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実際に使える制御工学:応用編(8)「ACモータのベクトル制御。そして今から磁界を回す。」

<この記事で伝えたい事> 

  • ACモータがトルクを出すには、電流の大きさだけなく、方向にも気をつかう必要があります
    DCモータと違い、ロータ(回転子)内に磁石を持つためです。
    ACモータでは、ロータ周囲のコイルをうまく使って、回転磁界を作る必要があります。
    (DCモータだと磁石は固定されており、コイルが回転します)

  • ベクトル制御は、名前どおり電流の大きさと方向(電流ベクトル)を制御する方法です
    通常、トルクが出る方向($${q}$$軸)と、磁束を調節する方向($${d}$$軸)の2方向について、電流の大きさを制御します。




1. はじめに

自己紹介はこちらです。
 
この記事は、主に若手~中堅エンジニアに向けた技術紹介・解説記事シリーズの第8弾です。
 
今回は、ACモータの出すトルクを高精度制御する方法であるベクトル制御を紹介・解説します。


2. DCモータとACモータの違い

DCモータは、永久磁石などによる磁界の中にコイルを置き、コイルに電流を流すことで発生する力を利用してコイル自身が回転します。
(フレミングの左手則)

下図は、DCモータの構造イメージです。

DCモータの構造イメージ
DCモータの構造イメージ

DCモータは、回転するコイルに電流を流すため、ブラシ(整流子)と呼ばれる部品を持ちます。

ただ、コイルが回転するうちに、ブラシは徐々に削れます。
このため、DCモータは比較的頻繁なメンテナンス(特にブラシ交換)が必要であり、長期間の連続運転にはあまり向きません。


ACモータは、DCモータとは逆に、コイル側が固定されています。
ACモータで回るのは、永久磁石が仕込んであるロータ(回転子)の方です。

下図は、ACモータの構造イメージです。
コイルはロータ周辺に複数配置されます。
(実物はイメージ図より多くのコイルを配置するケースがほとんど)

ACモータの構造イメージ
ACモータの構造イメージ

コイルに電流を流すと磁界が発生します。

磁極のN極とS極は引き合うので、コイルの作り出す磁界が回転するよう電流を調節すれば、ロータを回転させられます。


ACモータはDCモータと違って、回転部分とこすれる部品がないので、DCモータより格段にメンテナンスを減らせます。
工業製品には堅牢さ・耐久性が要求されるので、産業用モータはACモータであることが多いです。 

 
しかし、ロータ角度に応じた磁界を作り出すよう電流を調節し続けるのは、非常に大変なことです。
 
ベクトル制御では、回転座標という概念を導入することで、DCモータと同じ感覚でACモータの電流制御をできます。
(それにより、電流制御がシンプルになります)


なお、永久磁石を使わない「誘導電動機」というモータもあります。

永久磁石を使うものに対して低トルク等の理由で、サーボモータにはあまり使われないので、今回記事では説明しません。

ただ、脱レアアースや低コスト化という理由から、将来的には数が増えるかもしれませんね。


3. 3相ACモータの電圧方程式

大抵の産業用モータは、3相のコイルを持ったACモータです。
3相分のコイルがあると、強力な回転磁界を作りやすいためです。

通常、この3相は$${u,v,w}$$相と呼ばれます。
構造的に、$${u,v,w}$$相のコイルは$${120\degree}$$間隔で配置されます。

また、$${u,v,w}$$相にかける交流電圧は、波形こそ同じですが、それぞれ$${120\degree}$$ずつ位相差があります。


下図は、3相ACモータ(表面磁石型を想定)の電気回路図です。

3相ACモータの電気回路図
3相ACモータの電気回路

$$
\begin{array}{lll}
V_u&:&\text{u相電圧}\\
V_v&:&\text{u相電圧}\\
V_w&:&\text{u相電圧}\\
R&:&\text{コイル抵抗}\\
L'&:&\text{コイル自己インダクタンス}\\
l&:&\text{コイル漏れインダクタンス}\\
M'&:&\text{コイル間相互インダクタンス}\\
\theta_e&:&\text{電気角}\\
\omega_e&:&\text{電気角速度}
\end{array}
$$


