イリュージョン・サーガ 【第1話】
あらすじ
魔獣に育てられた主人公は、老魔獣の遺言を胸に世界を旅する。彼は様々な世界を探索し、驚異的な風景や独特の文化、そして奇妙な生物と出会う。彼の旅は、広大な草原や深い森林、不思議な都市、幻想的な妖の里、そして未知の世界へと広がっていく。途中、彼は様々な困難に立ち向かいながら成長し、新たな友人や仲間と絆を深めていく。彼の目的は単なる冒険だけでなく、世界の秘密や真実を解き明かし、自身の運命を見つける冒険が今始まる。
補足
古代の幻術の失敗による世界崩壊の真相を解き明かし、敵組織であるネクロン連合との戦いに身を投じる。彼は超能力や異能力を駆使し、色んな種族の仲間たちとともに各地を巡りながら、異種族間の関係改善にも取り組む。
第1話
「これが外の世界か」
赤子の頃から魔獣の森で育ったカイルは初めて見る外の世界に目を輝かせた。
カイルは捨て子だった。赤ん坊の頃魔獣の森に捨てられ、魔獣の餌となる所を育ての親である老魔獣に拾われ育てられた。
「本当に人間がいる」
魔獣の森から少し離れた場所にある小さな村へと足を踏み入れたカイルは、自分以外の初めて見る人間に驚きと興奮を覚えた。
生まれてこの方一度も切ったことのない髪は腰に届く程の長さ。上半身は裸で筋肉は引き締まっており、しなやかな体型をしている。
日光や風、自然の影響を受けた肌は少し褐色で、体のあちこちには魔獣との修行の痕跡や傷跡がある。
魔獣の訓練の影響で、肩や背中に微細な模様や文様が浮かび上がっていることもあり、村の人々は彼の姿に奇異の目を向けるが、カイルは気にせず周囲を見回した。
「そこの坊主、あんたどっから来たんだい」
落ち着きなくあちこちに視線を向けながら歩いていると、魚屋の店主に呼び止められた。
カイルは魔獣に育てられ魔獣の中で生活していたため、相手の力量や気の流れ、気配を読む能力に長けていた。
「あんた、魔獣か?」
魚屋の店主は人間の姿をしているが、気配や気の流れが魔獣に似ていた。
アベルは驚いたように目を細めたが、すぐに笑みを浮かべた。
「よく分かったな、坊主。そうさ、俺は魔獣だ。しかし、ここではアベルという名前で人間として生きている。あんたは?」
「俺はカイル。赤ん坊の頃、魔獣の森で育ったんだ。今日、初めて森の外に出たんだよ」
アベルはカイルの話を聞いて、しばし考え込んだ後、彼に手招きをした。
「少し休んでいけ。話を聞かせてくれ」
アベルの魚屋は小さな木造の建物で、店の奥には簡素な居住スペースがあった。カイルはアベルに誘われるまま、そこに腰を下ろした。アベルは熱いお茶を差し出しながら、カイルの話を促した。
カイルは育ての親である老魔獣フェンリスとの生活、そして彼の最期の言葉について語った。
人語の読み書きも全てフェンリスに教わった。
フェンリスはカイルに「世界を巡れ」と言い残し、数ヶ月前に息を引き取ったのだ。
「そうか。フェンリス様が……」
フェンリスは世界の崩壊と呼ばれる5000年前から生きた大魔獣である。
アベルの表情には悲しみと尊敬の色が浮かんだ。彼はフェンリスの名前を聞いて、深い感慨にふけっているようだった。
「世界を巡るか…いい目標だな」とアベルは感心したように言った。
「俺も昔はあちこち旅をしていたが、今はこの村に落ち着いている」
カイルはアベルの言葉に興味を引かれ、彼の過去について聞きたくなった。
「どうしてここに住むことにしたんだ?」
アベルは少し寂しそうな笑みを浮かべた。
「この村はかつて、亜人や魔獣と共存していたんだ。新しい領主のバルガス家が来る600年前まではな。今じゃ亜人は指弾され、魔獣は村に寄り付かなくなった。それでも俺は、この村の人々と共に生きることを選んだんだ」
