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Vol.55 : リスクは「バランス」でなく「振り分ける」

新しいことに挑戦するとき、
いつも悩むことがあります。

リスクの確認は必要だ。でも、
慎重になりすぎるとスピードが死ぬ。
この2つのバランスを、どう取ればいいのか。

最近、この悩みについて、
そもそもの考え方を変える
きっかけがありました。

まだ自分の中で咀嚼している途中ですが、
思考の整理も兼ねて、書き留めておきます。

長いあいだ、これを「バランスの問題」
だと思っていました。
アクセルとブレーキのように、
両者は対立していて、
真ん中のちょうどいいところを
探すのが正解なのだ、と。

でも、その前提そのものが
間違っていたのかもしれません。

リスクは、バランスを取るものではなく、
性質ごとに振り分けるものだった。
そう思わせてくれたのが、
次の2つの考え方です。

リスクアペタイトという概念

ひとつめは、リスクアペタイトです。
日本語では「リスク選好」と訳されます。

「どれだけのリスクなら受け入れられるか」

という、組織が取りにいくリスクの
許容範囲のことです。

大事なのは、これが「リスクをゼロにする」
話ではない点です。まったく取らなければ
挑戦もリターンもない。かといって
無制限に取れば破綻する。だから
「ここまでは許容する、ここからは超えない」
という線を、あらかじめ引いておく。
それがリスクアペタイトです。

そして肝心なのは、この許容範囲を、
リスクの種類ごとに変えるということ。
すべてのリスクに同じ物差しを当てる
のではない、という発想です。

バーベル戦略

ふたつめは、バーベル戦略です。
投資の世界の考え方で、大部分を
「絶対に安全なもの」に置き、一部を
「思い切りリスクを取るもの」に賭け、
中間の「そこそこのリスク」は持たない、
というやり方です。

 バーベル戦略

  安全側 ●●●●●●        ●● 挑戦側
         ↑            ↑
      徹底的に守る    思い切り攻める

      × 中間(そこそこ)は持たない

中間を捨てるのは、そこが一番中途半端
だからです。守りにも攻めにもなっていない
領域に、資源も時間も溶けていく。

この2つに共通しているのは、
「一律に扱わない」という発想です。
リスクアペタイトは種類ごとに許容度を変え、
バーベルは両極に振り分けて中間を捨てる。
どちらも、
「全部そこそこ慎重に」を否定している。

リスクを振り分ける

ここから本題です。
では、自分の仕事のリスクを、
どう振り分けるか。

一番はっきりしているのは、
絶対に取ってはいけないリスクがある、
ということです。

 取ってはいけないリスク(許容度=ゼロ)
   法令違反、行政処分、信用の失墜。
   → 取ってもリターンがなく、お金では戻せない。
     疑わしい段階で止める。

コンプライアンス違反のようなリスクは、
そもそも取る意味がありません。
冒したところで見合うリターンはなく、
ただ損失だけが残る。しかも逮捕や処分、
信用の毀損は、お金では元に戻せない。

ここは許容度をゼロに固定して、
クロと確定する前の「グレーの匂い」の
段階で止める。疑わしきは進めない、
に倒す領域です。

一方で、積極的に取りにいくべき
リスクもあります。

 取りにいくリスク(許容度=大きく)
   新規事業、新しい施策、投資。
   → 失敗しても回復できる。挑戦とセット。
     許容範囲を事前に決めて、内側なら迷わず走る。

新規事業や新しい施策は、
失敗の可能性と成功のリターンがセットです。
ここでいちいち足を止めていたら、
何も進まない。だから許容範囲を
大きく取って、攻める。

ただ、ここで一つ気をつけたいことがあります。「事業リスクだから何でも取っていい」
わけではない、という点です。
挑戦の領域にも、実は一本の線があります。

同じ事業上のリスクでも、失敗しても
回復できるものと、一発で致命傷に
なるものがある。テスト的に小さく試せるのか、それとも会社の屋台骨を賭けることになるのか。損失に上限を引けるのか、青天井なのか。
信用への波及はどこまでか。

だから振り分けの本当の基準は、
「コンプラか事業か」という表面的な
分類ではなく、その一段下にあります。

 振り分けの本当の基準

   ・回復できるか / 不可逆か
   ・損失に上限を引けるか / 青天井か
   ・小さく試せるか / 一発勝負か

 → 不可逆で、上限が引けず、一発勝負のものは、
   たとえ「事業リスク」でも、取りにいかない。

つまり、取りにいくのは「回復可能な失敗」に
限る。事業の顔をしていても、不可逆で
致命的なものは、取ってはいけないリスクと
同じ扱いにする。逆に、影響範囲が限定され、
損失に上限を引けて、やり直せるものなら、
必要以上に恐れる必要もない。

分けるべきは、コンプラと事業ではなく、
「取り返しがつくか、つかないか」
なのだと思います。

なぜ当たり前ができないのか

……と、ここまで書いて思うのは、
これ、当たり前の話ではないか、
ということです(笑)

言葉にすれば誰でも頷きます。
でも、実際にはできない。
そこに本当の難しさがあります。

ひとつは、取り返しのつかないリスクを、
勢いで踏んでしまうから。新しい企画で
盛り上がっているとき、「これ、大丈夫かな」
という小さな違和感は、高揚感にかき消され
がちです。

しかも厄介なのは、踏んでいる本人に
自覚がないこと。むしろ良かれと思って
進めていることさえある。入口が優しい顔を
していると、奥の崖が見えません。

もうひとつは、逆に、回復可能な挑戦に
ビビりすぎるから。取り返しがつくはずの
リスクにまで足を止めてしまう。
取っていいリスクなのに、取れない。

そして一番多いのが、中間で妥協してしまう
こと。全部にそこそこ慎重になって、
「なんとなく確認」に時間を溶かす。
バーベル戦略でいう、あの中途半端な真ん中に、
いつのまにか立っている。

人は弱いものです。
だからこそ、勢いや気分に判断を委ねず、
あらかじめ線を引いておく必要があるのだと
思います。取り返しのつかない領域は、
疑わしい段階で止める。回復可能な領域は、
許容範囲を事前に決めて、その内側なら迷わず
走る。判断を、その場の感情ではなく、
事前の設計に委ねる。

リスクとスピードのバランスに悩んでいたとき、
私はずっと「中間のちょうどいい点」を
探していました。でも、探すべきはバランス点
ではなく、振り分ける線だった。

守るところは徹底的に守る。
攻めるところは思い切り攻める。

その線さえ引ければ、慎重さとスピードは、
もう対立しません。
むしろ、守りが攻めを支えてくれる。

まだ学び始めたばかりですが、
これから使いながら、線の引き方の
解像度を上げていきたいところです。

引き続き一緒に
考えていただけると幸いです。

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