【登山と経営】”山の足は山でしか鍛えられない”とキャリア開発の共通点
登山家の格言に、「山の足は山でしか鍛えられない」というものがあります。キャリア開発も同じです。仕事の能力は、机上の学びだけでは決して高められません。この「登山と経営シリーズ」の第三弾では、「ジムより山、MBA本より現場仕事」という視点から、本物のスキルを身につける方法、キャリア開発の最適解について考察します。
1. ジムトレ(筋トレ)と山トレの違い
ランニングマシンで走ったり、平らな道を何十キロもウォーキングしたり、ジムでバーベルスクワット等の筋トレを繰り返しても、それは「走る力」や「基礎体力」や「大腿四頭筋の筋力」を鍛えることにはなっても、本物の「山を登る足」を作ることはできません。
登山道は、平坦な道だけではありません。木の根や細かな砂利で足を滑らして手を怪我をすることもあれば、不安定な岩に足を置いてしまい捻挫することも、ぬかるんだ土や濡れた岩で転倒して大けがをすることもあります。
そして、急な坂を何百メートルも登り続けたり、数メートル先も見えないような岩山を登る行為は、都内のビルを何段登っても得られない、独特な負荷を体にかけるのです。また、その急斜面を下る際の膝や太ももへの衝撃は、ジムでのスクワットやランジ等の筋トレでは決して再現できません。
外部環境である、天候が変化することもジムトレとの大きな違いです。同じ山の同じルートでも、全く同じコンディションの日はない、と言っても過言ではありません。
これらの経験を繰り返していく中で、体幹や心肺機能は徐々に山に適応し、鍛えられていきます。それは、ジムでどれだけトレーニングを積んでも得られない、本物の「山登りの足」なのです。

2. 仕事の能力は「仕事」でしか高められない
これは、私たちの仕事の能力にも同じことが言えます。
コンサルタントは、経営理論やSWOT分析やマーケットリサーチを駆使して、美しく完璧な事業戦略プランを描くことができます。ビジネススクールに通えば、多くのセオリーや成功事例を学び、中には交渉術の授業でロールプレイもするかもしれません。
しかし、それは、登山に例えれば、ジムでのトレーニングにすぎません。
顧客との契約交渉が土壇場で破談になった際の絶望感と、また別の場では破断の原因を事前に取り除き回避できた時の冷や汗。
新規事業の資金調達がうまくいかず、撤退の決断を迫られた時の苦悩。
チームメンバーとの意見衝突を、粘り強く対話して乗り越えた時の高揚感。
厳しいメッセージを伝えなければいけない部下との難しい面談を乗り越えた時の安堵。
これらはすべて、教科書やロールプレイでは決して味わうことのできない、ビジネスという予測不能な「山」でしか得られない経験です。
教科書と違い、実際の現場は一つとして型通りには進みません。ロールプレイと違い、ビジネスの現場の相手は真剣な、生身の人間です。教科書に描かれた、完成した理論ができた当時と現在とでは、時間軸が数年から数十年ずれています。
現代の社会環境、技術的環境、競合環境においてのビジネス理論は、今、正に現場の皆さんがその事例を作っているところなのです。
3. 経験が「勘」となり、「判断力」となる
そして、何度も、さまざまな「山」を経験するうちに、私たちは本物のスキルを身につけていきます。
登山で言えば、等高線地図を見ただけでその難易度や難所を理解できるようになり、登山中は足を置くべき安定した岩とぐらつきそうな岩、滑るタイプの根っことしっかり摩擦のある木の根、などを瞬時に見極められるようになります。山の形状と天候を読み解き、着用する靴や携帯する装備を適切に選ぶ勘が養われていきます。
これは、仕事も同じです。
失敗を繰り返す中で、成功への最短ルートを直感的に見つけ出す
顧客との対話から、言葉にはならない真のニーズを汲み取る
チームメンバーのわずかな表情の変化から、プロジェクトの危険な兆候を察知する
これらの能力は、座学では絶対に身につかない、仕事を通してのみ鍛えられる「勘」や「判断力」なのです。
4. 「実践」と「座学」、どちらも欠かせない理由
とはいえ、ジムトレ好きな私は、そのジムトレ=筋トレによる体力増進効果があることは否定しません。
スクワットにより山の斜面を登るための太ももとお尻の筋力を鍛えられます。上半身の筋トレにより、鎖場の多い岩山を登る腕力を鍛えられます。雨の日にもジムであればトレーニングを続けられます。
同様に、MBAホルダーの皆さんはビジネスの理論を熟知しています。心理学や学んだ営業は鬼に金棒です。AWSの全部の資格を取得した技術者は、何も持たない技術者よりもエンジニアとしての信用があります。
”士業”と言われる弁護士、公認会計士、税理士、弁理士、宅建士としての仕事をするには、そもそもその資格を取得しなければ実務にあたれません。
ジムで基礎体力を付けた上で、登山で山の足を作り、そしてまたジムで弱点を補強して、より険しい山に挑む。ビジネス書で基礎知識を身に付け、現場で使ってみる、そしてまた別の本で知識を補強して、より大きな事業にあたる。
理論と実践の繰り返しが、キャリアアップの最短の道なのです。
5. 目の前の「山」を、自分の足で登ってみよう
知識は、山に登るための地図やコンパスです。しかし、実際に山を登る力を与えてくれるのは、日々の仕事での小さな挑戦です。
目の前の仕事がどんなに地味で、大変な「山」に見えても、逃げずに一歩ずつ登ってみましょう。
その一歩一歩が、きっとあなたを次の景色へと連れて行ってくれるはずです。
最後に、これまでキャリア開発に関する記事をたくさん書いてきましたが、最も重要なのは、今日の仕事、今週のタスク、今月の目標に、一つ一つ真剣に向き合うことです。
以上、ここまでお読みいただきありがとうございました。
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