カイルはアベルの話を聞きながら、この村の現状とその背景に興味を持った。
「バルガス家って何者なんだ?」
「連中は……」
店先に人の気配がして二人は店内へと目を向けた。
店内には誰もいない。しかし、気配は複数ある。
次の瞬間、店の外に置いてあった魚が姿を消した。
「盗人か!」
立ち上がろうとするカイルの肩にアベルは手を置いて止めた。
「知らないフリをしろ」
「おい、いいのか?」
「あいつらは孤児だ。彼らにはほとんど食べるものがなくて、こうやって生き延びているんだ」
カイルはその言葉に驚きと怒りを感じた。
「それでも盗むのは間違っている」
アベルは目を細め、カイルの目を真っ直ぐに見つめた。
「そこの彼の言う通りです。貴方たちが甘やかすからこういうガキがつけ上がるんですよ」
「はなせっ。この野郎」
「やっと捕まえましたよ。亜人のガキども」
腰に剣を差し同じ格好をした複数の男が店先に現れた。
男たちは村の警備兵のようで、三人の小柄な亜人の少年少女を捕まえていた。子供たちは必死に抵抗していたが、大人の力には勝てなかった。
「連行しろ」
リーダー格の男が冷たく言い放った。
「待て!ガレス。金ならもらっている……」
アベルが声を上げた。
ガレスは訝しげな目を向けた。
「嘘はいけませんね、アベルさん」
「本当だ」
「盗みと犯罪者を庇う者は重罪とわかった上での発言ですか」
アベルとガレスの間で緊迫した沈黙が流れた。
その時、「がっ」「ぐわっ」とうめき声がして子供たちを捕まえていた兵士が倒れた。
「エリオス!」
子供たちは目を輝かせて突如現れた人物の名を呼んだ。
現れたのはカイルと同じ年頃のダークエルフだった。銀色の髪に青白い肌をしている。
「怪我はないか、お前たち」
「うん!」
「先に行ってろ」
エリオスは子供たちを解放し先に逃がす。
「現れましたか、エリオス。今日という今日は逃がしませんよ」
ガレスは剣を抜き、エリオスに向かって歩み寄った。エリオスは冷静な表情でその場に立ち続けていた。
カイルは深く考え込んだ後、決意を固めた。
「そいつ等のお金ならまとめて俺が払っている」
生前、フェンリスから受け取った金銭袋を取り出しアベルへと投げ渡した。
「そこから俺の分と一緒にこいつらの分も引いてくれ」
「ああ、確かに頂いた」
「そういう訳だ。これで彼等は犯罪者ではないから捕まえる理由がなくなったな」
ガレスはカイルが取り出した金銭袋を見つめ、しばらくの間その場の空気が張り詰めたまま静かだった。アベルは金銭袋を受け取りながら、冷静に言葉を続けた。
「ガレス、カイルの言う通りだ。彼が払った金額で、これ以上問題にはならない。もう引き下がるべきだろう」
ガレスは一瞬の間をおいてから、冷静に頷いた。
「分かりました。今回は引き下がりましょう。」
警備兵たちは納得しない様子でありながらも、言われた通りに亜人たちを解放し、店を後にした。
「感謝する。アベルさんに……」
「俺はカイルだ」
「カイルとやら」
エリオスはアベルとカイルに向かって感謝の意を示しながら、歩み寄った。
「アベルさん、彼も魔獣ですか?」
カイルの格好や肌に刻まれた模様に好奇の目を向けた。
「いや、カイルは人間だ。ただし、魔獣に育てられた、な」
エリオスは驚きながらも、すぐにその話に納得した様子で頷いた。
「さっきの連中はなんだ?悪い奴らなのか?」
フェンリスから人間社会では弱い者いじめや窃盗はしてはいけないと教わっていたが、カイルはアベルの様子からエリオスを助けた。
「奴らは領主が派遣した警備兵だ」
「警備兵ってなんだ?」
カイルは人間社会と断絶した世界におり、フェンリスの知識も数千年前のものだったため、現代の社会制度についてはよく知らない。
