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酵母の世界 No.10-1|Candida albicans:体と共存し、ときに感染を起こす酵母

このシリーズでは、パン・ビール・ワイン・発酵食品を支える酵母たちを、研究者の視点から少しずつ紹介しています。
★酵母の世界を巡るためのまとめページを作成してます↓


前回は、タンパク質生産を支えるバイオテック酵母 Komagataella phaffii(コマガタエラ・パフィー)を紹介しました。

ここまで、発酵食品やバイオテックの中で活躍する酵母をいくつか紹介しました。

では、私たちの体と関わる酵母はどうでしょうか?

今回紹介するのは、Candida albicans(カンジダ・アルビカンス)です!

C. albicans は、口、腸、皮膚、膣など、私たちの体の中や表面に存在することがある酵母です。
ふだんは体の微生物コミュニティの一員として共存していますが、免疫や微生物のバランスが崩れると、増えすぎたり、組織に入り込んだりして、カンジダ症の原因になることがあります

このように、普段は問題を起こさない微生物が、条件が変わったときに感染を起こすことを、日和見感染と呼びます。

今回は、酵母と人間の「共生と感染」を紹介します。


人間の体というすみか

C. albicans のすみかは、果実やチーズ表面ではありません。
私たちの体です。

口の中、消化管、皮膚、膣などには、細菌だけでなく真菌、つまりカビや酵母の仲間も存在します。
人間の体は、ただの「個体」ではなく、多くの微生物が暮らす小さな生態系でもあります。

C. albicans は、その一員として存在することがあります。

ただし、体の中の環境はいつも一定ではありません!
抗生物質を使うと、細菌のバランスが変わります。
免疫が弱ると、微生物を抑える力も変わります。
粘膜が傷ついたり、栄養環境が変化したりすることもあります。

こうした変化によって、ふだんは抑えられていた C. albicans が増えやすくなることがあります。

つまり、体の環境や他の微生物、そして免疫とのバランスが非常に重要です。

普段は共存している。
でも、バランスが崩れると感染側に傾く。

この境界にいることが、C. albicans という酵母の大きな特徴です!

丸い酵母から、糸のような姿へ

C. albicans の特徴として特に面白いのが、形を変える力です。

この酵母は、丸い酵母型として増えることもあれば、糸のように伸びる菌糸型になることもあります。
酵母型は、丸い細胞が増えていく姿です。菌糸型は、細胞が細長く伸び、糸のような形になる姿です。

この形の変化は、ただ見た目が変わるだけではありません。

丸い酵母型は、増殖や広がりに向いていますが、糸のように伸びる菌糸型は、表面への付着や、組織への侵入に関わると考えられています。

つまり、C. albicans は環境に応じて生き方そのものを変える、なかなか器用な酵母です!

その器用さが、体にとっては迷惑となるわけですね。

ただし、菌糸型になることを単純に「悪」と言い切れません。
形を変えることは、体の中で環境に合わせて生きるための能力でもあります。

問題になるのは、その能力が、増殖や組織への侵入、炎症につながるときです。

カンジダ症とバイオフィルム

では、C. albicans が増えすぎた結果とは何でしょうか?

それは、カンジダ症と呼ばれています。

カンジダ症とは、Candida 属の酵母によって起こる感染症です。
口では白い苔のようなものや痛み、皮膚では赤みやかゆみ、膣ではかゆみやヒリヒリ感が出ることがあります。重い場合には、血液や内臓に広がる侵襲性カンジダ症として問題になることもあります。

この疾患では、C. albicans が増えすぎたり、粘膜や皮膚に入り込んだりすることが問題になります。ただし、赤み、かゆみ、痛み、ただれといった症状は、酵母そのものだけでなく、それに反応する体の免疫によって起こる炎症も関わっています。

C. albicans でもう一つ重要な特徴はバイオフィルム形成です!

バイオフィルムとは、微生物が表面にくっつき、膜のような集団を作る状態です。
C. albicans の場合、口の中、義歯、カテーテルなどの医療機器の表面で問題になることがあります。

このように、どこかの表面に住みつき、集団で守られた「巣」を作ると、その場所に定着しやすくなります。さらに、薬や免疫の攻撃を受けにくくなるため、感染が長引いたり、治りにくくなったりすることがあります。

生体内での増殖、およびバイオフィルム形成。
この二つがあるため、C. albicans は医療現場でも注意される酵母と認識されています。


おわりに

Candida albicans は、存在するだけでは悪い酵母ではありません。

普段は私たちの体と共存し、微生物コミュニティの一員として存在しています。しかし、免疫や微生物バランスが崩れると、増えすぎたり、組織に入り込んだりして、感染を起こすことがあります。

丸い酵母型から糸のような菌糸型へ変わる力。
表面に定着してバイオフィルムを作る力。
そして、体の環境に応じて共生と感染のあいだを行き来する力。

C. albicans は、酵母の世界が発酵食品やバイオテックだけにとどまらないことを教えてくれますね。

次回は、Candida とは少し違う感染系の酵母 Cryptococcus neoformans(クリプトコッカス・ネオフォルマンス)を紹介します!

C. neoformans は環境中に存在し、体に入ることで問題になる酵母です。莢膜というカプセルのような構造や、メラニンによる防御など、感染と生存を支える独特のしくみに注目します!


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参考文献

CDC. Candidiasis Basics. Centers for Disease Control and Prevention.

Talapko, J. et al. 2021. Candida albicans—The virulence factors and clinical manifestations of infection. Journal of Fungi, 7, 79. DOI: 10.3390/jof7020079.

Lopes, J. P. et al. 2022. Pathogenesis and virulence of Candida albicans. Virulence, 13, 89–121. DOI: 10.1080/21505594.2021.2019950.


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