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酵母の世界 No.19-1|Cyberlindnera jadinii:食料資源となる酵母

このシリーズでは、パン・ビール・ワイン・発酵食品を支える酵母たちを、研究者の視点から少しずつ紹介しています。
★酵母の世界を巡るためのまとめページを作成してます↓


前回は、ホエイを発酵資源に変える酵母、Kluyveromyces marxianus(クルイベロマイセス・マルキシアヌス)を紹介しました。

今回も、「余りものを資源に変える」という視点から酵母を見ていきます!

パンや酒では、酵母は糖を発酵させる働き手です。
二酸化炭素を出してパンを膨らませたり、エタノールや香りをつくったりします。

では、酵母そのものを食べるというアイディアはどうでしょうか?

今回は、 Cyberlindnera jadinii(サイバーリンドネラ・ヤディニイ)を紹介します!

この酵母は、かつて Torula utilis (トルラ・ユーティリス)や Candida utilis(カンジダ・ユーティリス)と呼ばれておりました。
現在の分類名は変わっていますが、食品や飼料の分野では今でも「トルラ酵母」という、古い名前に由来した呼び方が残っています。

この酵母の特長は、何かをつくらせることだけではなく、酵母の細胞そのものがタンパク質やうま味の資源になる点にあります!


トルラ酵母として使われてきた酵母

C. jadinii はトルラ酵母として、食品素材、飼料、酵母エキスなどに利用され、酵母を「発酵の道具」としてだけでなく、「生物資源」として使われてきました。

その代表が、微生物タンパク質です!

微生物タンパク質とは、酵母や細菌などの微生物の細胞をタンパク質資源として利用する考え方です。
微生物を培養して増やし、その菌体を回収すれば、タンパク質、ビタミン、ミネラル、細胞壁成分などを含む素材になります。

お酒やパン作りに使われる酵母では、糖がエタノールや香りへ変わることが注目されます。

一方、C. jadinii では、糖や副産物を使って酵母を増やし、その細胞を食品や飼料の素材として使います。

つまり価値の中心が、外へ出された発酵産物ではなく、増えた酵母細胞そのものにあります!

さらにもう一つ重要な利用が、酵母エキスです。

酵母細胞を分解すると、タンパク質からアミノ酸やペプチドが、RNAから核酸関連成分が出てきます。
これらは、食品のうま味やコクに関わります。

酵母は、発酵を進める裏方でとなるだけではありません!
育てて、回収して、分解することで、タンパク質や味の素材にもなるのです!

有機物の多い環境とつながる

C. jadinii の自然界での暮らしは、ワイン酵母やサワードウ酵母のように、特定の発酵食品だけで説明できるものではありません。

この酵母は、花や植物由来の環境、発酵に関わる場所、工業的な培養環境などから見つかってきました。

共通しているのは、酵母が利用できる有機物があることです。

たとえば、植物のまわりには糖や有機酸を含む液体が存在することがあります。
発酵環境では、糖やアミノ酸などが微生物によって利用されます。
食品や工業の副産物にも、まだ微生物が使える炭素源や窒素源が残っていることがあります。

C. jadinii は、こうした有機物を利用して細胞を増やす酵母として見られてきました。

この生態的な特徴は、産業利用ともつながっています。

自然界や発酵環境で栄養を取り込んで増える力が、人間の産業では「有機物を酵母菌体へ変える力」として利用されています。

有機物を「食べられる微生物」へ変える

C. jadinii において注目したい特長は、原料中の有機物を取り込み、それを酵母の細胞そのものへ変えていく力です。

まず、この酵母は糖だけでなく、グリセロールや有機酸など、さまざまな炭素源を利用できる酵母として研究されています。
炭素源とは、酵母がエネルギーを得たり、細胞の材料をつくったりするために使う有機物です。

これは、産業利用では重要です!

食品加工や発酵産業で出る副産物には、純粋なブドウ糖だけが含まれているわけではありません。
いろいろな有機物が混ざっています。
C. jadinii は、そうした原料を酵母菌体へ変える候補として利用されてきました。

次に、この酵母は、酸素がある条件で菌体を増やす用途と相性がよいと考えられます。

酒づくりでは、糖をアルコールへ変えることが重要です。
しかし、微生物タンパク質をつくる場合に欲しいのは、アルコールではありません。

増えた酵母の細胞です。

そのためには、原料中の炭素をできるだけ細胞の材料へ回したいわけです。

C. jadinii は、好気的な培養、つまり酸素を使える条件で、菌体を増やしやすい特長があります。
また、ワインやパンに使われる酵母のように、アルコール生産効率が低いため、原料のエネルギーを自身の細胞に使用する傾向があります。

このように、様々な糖や有機物を燃料にしながら、細胞の中でタンパク質、核酸、細胞壁成分などをつくっていきます。

一方で、炭素源だけではタンパク質はつくれません。

タンパク質をつくるには、窒素源も必要です。
酵母はアンモニウム塩やアミノ酸などの窒素源を取り込み、それをアミノ酸へ組み込みます。アミノ酸は、タンパク質の部品です。

つまり、微生物タンパク質をつくる代謝では、炭素源と窒素源の両方が重要になります。

炭素源はエネルギーと細胞の骨格になり、窒素源はアミノ酸やタンパク質へ組み込まれます。
そのバランスによって、どれだけ菌体が増えるか、どれだけタンパク質を含む菌体になるかが変わります。

培養が進むと、原料中の単純な有機物は少しずつ酵母の細胞へ移っていきます。

そして培養後に菌体を集めれば、タンパク質、核酸、ビタミン、細胞壁成分を含む微生物素材になります。

C. jadinii は、栄養をただため込む酵母というより、低価値の有機物を、回収できる酵母菌体へ変換する酵母です。

この酵母では、細胞の外に何を出すかだけでなく、増えた細胞そのものに何が含まれているかが価値になるのです。


おわりに

Cyberlindnera jadinii(サイバーリンドネラ・ヤディニイ)は、トルラ酵母として食品、飼料、酵母エキスの分野で利用されてきた酵母です。

酵母は、パンを膨らませたり、酒をつくったり、香りを生み出したりするだけの存在ではありません!

酵母そのものも、タンパク質やうま味の資源になります。

発酵とは、微生物が食品を変えることだけではありません!
微生物自身を、食料や味の資源に変換する営みでもあるのです!


次回は、赤い色素をまとう酵母、Rhodotorula mucilaginosa(ロドトルラ・ムシラギノーサ)を紹介します!

この酵母は、環境中からよく見つかる赤色酵母の一つです。
土壌、植物表面、水環境、空気中など、さまざまな場所から分離されます。

特徴的なのは、その赤みを帯びた色です!

次回は、その不思議な赤い色素と、この酵母がなぜ赤色色素を使っているのか見ていきたいと思います!


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参考文献

Sousa-Silva M, et al. Expanding the Knowledge on the Skillful Yeast Cyberlindnera jadinii. Journal of Fungi. 2021;7(1):36.

Buerth C, Tielker D, Ernst JF. Candida utilis and Cyberlindnera (Pichia) jadinii: yeast relatives with expanding applications. Applied Microbiology and Biotechnology. 2016;100:6981–6990.


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