アベルは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに説明を始めた。
「警備兵は村や街の治安を守るために雇われている人たちのことだ。町のルールを守らせたり、犯罪を取り締まったりする役目があるんだ。でも、彼らがやっていることは、必ずしも正しいとは限らない。特に力を持つ者がその力を乱用することがあるからな」
「警備兵とは名ばかりさ。連中は村の治安なんか守っていない。それどころか、領主の手先となり上納金が払えなかった俺たちの親を問答無用で連行していった」
話を聞くところ、亜人の上納金は人間種の2倍支払わなければならないという。
魔獣は本来村を追い出されるか始末されるそうだが、村人たちの総意でアベルは人間として庇われているとの事。
「小さな村だ。全員が助け合って農作物を育て、物々交換等で元々生活していた。いきなり上納金を払えなんて言われたところで貯えもあるはずがない」
「俺の両親は領主に逆らって見せしめとして殺された」
カイルはその話を聞いて、村の人々がどれほど苦労しているかを理解し、心を痛めた。彼の育ての親であるフェンリスから受け継いだ教えに従って、正義感が強く育ったカイルは、この状況を見過ごすわけにはいかないと決意した。
「領主ってのは悪い奴だな。バルガス家ってのはどこにあるんだ」
「ここから二里ほど先にある街に住んでいるが……どうするつもりだ?」
「その悪徳領主、俺がぶっ飛ばしてやる」
「待て、カイル!」
アベルは慌てて手を上げて制止した。
「お前の気持ちは分かるが、バルガス家はただの悪党じゃない。彼らは強力な武装を持っている。警備兵の中には鬼才もいる、周囲の村々を支配しているんだ。単独で突っ込んでも返り討ちに遭うだけだ。」
鬼才とは人間種で人間とは思えないほどの、超人的な能力を持っている者のことを指す。
カイルはその言葉に少し思案したが、決意を変えることはなかった。
「それでも、困っている人を放って置くことは出来ない。……それに、俺はかなり強いからな。心配するな」
ニカッと笑うカイルを見て、アベルは呆れたようにため息をついたが、同時にその勇気と決意に感心していた。
「お前のその気持ちは素晴らしいが、無謀に行動するのは危険だ。まずは情報を集め、計画を立てることが重要だ。俺たちも協力する。エリオス、君も手伝ってくれるか?」
「もちろんだ。俺たちの村だ。村人や子供たち、そして捕らわれた亜人を解放する為力にならせてくれ」
エリオスは頷き、力強い声で応じた。
「え。いいよ俺一人で。ちょっくら行ってくる」
二人の決意を無下にするカイルの態度にアベルとエリオスは唖然とした。
あっという間にカイルは駆け出し店の外へ出た。
「待たんか!カイル!」
「アベルさん俺が行く。もし、アベルさんが警備兵に見つかったらこの街にいられなくなってしまう」
エリオスはそう言うと、カイルの後を追って飛び出した。
「本当に向こう見ずなところもフェンリス様にそっくりだ」
アベルは店先で二人の姿を見送りながら深く息をついた。
カイルは物見櫓の屋根に乗って高い場所から領主がいる街の方向を探っていた。
漸くエリオスはカイルの姿を見つけ追いついた。息を切らせながらも、エリオスはカイルに声をかけた。
「あんた、人の話を聞かない奴だな」
「なんだお前、着いてきたのか」
「あんた一人だと心配なんでな」
エリオスは人の話を聞かないカイルに僅かな苛立ちを覚え胸ぐらを掴み顔を寄せた。
「心配性な奴だな。心配ばかりしてると禿げるってフェンリスが言ってたぞ」
呑気に笑って言うとエリオスは何を言っても無駄だと悟り脱力した。
手を離し、カイル同様に蹲踞の姿勢で膝に頬杖を着いてカイルに問いかけた。
「で、領主の居場所は分かるのか」
「あっちから他の場所より人の気配が多くする」