この電圧方程式は以下のとおりです。

$$
\left\{
\begin{array}{lll}
V_u&=&L'\cdot\cfrac{di_u}{dt}+R\cdot i_u-\cfrac{1}{2}\cdot M'\cdot\cfrac{di_v}{dt}-\cfrac{1}{2}\cdot M'\cdot\cfrac{di_w}{dt}+e_u\\
V_v&=&L'\cdot\cfrac{di_v}{dt}+R\cdot i_v-\cfrac{1}{2}\cdot M'\cdot\cfrac{di_u}{dt}-\cfrac{1}{2}\cdot M'\cdot\cfrac{di_w}{dt}+e_v\\
V_w&=&L'\cdot\cfrac{di_w}{dt}+R\cdot i_w-\cfrac{1}{2}\cdot M'\cdot\cfrac{di_u}{dt}-\cfrac{1}{2}\cdot M'\cdot\cfrac{di_v}{dt}+e_w
\end{array}
\right.
$$


あるコイルに電流を流すと、そのコイルに磁界・磁束が発生します。
発生した磁界・磁束は別コイルに電流を流します。
この作用はコイル間に相互に生じます。

$${u}$$相電圧方程式に$${v,w}$$相電流が関わるのは、この相互作用のためです。
 
また、自己インダクタンス$${L’}$$は、相互インダクタンス$${M’}$$と漏れインダクタンス$${l}$$から、以下のように求められます。

$$
L'=l+M'
$$


電圧方程式中の$${e_u,e_v,e_w}$$は逆起電圧です。

逆起電圧は、モータ回転に伴って生じる、電流を妨げる電圧です。
これは、DCモータにもあります。

逆起電圧の大きさは、モータ(ロータ)の回転数によって変わります。
具体的な計算式は以下のとおりです。
($${\phi_f'}$$は鎖交磁束数)

$$
\left\{
\begin{array}{lll}
e_u&=&-\omega_e\cdot\phi_f'\cdot sin\theta_e\\
e_v&=&-\omega_e\cdot\phi_f'\cdot sin(\theta_e-\frac{2\pi}{3})\\
e_w&=&-\omega_e\cdot\phi_f'\cdot sin(\theta_e-\frac{4\pi}{3})
\end{array}
\right.
$$


鎖交磁束数とは、ロータ内の永久磁石から出る磁束のうち、コイル内を貫く磁束の数のことです。

ちなみに、サーボモータメーカは、製品カタログに鎖交磁束数をそのまま載せるケースは少ないです。

大抵、カタログに記載されるのは、トルク定数や逆起電圧定数です。
(トルク定数や逆起電圧定数は鎖交磁束数で決まるので、間接的にカタログ記載される形になります)


なお、ロータは$${N}$$極と$${S}$$極を複数持つケースが多いです。
これは、大きく滑らかなトルクを得るためです。

下図は、$${N}$$極と$${S}$$極をそれぞれ5つ持った10極ロータです。

10極ロータのイメージ
10極ロータのイメージ

10極ロータの場合、ロータが1回転するうちに、$${N}$$極と$${S}$$極が5サイクル切り替わります。
これは、機械的に1回転するうちに、電気的には5回転しているのと同じことになります。
 
このことから、モータは機械角と電気角という2種類の角度を持ちます。

下式は、機械角$${\theta_m}$$と電気角$${\theta_e}$$の関係式です。
($${p}$$は極数)

$$
\theta_e=\cfrac{p}{2}\cdot \theta_m
$$


4. αβ変換(3相2相変換)

$${\alpha\beta}$$変換は、回転座標を導入する前の下準備的な座標変換です。

名前どおり、$${u,v,w}$$の3相を$${\alpha,\beta}$$の2相に変換するのが$${\alpha\beta}$$変換(3相2相変換)です。

下図は、$${\alpha\beta}$$変換のイメージです。

αβ変換のイメージ
αβ変換のイメージ

3相から2相への変換は、シンプルに$${u,v,w}$$と$${\alpha,\beta}$$の向きで決まります。


まず、$${\alpha}$$相と$${u,v,w}$$相の方向関係の確認です。

• $${\bm{u}}$$相と$${\bm{\alpha}}$$相の向きは完全に一致$${\\}$$
• $${\bm{v}}$$相を$${\bm{-60\degree}}$$回転させ、逆向きにすると$${\bm{\alpha}}$$相の向きと一致$${\\}$$
(反時計回りがプラス)$${\\}$$
• $${\bm{w}}$$相を$${\bm{60\degree}}$$回転させ、逆向きにすると$${\bm{\alpha}}$$相の向きと一致


