシスは必ず再結成する」
「いや、それは俺でもわかります」


藤村がトイレに行っている間に、慎也は酔っ払った勢いで、橘に確信に迫る質問をしてみた
「橘さんて、藤村部長のどこが好きなの?」
「ぜんぶ」
慎也は近くの店員を呼び止めた。
この店で一番強いお酒を持ってきて下さい。あと冷奴も
冷奴になめたけを乗せながら、橘は続ける。
「なんて言うんだろうな。あの人には、承認欲求とか、自己顕示欲とか全くないの。善悪の概念もたぶん無い、というか意に介してない、ただ純粋に、物事を良い方向に進めようとして、ずっと研究を続けているの。
今までも、たった一人でずっと戦ってきたし、これからもたった一人でずっと戦って行くんだろうな。私はただ、そんなあの人を、一番近くで見ていたいなって思ったんだよね」

藤村が、トイレから戻ってきた。
「藤村部長って兄弟いるんスか?」塩でもんだきゅうりを冷奴に乗せながら、慎也は何となく訊いてみた。
「ああ、ひとまわり下の弟がいる」
椅子の上に立ち上がって上空から冷奴にオリーブオイルをまわしかけながら、藤村は目を細めた。
それがどういう感情なのか、慎也には読み取れなかった。
「うそ!初めて聞いた。悠君の弟、会ってみたい!」冷奴にみょうがを乗せる橘。
「今はどこで、何してるか知らんが、あいつくらいだろうな、俺以上の天才は」藤村はじゃこをかける。
「弟こわ!やば!」慎也は梅肉をのせる。
「ただ、もし俺がアイツとバンドを組んだとして.…」藤村は通りかかった店員を呼び止め、冷奴を下げてもらう。
「.….歌うのは、この俺だ!」
「自己顕示欲も承認欲求もあるじゃねーか!」
橘を見ると、目がハートになっていた。糞が。

慎也は酒の力を借りて、藤村に絡む。

「おいっ藤村部長!俺と勝負しろ!」
「勝負?なんでだ?」
「なんでもだ。勝った方が橘を送って帰る」
「え?私、悠くんと帰るよ。泊まるし」
「....…勝った方が何も乗せてない冷奴を食べれるってのはどうですか?」
「よし、乗った。決まりだ」
藤村がウーロンハイを啜る。
「.…で、対決って何で勝負するんだ?腕相撲かなんかか?」
「大喜利対決にしましょう。解答は紙ナプキンにマジックで書く。橘さん、お題を頼む」
「え!?、お題!?」油断していた橘が焦り出して、スマホで何やら調べ始める。
「大喜利か.…。笑点はたまに見てたけど、やった事はないな」藤村が頭を掻く。
慎也はかつて見た、プロジェクトエッグのプレゼンを思い返していた。プレゼン内容は戦慄すべき物だったが、ステージでの態度から察するに藤村部長には、笑いのセンスは皆無だ。勝てる!
橘はどっかのサイトでお題を見つけたらしい。
「えーと、、じゃあ。
池上彰さんが『愚問ですね〜』 さて、どんな質問?

これは.…いいお題だ。さすが橘さん。
「はい」藤村が手を上げる。早っ!
しまった、先手を取られた!
「じゃあモーニンググローリー悠君」橘が司会をつとめる。
藤村が紙ナプキンを広げる。

『ねえ、、本当に今年中には奥さんと別れてくれるんだよね?』
『愚問ですね〜』

「ギャハハハハハ!悠君おもしろーい!」橘が爆笑する。

強い!あの池上彰さんが、不倫相手とベッドで煙草を回し吸いする姿が目に浮かぶ。
しかも、この藤村のイケメン顔とイケボから繰り出される、ちょいシモ寄りな回答..…これなら港区女子も即KOだろう。
ここは時間をかけちゃ駄目だ。
被せるように回答しないと、プレッシャーでやられる!
「はい!」慎也は手を上げた。
「じゃあパークライフシンヤ君」橘が適当な名前を付ける。

慎也は紙ナプキンを広げる。
『えー、、緊急警報!とつっ 突如、太平洋沖15キロ地点に、巨大生物出現!』
『グモンですね〜』

「.…ん?…あー怪獣の名前って事?そっかそっかー…」橘が目を細める。
「そういう変化球の回答は、もう少しラリーが続いた後に出さないと、伝わりづらいんじゃないか?あと噛んだよな?」大喜利デビューの藤村が、的確なアドバイスを垂れる。
橘「モーニンググローリー悠君の勝ちー!」
藤村「冷奴持って来てー!」

平和な時代の、平和な夜。

* * *

俺は、橘の人を見る目は、正しいと思う。

藤村に会って、直接聞くしかないな。ゾンビの事、ウイルスの事、何で俺だけこんなに中途半端なのか。何より、橘の事。
俺は10Gaをジュラルミンのアタッシュケースに入れた。このケース自体が1.21ジゴワットの充電器になっている。
メガネ拭きも。念の為、親指程のビクトリノックスのナイフも持って行こう。あとは北天バイオ技研の社員証。
持ち物はこれだけだった。
北天ヴィレッジまでは、普段ならバスで駅まで20分、そこから電車で45分。そこから徒歩10分。
交通インフラが麻痺した現在、徒歩でいくしかない。遠いな。でも行くしかない。
俺はニューバランスのスニーカーを履くと、玄関を開けて外へ出た。
腐敗と自由と暴力と、恐怖と希望と幻滅のまっただ中、
ゾンビとウイルスが支配する世界へ。


第19話
https://note.com/ripe_slug9732/n/n6670e022e0ae

第17話
https://note.com/ripe_slug9732/n/nead4ecfffd13

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