カイルが指さした方角は領主が拠点にしている街だ。魔獣に育てられたとはいえ、人間であるカイルの感知能力にエリオスは驚いた。
「俺も行く。俺は子供たちの親や他に捕まってるかもしれない亜人たちを解放する」
「お前良い奴だな」
「エリオスだ」
「エリオス、捕まった奴らのことは頼んだ」
「おう、任せろ」
二人は物見櫓から飛び降り屋根の上を伝い、村の出口へ向かう。
「カイル、街に入るには通行手形が必要だ。まずは通行手形を手に入れる必要がある」
「それはどこにあるんだ?」
「おそらく、警備兵の宿舎か隊長であるガレスが持っているはずだ。幸い、宿舎は村の出口付近にある」
「そうか。隊長から通行手形を手に入れればいいんだな」
エリオスは問に頷いた。二人は警備兵の宿舎へと向かった。
「さて、どうやって潜入するかだが……」
「おい!そこのお前、通行手形を渡せ」
「なっ、なんだお前はッッ」
カイルは宿舎の門番の胸ぐらを掴み、力強く揺さぶった。
二人一組で門番をやっていたもう一人の門番が槍の矛先をカイルへと向けた。
宿舎を目前に身を隠して潜入の計画を立てようとしていたエリオスはズッコケつつも、ローブを纏いカイルの側に立った。
「カイル、もう少し静かにやれって言ったのに…まあいい、時間がない。手早く済ませよう。ダークヘイブンの通行手形はどこにある」
エリオスは槍を持った門番を一瞬にして組み伏せた。
「お前たちは何者だ。村の奴に出す通行手形など無い!」
「俺たちが倒されようと誰が話すものか」
カイルとエリオスに倒された門番は必死に抵抗しようとするが、エリオスの冷たい視線に怯えた。
「カイル、少し時間をくれ。こいつから情報を引き出す」
エリオスは門番を脅かすように迫り、低い声で言った。
「通行手形の場所を教えろ。さもなくば、ここで痛い目に遭うぞ」
門番はしばらく抵抗していたが、エリオスの冷酷な態度に恐怖を覚え、やがて口を開いた。
「通行手形は宿舎の中にある…隊長室に保管されているはずだ。だが、残念だったな。お前たちが隊長に適うもんか!隊長は鬼才だ。お前たちなんかすぐに捕まって…ぐえっ」
「うるさい」
門番の言葉が終わる前に、カイルは軽く一撃を加えて気絶させた。
二人は手早く門番を縛り上げ、宿舎の中に潜入した。
「ところでお前、誰だ?エリオスはどこだ?」
「俺だよ、エリオスだ」
突如ローブを纏った人物が現れ、エリオスの姿がない事に疑問を抱くカイル。
エリオスは呆れてフードに隠れた顔が見えるようにするとカイルは驚いた。
「お前、そんな格好してたのか。驚いたぞ」
「俺は顔が割れてるからな。俺がエリオスだとバレれば子供たちにも村の人たちにも迷惑がかかる」
カイルは納得し、エリオスと共に隊長室へと向かった。
「ところで隊長室ってのはどこだ?」
「お前が隊長室を尋ねる前に門番二人とも伸したじゃないか」
「そうか。じゃあ、誰か捕まえて聞こう」
「あ、おい待て。カイル!勝手に行動するな!」
カイルはエリオスの制止を聞かず、素早く廊下の角を曲がり、一人の兵士に狙いを定めた。その兵士はカイルに気づいて声を上げようとしたが、カイルは一瞬で背後に回り込み、腕を掴み口を塞いだ。
「おい、お前。隊長室はどこだ?」
「な、なんだお前は!」
「早く言え。でないと痛い目に遭うぞ」
兵士は怯えた表情を浮かべながら、指を指して答えた。
「隊長室はこの廊下をまっすぐ行って、左の階段を上った先にある…」
「よし、わかった。ありがとうな」
カイルは軽く一撃を加えて兵士を気絶させ、そのままエリオスの元に戻った。
「お前、本当に無茶苦茶だな…」
「けど、これで隊長室の場所が分かっただろ?」
「まあ、そうだな。よし、行こう」
二人は指示された方向へと進み、隊長室へと向かう。