次に、$${\beta}$$相と$${u,v,w}$$相の方向関係の確認です。

• $${\bm{u}}$$相を$${\bm{-90\degree}}$$回転させると、$${\bm{\beta}}$$相の向きと一致$${\\}$$
• $${\bm{v}}$$相を$${\bm{30\degree}}$$回転させると、$${\bm{\beta}}$$相の向きと一致$${\\}$$
• $${\bm{w}}$$相を$${\bm{-30\degree}}$$回転させ、逆向きにすると$${\bm{\beta}}$$相の向きと一致


これらから、$${u,v,w}$$相を$${\alpha,\beta}$$相に変換する数式は以下のようになります。
($${\frac{2}{3}}$$は3相を2相として扱うために掛ける係数)

$$
\begin{array}{ll}
\alpha&=\cfrac{2}{3}
\left(
u-cos(-60\degree)\cdot v-cos(60\degree)\cdot w
\right)\\
&=\cfrac{2}{3}
\left(
u-\cfrac{1}{2}\cdot v-\cfrac{1}{2}\cdot w
\right)
\end{array}
$$

$$
\begin{array}{ll}
\beta&=\cfrac{2}{3}
\left(
cos(-90\degree)u+cos(30\degree)\cdot v-cos(30\degree)\cdot w
\right)\\
&=\cfrac{2}{3}
\left(
0\cdot u+\cfrac{\sqrt{3}}{2}\cdot v-\cfrac{\sqrt{3}}{2}\cdot w
\right)
\end{array}
$$


これらを行列形式でまとめると、下式になります。

$$
\left[
\begin{array}{c}
\alpha \\ \beta
\end{array}
\right]
=\cfrac{2}{3}
\left[
\begin{array}{ccc}
1&-\cfrac{1}{2}&-\cfrac{1}{2}\\
0&\cfrac{\sqrt{3}}{2}&-\cfrac{\sqrt{3}}{2}
\end{array}
\right]
\left[
\begin{array}{c}
u \\ v \\ w
\end{array}
\right]
$$


$${u,v,w}$$相の電流・電圧共に、この変換式を使えば$${\alpha,\beta}$$相に変換できます。
また、変換前後の電流・電圧振幅は同じ数値になります。

ただし、このままだと、電力(=電流$${\times}$$電圧)は変換前後で一致しません。
係数$${\frac{2}{3}}$$が2乗で掛かるためです。


変換前後の電力を同じ数値にしたい場合、$${\frac{2}{3}}$$を$${\sqrt{\frac{2}{3}}}$$に置き換えた以下の変換式を使います。

$$
\left[
\begin{array}{c}
\alpha \\ \beta
\end{array}
\right]
=\sqrt{\cfrac{2}{3}}
\left[
\begin{array}{ccc}
1&-\cfrac{1}{2}&-\cfrac{1}{2}\\
0&\cfrac{\sqrt{3}}{2}&-\cfrac{\sqrt{3}}{2}
\end{array}
\right]
\left[
\begin{array}{c}
u \\ v \\ w
\end{array}
\right]
$$


