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酵母の世界 No.20-1|Rhodotorula mucilaginosa:赤い色素で環境を生き抜く酵母

このシリーズでは、パン・ビール・ワイン・発酵食品を支える酵母たちを、研究者の視点から少しずつ紹介しています。
★酵母の世界を巡るためのまとめページを作成してます↓


前回は、酵母そのものを食料資源として利用するトルラ酵母、Cyberlindnera jadinii(サイバーリンドネラ・ヤディニイ)を紹介しました。

今回は、見た目から印象に残る酵母です!

酵母というと、なんとなく白っぽい、クリーム色の微生物を思い浮かべるかもしれません。
パン酵母や酒酵母のイメージも、あまり「色」とは結びつかないと思います。

しかし、酵母の中には、はっきりと赤やオレンジの色をまとうものがいます。

その一つが、Rhodotorula mucilaginosa(ロドトルラ・ムシラギノーサ)です!

では、この赤い色は、ただの飾りなのでしょうか?

今回は、R. mucilaginosa の赤い色の仕組みと、その役割について紹介したいと思います!


表面は予想以上に厳しい環境

R. mucilaginosa は、土壌、植物の表面、水環境、空気中など、さまざまな環境から見つかる赤色酵母です。

こうした場所は、酵母にとっていつも快適とは限りません。

植物の葉や果実の表面では、日光にさらされます。
水分は失われやすく、温度も変化します。
空気中や表面環境では、栄養も限られています。

さらに、乾燥酸素の影響によって、細胞の中では「活性酸素」が生じることがあります。
なお、活性酸素とは、細胞の膜、タンパク質、DNAなどを傷つける反応性の高い分子です。私たちの体でも酸化ストレスという言葉で語られることがありますが、微生物にとっても大きな負担になります。

ここで、R. mucilaginosaの赤い色素が意味を持ちます!

この酵母の赤い色は、カロテノイドと呼ばれる色素に由来します。
カロテノイドは、ニンジンやトマトの色にも関わる黄色から赤色の色素群です。

R. mucilaginosa がつくるカロテノイドは、光や酸化によって生じるダメージを和らげる働きに関わると考えられています。

つまり、この酵母の赤い色は、環境の表面で生きるための防御装備となります。


糖を色素へ変える

では、R. mucilaginosa はどのように赤い色をつくるのでしょうか?

この酵母は他の酵母と同様に、糖やグリセロールなどの有機物を取り込み、増殖に使います。
しかし、その一部は色素の材料にもなります。

カロテノイドは、細胞内の代謝を通じてつくられる脂溶性の色素です。
ちなみに脂溶性とは、油に溶けやすい性質のことです。そのため、カロテノイドは細胞膜など、脂質の多い場所と関わりやすい物質とされています。

R. mucilaginosa では、トルレントルラロジンβ-カロテンなどのカロテノイドが報告されています。

では、なぜ細胞に色素が必要なのでしょうか?

それの理由が先ほど紹介した活性酸素にあります。
すでに紹介した通り、活性酸素は細胞を傷つける反応性の高い分子です。

カロテノイドは、この活性酸素や、光によって生じた余分なエネルギーを受け止める働きに関わると考えられています。
特に、脂溶性のカロテノイドは細胞膜の近くで働きやすく、膜が酸化によって傷むのを抑える可能性があります。

つまり、赤やオレンジの色素は、ただ色を示しているだけではないのです!

光や酸化ストレスがある環境で、細胞を守るための化学的な盾として働いているんですね。

この視点で見ると、酵母の色は、代謝の結果であると同時に、生態への適応でもあります。

酵母は、取り込んだ有機物を細胞を増やす材料にするだけではなく、環境の中で生き残るための色素にも変えているのです。


産天然色素をつくる酵母として

カロテノイドは、食品、飼料、化粧品などの幅広い分野で関心を持たれている色素です。

そのため、R. mucilaginosa は、天然カロテノイドを生産する酵母としても研究されています!

微生物を使った色素生産には、植物から抽出する方法とは違う利点があります。
それは、培養条件を調整でき、季節や栽培環境に左右されにくい生産が期待できるからです。

また、農産副産物や食品加工副産物など、低コストの原料を使ってカロテノイドをつくらせる研究も行われています。

実際の産業利用には、生産量、培養コスト、抽出しやすさなど、多くの条件を満たす必要がありますが、R. mucilaginosa は次世代型天然色素脂質生産の候補として注目されているのです。

このように、自然界で細胞を守っていた赤い色素を、人間は天然色素や機能性素材として見つけ直しているわけです。


おわりに

Rhodotorula mucilaginosa(ロドトルラ・ムシラギノーサ)は、赤色からオレンジ色のコロニーをつくる酵母です。

その色は、ただの見た目ではありません。

光、乾燥、酸化ストレスのある環境で生きるために、細胞がつくり出した防御の仕組みでもあります。

酵母を見るとき、私たちは発酵する力や香りをつくる力に注目しがちですが、色にも個性があります。

次に赤やオレンジ色の微生物を見かけたら、その色が「きれい」かどうかだけでなく、「なぜその色を持つ必要があったのか」を想像してみると面白いかもしれませんね!


次回は、デンプンを糖へ変える酵母を紹介します。

その名は、Saccharomycopsis fibuligera(サッカロマイコプシス・フィブリゲラ)

酵母というと、ブドウ糖や果糖のような小さな糖を食べて、アルコールや二酸化炭素をつくる微生物、というイメージがあるかもしれません。

しかし、米や芋、穀物に多く含まれるデンプンは、そのままでは多くの酵母にとって利用しにくい大きな分子です。

S. fibuligera は、デンプンを分解する酵素を外へ出し、発酵に使える小さな糖へ変えることができる酵母として知られています。

次回は、糖を「食べる」だけでなく、発酵のための糖を「つくる」酵母の世界を見ていきます。



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参考文献

Moliné M, Flores MR, Libkind D, del Carmen Diéguez M, Farías ME, van Broock M. Photoprotection by carotenoid pigments in the yeast Rhodotorula mucilaginosa: the role of torularhodin. Photochemical & Photobiological Sciences. 2010;9:1145–1151.

Kot AM, Błażejak S, Gientka I, Kieliszek M, Bryś J. Torulene and torularhodin: “new” fungal carotenoids for industry? Microbial Cell Factories. 2018;17:49.
DOI: 10.1186/s12934-018-0893-z

Li Z, et al. Rhodotorula mucilaginosa—alternative sources of natural carotenoids, lipids, and enzymes for industrial use. Heliyon. 2022;8.
DOI: 10.1016/j.heliyon.2022.e11505

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