「あれが隊長室だな」
「俺が開ける。気をつけろよ。隊長のガレスは手強いと聞いている」
エリオスは慎重に扉を開けた。すると、中には一人の男が中央のデスクに堂々と座っている。ガレスだ。彼は鋭い目で二人を見つめた。
「誰か侵入したのは分かっていましたが…お前は確か、アベルの所にいたガキ」
ガレスの言葉にカイルは笑みを浮かべた。
「あんたが隊長だったのか」
「君たちがここになんの用ですか。村人に私たちを倒してくれとでも依頼されましたか」
「依頼なんてされてない。この村の亜人たちを解放するために来たんだ。ダークヘイブンの通行手形を渡せ」
ガレスは机の中から一枚の紙を取り出した。
「これの事ですか。これを手に入れてどうするのです?」
「バルガス家に捕まっている亜人を解放し、村人たちへの重税を辞めてもらう」
「君は旅人でしょう?この村と君になんの関係がある。そもそも、君はどこから来た。君みたいな旅人がいたら外から村に入る前に検問所で私の耳に入るはずなのですが」
「俺は魔獣の森から来た」
「魔獣の森ですって?はははは、冗談は一人前ですね。魔獣の森に入ったら最後、二度と生きて戻って来れない場所だと知らないのですか」
カイルは無言で返した。ガレスは冗談が嫌いな男だ。
カイルの真剣な目が冗談ではないと言っているようで気に食わない。ガレスは通行手形を懐にしまい、椅子から立ち上がると剣を構えた。
「面白い。ならば力ずくで奪ってみるといい。だが、お前たちが私に勝てると思わないことです。私はこの村を守るために、どんな手段も厭わない」
「村を守るだと?ふざけるな!俺たちの村をめちゃくちゃにしたのはお前たちじゃないか!」
エリオスの怒りに満ちた言葉が響く。
「なんです?君は」
「俺はエリオスだ」
エリオスはフードを脱いで素顔を顕にした。
「ダークエルフのガキですか。そこの坊やの名前も聞いておいてあげましょう」
「カイルだ。世界を旅する前にお前たちを倒すことにした」
「エリオスにカイル。覚えておきましょう。だが、その名前が私の記憶に残るのも、あと少しの間だけですがね」
ガレスは冷笑し、剣を構えた。彼の体からは凄まじい気迫が溢れ、部屋の空気が張り詰める。
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。行くぞ、エリオス!」
カイルは素早い動きで接近し、拳を振り下ろす。
エリオスはここに来るまでの途中に調達した弓を取り出し構えた。
ガレスの隙を狙うが、カイルを相手しながらもエリオスへの警戒を怠らない。
ガレスは瞬時に剣を振り回し、カイルの攻撃を防ぎながらエリオスに矢を放つ隙を与えない。
「連携は悪くないですが、私には通じない!」
ガレスはカイルの拳を巧みに避け、逆に一閃を放つ。しかし、カイルは反応が速く、寸前で身を引いた。
「そんな攻撃が私に効くものですか!」
カイルの挑発にガレスは冷笑を浮かべた。
そこに、武装した警備兵たちが集まってきた。
「隊長室だ!急げ!」
「隊長ご無事ですか!」
隊長室に入ろうとする警備兵の足元に向けてエリオスが複数の矢を放った。
矢は入口の床に刺さり、兵たちの動きを止めた。
「お前たち、死にたくなかったら動かないことです」
「し、しかし隊長」
「足でまといだと言っているんです。それに束になったところでダークエルフであるエリオスにも貴方たちでは勝てないでしょう」
ガレスは冷酷に警備兵たちに指示を出す。警備兵たちはその言葉に従い、エリオスとカイルに立ち向かうことをためらった。
ガレスはその間に再びカイルと交戦し、カイルの攻撃を受け流しながらも自身の攻撃を繰り出す。
「逃げてるばかりでは私は倒せませんよ」
カイルは雄叫びと共に、迅速かつ力強い連続パンチを繰り出した。