係数が$${\frac{2}{3}}$$のものを「相対変換」
係数が$${\sqrt{\frac{2}{3}}}$$のものを「絶対変換」

と呼びます。


どちらの変換式を使っても電流制御はできます。

しかし、どちらの変換で実装しているかを把握しておかないと、ゲイン・パラメータを設定しても思ったとおりの動きにならないことがあります。

それが思わぬ足止めになることもあるので、早めに確認しておきましょう。


なお、$${\alpha,\beta}$$相から$${u,v,w}$$相への変換式は下式のようになります。
(絶対変換では$${\frac{2}{3}}$$が$${\sqrt{\frac{2}{3}}}$$になります)

$$
\left[
\begin{array}{c}
u\\v\\w
\end{array}
\right]
=\cfrac{2}{3}
\left[
\begin{array}{cc}
1&0\\
-\cfrac{1}{2}&\cfrac{\sqrt{3}}{2}\\
-\cfrac{1}{2}&-\cfrac{\sqrt{3}}{2}
\end{array}
\right]
\left[
\begin{array}{c}
\alpha\\ \beta
\end{array}
\right]
$$


制御演算は、次章で説明する回転座標の$${dq}$$相について実行しますが、実物のモータには$${u,v,w}$$相で電圧をかける必要があります。

このため、ベクトル制御を使うときは、逆変換も必要になります。


5. dq変換(回転座標変換)

$${dq}$$変換は、$${\alpha,\beta}$$相(固定座標)を回転座標にするための変換です。


ロータ内の磁石(磁極)方向が$${d}$$軸($${d}$$相)です。

$${d}$$軸に電流を流して磁界・磁束を発生させても、ロータ内磁石と電磁石(コイル)が垂直方向に引き合う or 反発するだけで回転力は得られません。


一方、$${q}$$軸($${q}$$相)は$${d}$$軸と垂直方向の軸です。

$${q}$$軸に電流を流して磁界・磁束を発生させると、ロータ内磁石と電磁石(コイル)との間にはたらく力でロータが回転します。


下図は、$${dq}$$変換のイメージです。

dq変換のイメージ
dq変換のイメージ


$${dq}$$軸の方向は、ロータの回転と共に変わります。
このため、変換行列の中身は$${\alpha\beta}$$変換のように一定値ではありません。
リアルタイムに変わり得ます。


固定座標から回転座標への変換も、$${u,v,w}$$から$${\alpha,\beta}$$への変換と同様に、シンプルに$${\alpha,\beta}$$と$${d,q}$$の向きで決まります。

まず、$${d}$$軸に対する$${\alpha,\beta}$$の方向関係を確認します。

• $${\bm{\alpha}}$$相の$${\bm{cos\theta_e}}$$の向きは、常に$${\bm{d}}$$軸と一致$${\\}$$
• $${\bm{\beta}}$$相の$${\bm{sin\theta_e}}$$の向きは、常に$${\bm{d}}$$軸と一致


次に、$${q}$$軸に対する$${\alpha,\beta}$$の方向関係を確認します。

• $${\bm{\alpha}}$$相の$${\bm{sin\theta_e}}$$の逆向きは、常に$${\bm{q}}$$軸と一致$${\\}$$
• $${\bm{\beta}}$$相の$${\bm{cos\theta_e}}$$の向きは、常に$${\bm{q}}$$軸と一致


これらから、$${\alpha,\beta}$$相を$${d,q}$$軸に変換する数式は以下のようになります。
(変換前後で相の数が同じなので、$${\alpha\beta}$$変換と違って係数掛けは不要です)

$$
\begin{array}{lll}
d&=&cos\theta_e\cdot \alpha+sin\theta_e\cdot \beta\\
q&=&-sin\theta_e\cdot \alpha+cos\theta_e\cdot \beta
\end{array}
$$


これを行列形式でまとめると、下式になります。

$$
\left[
\begin{array}{c}
d\\q
\end{array}
\right]
=
\left[
\begin{array}{cc}
cos\theta_e&sin\theta_e\\
-sin\theta_e&cos\theta_e
\end{array}
\right]
\left[
\begin{array}{c}
\alpha\\ \beta
\end{array}
\right]
$$


なお、変換式中の電気角$${\theta_e}$$は、ロータリーエンコーダの検出角度から算出するのが一般的です。
(エンコーダなしでベクトル制御をする「センサレス制御」という技術もありますが)

