秘密の部屋からドラキュラを蹴り出す|また!ニデック不正@#2生きた教科書を読む
リスクコラム中井です。
むかし、部内で「NHK」と呼ばれていました。NAKAIのN、H●●●●●●のH、K●●●●●のK――3人の頭文字をとってNHK。
誰それが、酔って転んだだの、部長に楯突いただの、人事はどうなるだの……たわいもない秘密を放送局みたいにしゃべる御三家の略称です。
ただ、一番ニュースバリューが高い人事については情報パイプが細いので、間違っているか、みんなが既に知っているかの弱小放送局でした。
「4月から会社の広報担当者」という自分の人事を、後輩からの年賀状で知るーーウソのような本当の体験もしたポンコツです。
■会社の秘密
会社の秘密末端に接する広報担当者になって、悔い改めることになります。週刊誌の取材力の高さに驚かされたからです。
「金銭着服があったでしょ」とか「商品をめぐって相手方から怒鳴り込まれましたね」とか、記者さんに尋ねられるのです。
外部からのクレームは事実、金銭着服は結局本当ではなかったのですが、噂が流れた段階で早くも把握されていたことになります。私の知る週刊誌は、怖かったです。
■最強文春にA氏鉄壁
もちろん最強の取材力を誇るのは週刊文春で異論ないかと思います。でも、残念だったという珍しいお話です。
世界的なモーター製造販売企業「ニデック」(京都市)の不正会計。第三者委員会の調査報告書で、<不正を闇で処理する存在>と指摘された「特命監査部長A氏」が、秘密の鍵を握る人物だと目されてきました。ただ、第三者委員会もA氏に接触できておらず、全容は闇の中です。(☞欄外①)
この3か月間、日がたつたびに「じっくり取材しているんだな」と期待して待ち続けた文春の記事は、やっと5月28日号に載りました。
<「ゲシュタポ」特命部長の正体」> タイトルは刺激的なんですが、大雑把な年齢、学歴・社歴と自宅での親族取材……。うん? これだけ?
親族を通して取材拒否されたようで、お得意の直撃インタビューとはいきませんでした。
文春のことですから、綿密な取材を重ねたのでしょう。それでも、対面すら叶わなかったと読めるので、A氏の防御が鉄壁だったのだと思います。
一本釣りしたA氏を分身のように使ったのは、創業者永守重信氏です。幹部の経営責任を検討する別の委員会も、A氏証言が得られなければ、永守氏の責任を確定させるのは難しいのではないか。A氏の握る鍵はたぶん、とても重要です。
■「ドラキュラの法則」
ニデックに限らずどの組織にも、秘密はあります。リスク管理の永遠のテーマですが、悪い秘密は漏れたほうが良いと思っています。
人気作家江上剛さんは、銀行員のころに広報部幹部として奔走していました。約17年前の新聞インタビュー記事(「時代を駆ける」)で、不祥事の対応には「ドラキュラの法則」があると語っています。
<ドラキュラは光を当てれば死ぬ。(不祥事も)隠ぺいしたり、もみ消したりせずに、公表することが大切>という教えです。
ニデックが不正経理にとどまらず、2026年5月13日、顧客の確認なしに製品の部材や工程、設計などを変更していた「不適切行為」があったと自ら公表したのは、本当に良かったと思います。
顧客を騙すという物づくりの根幹に関わる重大案件ですし、情報コントロールはあまり上手くない(☞欄外②)再度のお騒がせですけど、少なくともドラキュラに光は当てたわけです。
■秘密の「価値」
ニデックをめぐって、「秘密」について考えてきました。
最後に、整理しておきます。
不幸にしてドラキュラ(=不祥事やトラブル)を抱えた場合の対処法は、二つに一つ。
① 騒ぎは覚悟のうえで、玄関から蹴り出して光に当てる
② 将来の惨事は考えないようにして、奥の部屋に隠す
個人も組織も同じですけど、どう決断するかです。
社内人事から企業不祥事まで、秘密は秘密だから価値があります。
人事が公表されていないから、頼りないポンコツの話でも聞きに集まる同僚がいる。テレビや新聞が報じていないスクープだから、週刊誌は血眼になって走り回ります。
その延長上で想像力を、グィーンと働かせていくとーー
最悪の場合、奥の部屋に漂う腐臭をかぎつけた良からぬ人たちが、「秘密が持つ価値」を我が物にするケースにまで至ります。実例は過去にいくつもあるのです。(☞欄外③)
鍵付き部屋に秘密を隠せば、「将来の惨事」を招くリスクもはらむ。私のような小心者だと、安心して眠れないハズです。
強い覚悟を固められないなら、秘密の部屋からドラキュラを蹴り出すしかないと思うのですが、どうでしょうか?
◆ ◆ ◆
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。次の世代に後ろ指をさされないように、また、頑張ります。 <了>
【欄外①】ニデックについては、今回2度目の原稿です。初報はこちら↓
【欄外②】上手くないと思う理由:最終報告書末尾で第三者委員会はわざわざ、<当委員会は、今般の一連の会計不正事案は、モノづくり企業としてのニデックの実力に疑問符を投げかけるものではないと考えている>と言及しています。その直後に品質に関する「不適切行為」が発覚して疑問符がつくわけですから、ダッチロール感は否めません。
【欄外③】最近ではこんな例もあります↓
*ロクの祈り「あした天気になあれ」

