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他人のnoteにブチギレて家を飛び出し、深夜の駐車場でただの変質者になった話

野良犬に噛まれた夜、アイスを食べた

先日俺が立ち上げた「野良犬の群れマガジン(ノラマガ)」は、発足からわずか3日で俺を含む8名の精鋭が集結するという、我ながら奇跡的な滑り出しを見せている。
「精鋭」という言葉を使ったが、全員が全員、社会の裂け目から這い出てきたような人間ばかりなので、精鋭という表現が正確かどうかについては今後の国連の議論に委ねたい。

その一員であるジァン=サマー氏が、加入後初の記事を投稿した。  


詳細内容は是非自分の目で確認して欲しいのだが、内容をざっくり説明する。
「僕は野良犬ではなく小綺麗な室内犬なので野蛮な狂犬たちに食い殺されてしまうかも」という丁寧すぎる前置きから入り、「以前サバチーに〝アイス食って春を感じた、幸せ、みたいな記事は目眩がする〟と言われた。だからそういうノラマガらしくない記事を書きます」と宣言。
そこから「生と死の境界」についての本格的な考察を経由し、最終的にアイスを食って幸せ、と着地する。

何を言っているかわからないと思う。
だから読みに行けと言っている。
ノラマガはそういう記事が集まる場所だ。



読後、俺の感情を整理すると概ね以下に集約される。

  • やられた。こいつ、加入1発目で主宰の首に噛みついてきやがった

  • やっぱりこのサイコボーイを引き入れた判断は正しかった

  • 俺が言ったアイスの話は、そういうことじゃねぇよ!!!!!


俺は怒った。
全身で怒った。
怒りに震えた。
ギャルが今の俺にあだ名をつけるなら間違いなく「バイブ」だ。
怒りで震えすぎて物体として振動している。

誤解を解かせてほしい。
俺が言ったのは「アイス食って春を感じて幸せ、おわり」という、要約すると小学2年生の日記帳にも劣る記事がつまらない、ということだ。
アイスで春を感じて幸せというテーマ自体を否定したわけでは断じてない。
なんなんだあの記事は。
滅茶苦茶面白いじゃないか。
俺はああいうものを最初から大歓迎しているし、ノラマガらしくないなんて一ミリも思っていない。
むしろあれがノラマガだろうが。
俺が言いたかったのは「薄い記事はつまらん」であって「アイスという食べ物への冒涜」ではない。
アイスに罪はない。
アイスはいつだって誰よりも正しい。



怒りはやがて物理エネルギーへと変換された。

「怒りがふつふつと沸く」という慣用表現がある。
医学的・科学的な根拠については一切わからない。
俺は高校時代、30点未満で補習確定の化学の試験において29点を叩き出した男だ。
1点足りなかった。
きっちり補習を受けさせられたが学力も何も得ていない。
そんな俺に熱力学を語る資格はないが、怒りが熱を帯びるのは事実であり、俺の肉体がリアルタイムでそれを証明し始めた。

体温が75℃を超えた辺りで、俺は堪らず家を飛び出した。
このままでは死ぬ。
そうか、憤死とはこれのことか。
先人たちも同じようにして散っていったのか。
合掌。

俺はずんずんずんずん歩いた。
熱気に当てられ、やっと芽吹いた草木が萎れていくのも完全に無視して、体を冷ますために、目的もなく、夜の札幌を歩いた。
近所の人間が見たら不審者通報案件だが、それは後で考える。



やがて近所のセイコーマートに辿り着いた。
飲み物を買おうと思ったのだ。

閉まっていた。

セイコーマートはフランチャイズ形式が基本なため、24時間営業ではない店舗も多い。
これは北海道民として当然知っているはずの常識だ。
知っているはずなのに俺の75℃の脳はその情報を完全に蒸発させていた。
赤点を取る知力というのはこういうところに現れる。

閉店という事実に対する怒りが上乗せされ、体温は遂に95℃に達した。
やばい。
100℃になる。
100℃になると何がまずいのかは正確にはわからないが、なんとなく精子とかが死ぬ気がする。
何かで聞いたと思う。
体温が100℃になるのは精子的にあまりよくないらしい。
詳しくは知らない。
化学29点だから。

これ以上の上昇を阻止すべく、俺はゆっくりと移動を再開した。
少し離れたローソンへ向かう。



開いていた。

さすが天下のローソン。
フランチャイズではなくチェーンは神だ。
人類の発明の中でローソンを上回るものがどれほどあるか、俺には疑問だ。
火?
車輪?
AI?
深夜2時に開いてるか?
開いてないだろ。
ローソンは開いてる。
以上。

俺の熱気に当てられ、レジカウンター下に身を隠した店員を完全無視し、冷凍庫へ直行する。

あった。
とちあいかのオリジナルアイス。
ローソン新商品。
ピンクで可愛い。
これ以外を手に取る理由が宇宙のどこにも存在しない。

球場で子供からホームランボールをひったくるおばさんの魂を全身に降ろした俺は、アイスを全力でもぎ取り、そのままの勢いでレジに叩きつけた。
すでに防火服への着替えを完了させていた店員に小銭を投げつけ、駐車場へ躍り出る。
帰宅なんてしていたら間に合わなくなると判断し、そのままアイスの袋を剥く。


ビリッ……


サポッ……

んまい!!!!!!!!

酸味がある。
やっぱりアイスは酸味があってなんぼですよ。
しかし、とちあいかは甘みも本物だ。
中に果肉が入っている。
贅沢すぎる。
もう「冷凍いちご」として売り出していい。
農林水産省の許可をとれ。



3口目を食べた辺りで、異変に気づいた。

寒ぃ。

いや普通に寒ぃ。
体温が75℃だの95℃だのと大騒ぎしていたのはどこの誰だ。
スマホで気温を確認する。
午前2時、7℃。
そう、札幌の春の夜はまだ普通に1桁だ。
体感としては真冬と大差ない。

俺は着のみ着のままで飛び出してきている。
上は「本当に公式から許可とってますか?」という絵柄のミッキーパーカー。
下はミントグリーンのハワイアン柄のステテコ。
なんだこのコンセプト。
ディズニーとハワイが何故ここで融合しているんだ。
テーマパークか。
俺は深夜のテーマパークか。

たまたま通りかかった飲み帰りと思しきおネエちゃんに、チラ、間、もう一度チラリ、と律儀に二度見をされた。

ちゃんと服は着ている。
着ているが、客観的に見ると「深夜の駐車場でステテコ姿のまま一人でアイスを貪る男」である。
春になると露出狂が増えるという話を俺は長年「暖かくなるから」だと解釈していた。
そう思っていた俺が意図せず今や半露出狂だ。
札幌でいま最も「春に脳を溶かされた変質者」のポジションを、俺は誰にも譲っていない。

というかさっきの震え、怒りじゃなくて普通に寒かったのでは?

俺も春にやられていた。
アイスを食べて、それを全身で感じた。

俺は幸せな頭をしている。




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