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酵母の世界 No.12-1|Schizosaccharomyces pombe:歴史と最先端を生きる分裂酵母

このシリーズでは、パン・ビール・ワイン・発酵食品を支える酵母たちを、研究者の視点から少しずつ紹介しています。
★酵母の世界を巡るためのまとめページを作成してます↓


前回は、環境中に生息し、ときに感染症に関わる酵母 Cryptococcus neoformans(クリプトコッカス・ネオフォルマンス)を紹介しました。

今回は、醸造の歴史と生命科学を支えてきた酵母を紹介します。

今回の主役は、Schizosaccharomyces pombe(シゾサッカロマイセス・ポンベ)です。

この酵母は、一般に「分裂酵母」と呼ばれます。

パンやビールでおなじみの Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ) は、細胞から小さな芽を出して増える「出芽酵母」です。一方、S. pombe は細長い細胞が伸び、真ん中で二つに分かれるように増えます。

つまり、同じ酵母でも、増え方がかなり違うのです!

このシンプルで見やすい増え方のおかげで、S. pombe は「細胞がいつ、どのように分裂するのか」を調べる研究に使われ、S. cerevisiaeと双璧をなす存在となりました!

古代の発酵と関わる酵母でありながら、現代の研究室では細胞分裂を調べるための大切なモデル生物になった酵母。

今回は、発酵文化と生命科学をつなぐ S. pombe の世界を見ていきます!


お酒に顔を出す酵母

S. pombe は、東アフリカの雑穀ビールから見つかった酵母として知られています。

「pombe」 という名前も、スワヒリ語でビールを意味するとされます。
名前の中に、すでにお酒とのつながりが入っている酵母です。

この酵母の面白いのは、長い歴史の中でお酒に関わりがあることが判明したことです!

近年、イスラエル周辺の古代ビール発酵容器から生きた酵母を分離した研究で、S. pombe が報告されました!
この研究で扱われた容器の中には、紀元前3100年頃、つまり今からなんと約5,000年前の初期青銅器時代に由来するものも含まれていました!

もちろん、「約5,000年前のビール発酵にS. pombeが使われていた」と単純に言い切るのは慎重であるべきです。
しかし、古代の発酵容器から分離された酵母の中に S. pombe が含まれていたことは、この酵母が発酵文化と長く関わってきた可能性を感じさせます。

ちなみに、この単離した酵母でビールも作っています↓
夢がありますね!笑

芽を出さず、真ん中で分かれる

そんなS. pombe の最大の特徴は、増え方です。

出芽酵母 S. cerevisiae は、親細胞から小さな芽を出します。
その芽が大きくなり、やがて新しい細胞になります。

一方、S. pombe は違います。

細長い棒のような細胞が、まず両端から伸びます。
十分な長さになると、細胞の真ん中に仕切りを作ります。
そして、その仕切りを境に、二つの細胞へ分かれます。

この真ん中にできる仕切りは、専門的には隔壁と呼ばれており、まるで小さな棒で中央がスパッと二つに分かれるような増え方です。

この増え方は、見た目的にも分かりやすく、研究にも向いています。

細胞がどれくらい伸びたら分裂するのか?
分裂する場所はどうやって決まるのか?
細胞はどうやって真ん中を見つけるのか?
DNAを含む染色体を、どうやって二つの細胞に正しく分けるのか?

S. pombe は、こうした問いを調べるための強力な生き物になりました。

特に、細胞の形がシンプルで、分裂の位置やタイミングを観察しやすいことは大きな利点です!
細長い細胞なので、「伸びる」「中央に仕切りを作る」「二つに分かれる」という流れが見えやすいのです。

酵母という小さな生き物ですが、そこには我々ヒトと同じ分裂するための基本的な仕組みが詰まっています!

つまり、S. pombe を調べることは、酵母だけでなく、私たちの細胞を理解する手がかりにもなるのです。

細胞が「いつ分かれるのか」を教えてくれる酵母

S. pombe が生命科学で重要になった理由の一つは、このような細胞分裂を調べやすいことです。

細胞は、ただ何となく二つに分かれているわけではありません!

まず成長し、DNAをコピーし、そのコピーを二つの細胞に正しく分け、最後に細胞そのものが分裂します。

この一連の流れを、専門的には細胞周期と呼びます。
言い換えると、細胞が「成長して、準備して、分かれる」までのスケジュールのようなものです。

S. pombe は、この細胞周期を調べるためのモデル生物として使われてきました。

特に有名なのが、Paul Nurse による研究です!
彼は S. pombe を使い、細胞が分裂へ進むタイミングを決める重要な遺伝子を調べました。

その中心にあったのが CDC2 という遺伝子です。

いきなり CDC2 と言われると難しく聞こえますが、役割としては「そろそろ分裂してよいか」を判断するための重要なスイッチのようなものです。

この研究によって、酵母だけでなく、人間を含む真核生物の細胞がどのように分裂のタイミングを決めているのかが分かりました!

そして、この細胞分裂を制御する主要な仕組みの発見は、2001年のノーベル生理学・医学賞にもつながりました!
Leland Hartwell、Tim Hunt、Paul Nurse の3名が、細胞周期を制御する因子の発見により受賞しています。

面白いのは、小さな酵母の研究が、人間の細胞を理解する手がかりになったことです!!

S. pombe は、発酵のためだけの酵母ではありません。
細胞がいつ分裂するのか。
DNAをどうコピーし、どう分けるのか。
細胞の大きさをどう調整するのか。

こうした生命の基本問題を考えるための、研究室の相棒でもあるのです!


おわりに

Schizosaccharomyces pombe(シゾサッカロマイセス・ポンベ) は、古代発酵酒と関わる酵母であり、同時に生命科学を支えてきたモデル生物です。

東アフリカの雑穀ビールに由来する名前を持ち、古代の発酵容器からも報告される一方で、現代では細胞分裂や細胞周期の研究に使われてきました。

細長い細胞が伸び、中央で二つに分かれる。
そのシンプルな姿は、細胞が増える仕組みを調べるうえで大きな力を発揮しました。

小さな酵母の研究が、ノーベル賞につながり、私たちの細胞を理解する手がかりにもなる。

この視点で見ると、酵母の世界は発酵食品だけにとどまりません!

発酵文化から生命科学へ。

S. pombe は、その広がりを感じさせてくれる酵母ですね。

次回は、ワインの世界で強い存在感を持つ酵母 Brettanomyces bruxellensis(ブレタノマイセス・ブルクセレンシス)を紹介します!
馬小屋、革、スモーキーとも表現される独特な香りを生み、ワインに複雑さを与えることもあれば、欠陥臭として問題になることもある酵母です。少しクセのあるワイン酵母の世界を見ていきましょう!


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参考文献

Nurse, P. 2002. Cyclin dependent kinases and cell cycle control. Chembiochem. 2002 Jul 2;3(7):596-603

Forsburg, S. L. 2005. The yeasts Saccharomyces cerevisiae and Schizosaccharomyces pombe: Models for cell biology research. Gravitational and Space Biology, 18, 3–9.

Aouizerat, T. et al. 2019. Isolation and characterization of live yeast cells from ancient vessels as a tool in bio-archaeology. mBio, 10, e00388-19. DOI: 10.1128/mBio.00388-19.

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