「猛打烈拳!」
彼の拳が空気を震わせながらガレスに向かって打ち込まれ、剣でカイルの拳を受け止めた。
衝撃で火花が散り、部屋の中に響き渡り互いの攻防の凄まじさを物語っている。
「なかなかの腕前です。しかし、私の力を侮るな!」
ガレスは一瞬の隙をついてカイルを弾き飛ばした。
「地震剣!」
ガレスは剣を地面に突き立て、その剣から強烈な衝撃波が発生し、カイルとエリオスに向かって広がった。
「くっ、これは…!」
カイルとエリオスは衝撃波を受けて一瞬怯んだ。
「これが鬼才の力か」
カイルとエリオスは窓から外へと飛び退いた。外に出た二人はすぐに立ち上がり、戦いの準備を整えた。
ガレスは衝撃波によって崩れゆく室内から二人を睨みつけ、冷酷に言い放った。
「逃げたところで無駄です。お前たちはここで始末されるのですから」
ガレスも二人の後を追って飛び降りた。
剣を高く振りかざし、着地と同時に勢いよく地面に剣を突き立てた。
その瞬間、剣から強烈な衝撃波が発生し、地面が割れ、大地が震える。
村の方から悲鳴が聞こえた。村の方でも地震による地割れが起きていた。
「村を壊す気か!」
エリオスが叫んだ。
「ははははは、それもいいかもしれませんね。ここの連中は聞き分けが無くて困る」
「お前たちは警備兵だろ。警備兵とは人々を守る存在じゃないのか」
「守っているでしょう。お前たちのような野蛮な奴らに希望を見出さないように徹底的に潰すのが私の役目です」
「お前ー!!」
「強き者が支配し、弱き者が従う。それがこの世の理ですよ」
カイルは世間知らずだが、ガレスの言っていることが正しくないことだけは分かった。
ガレスや領主がやっている事は弱いものいじめだ。
「お前は俺がぶっ飛ばす!」
カイルは拳に全力を込め、ガレスの剣に向かって打ち込んだ。その瞬間、剣が粉々に砕け散り、ガレスは驚愕の表情を浮かべた。
「なに…!?」
「これで終わりだ!ファングブレイク」
カイルは両手に力を込め、拳に力を集めた。地面に足を固定し、両手を前方に突き出す。拳が「牙」のように鋭くなり、ガレスの腹部に直撃して腕を捻った。
ガレスは回転しながら吹き飛ばされ、建物の壁に激突して地面に倒れた。
「カイル、やったな!」
エリオスが駆け寄り勝利を喜ぶ。
ガレスは気絶し、警備兵たちは怯えたように後退した。
エリオスはガレスの懐から通行手形を手に入れた。
「これでダークヘイブンに行ける」
「そうだな。次はダークヘイブンだ。行こう、エリオス」
「待ってくれ。村と子供たちが心配だ」
二人は一度アベルの魚屋に戻ることにした。
村は所々地割れで建物の一部が壊れているところもあったが、幸い死傷者はなかった。
亜人の子供たちと合流し、アベルの元へと向かった。
「本当に行くのか?」
アベルは心配そうに尋ねた。
「はい。アベルさんにはご迷惑をおかけしますがこいつらの事よろしくお願いします」
エリオスは頭を下げて言った。アベルは優しい目で二人を見つめ、頷いた。
「気にするな。お前たち二人はガレスを倒してしまった。領主であるルドルフ・バルガスは執念深い男だ。子供たちの存在が知れれば危険に晒されるだろうからな」
「ありがとうございます。お前たち、アベルさんの言うことをちゃんと聞くんだぞ」
子供たちは頷きつつも、不安そうな目をエリオスに向けた。
エリオスは一人一人に目を合わせ、言葉を続けた。
「俺たちは必ず戻ってくる。だから安心して待っていてくれ」
「そうだ。俺たちは絶対に負けない」
カイルも頷き、力強く言った。
「大丈夫だ。お前たちは俺が守る。だから、二人の帰りを信じて待とう」
アベルは二人の決意に感心し、子供たちに優しく言った。
こうして、カイルとエリオスは通行手形を手にし、領主が待ち受けるダークヘイブンへ出発した。