これを$${\alpha\beta}$$変換の変換式と組み合わせれば、$${u,v,w}$$相を直接$${dq}$$軸に変換できます。

$$
\begin{array}{ll}
\left[
\begin{array}{c}
d\\q
\end{array}
\right]
&=
\left[
\begin{array}{cc}
cos\theta_e&sin\theta_e\\
-sin\theta_e&cos\theta_e
\end{array}
\right]
\cfrac{2}{3}
\left[
\begin{array}{ccc}
1&-\frac{1}{2}&-\frac{1}{2}\\
0&\frac{\sqrt{3}}{2}&-\frac{\sqrt{3}}{2}
\end{array}
\right]
\left[
\begin{array}{c}
u\\v\\w
\end{array}
\right]\\
&=\cfrac{2}{3}
\left[
\begin{array}{ccc}
cos\theta_e&-\frac{1}{2}cos\theta_e+\frac{\sqrt{3}}{2}sin\theta_e&-\frac{1}{2}cos\theta_e-\frac{\sqrt{3}}{2}sin\theta_e\\
-sin\theta_e&\frac{1}{2}sin\theta_e+\frac{\sqrt{3}}{2}cos\theta_e&\frac{1}{2}sin\theta_e-\frac{\sqrt{3}}{2}cos\theta_e
\end{array}
\right]
\end{array}
$$


$${dq}$$軸から$${u,v,w}$$相への変換式は下式です。
(絶対変換では$${\frac{2}{3}}$$が$${\sqrt{\frac{2}{3}}}$$になります)

$$
\left[
\begin{array}{c}
u\\v\\w
\end{array}
\right]
=\cfrac{2}{3}
\left[
\begin{array}{ccc}
cos\theta_e&-sin\theta_e\\
-\frac{1}{2}cos\theta_e+\frac{\sqrt{3}}{2}sin\theta_e&\frac{1}{2}sin\theta_e+\frac{\sqrt{3}}{2}cos\theta_e\\
-\frac{1}{2}cos\theta_e-\frac{\sqrt{3}}{2}sin\theta_e&\frac{1}{2}sin\theta_e-\frac{\sqrt{3}}{2}cos\theta_e
\end{array}
\right]
$$


$${dq}$$軸でのモータ電圧方程式は以下になります。

$$
\left\{
\begin{array}{ll}
V_d&=R\cdot i_d+L_d\cdot\cfrac{di_d}{dt}-\omega_e\cdot L_q\cdot i_q\\
V_d&=R\cdot i_q+L_q\cdot\cfrac{di_q}{dt}-\omega_e\cdot L_d\cdot i_d+\omega_e\cdot\phi_f
\end{array}
\right.
$$


また、トルクと電流の関係式は以下のとおりです。
($${K_t}$$はトルク定数、$${K_t=\frac{p}{2}\phi_f}$$)

$$
\begin{array}{ll}
\tau&=\cfrac{p}{2}\cdot(\phi_f-(L_q-L_d)\cdot i_d)\cdot i_q\\
&=\cfrac{p}{2}\cdot\phi_f\cdot i_q-\cfrac{p}{2}\cdot(L_q-L_d)\cdot i_d\cdot i_q\\
&=K_t\cdot i_q-\cfrac{p}{2}\cdot(L_q-L_d)\cdot i_d\cdot i_q
\end{array}
$$


上式の右辺第2項はリラクタンストルクと呼ばれるものです。
$${L_d}$$と$${L_q}$$に差があるかは、モータ構造によって決まります。

表面磁石型(SPM:Surface Permanent Magnet)モータは$${L_d}$$と$${L_q}$$が一致するので、リラクタンストルクは発生しません。
(厳密には、加工・組み立て精度の都合で、誤差の範囲で$${L_d}$$と$${L_q}$$がずれるかもしれません)


一方、埋込磁石型(IPM:Internal Permanent Magnet)モータは$${L_d}$$と$${L_q}$$が一致しないので、リラクタンストルクが発生し得ます。
(下図は、埋込磁石型モータのイメージ)

埋込磁石型モータのイメージ
埋込磁石型モータのイメージ


近年、構造的な堅牢さからIPMモータが増えてきています。

リラクタンストルクを積極活用して、これまで以上の高速動作をさせるのも面白そうですね。
(SPMモータではロータ表面に接着剤で磁石を貼り付けるので、超高速回転時に遠心力によって磁石がはがれて故障するそうです)

$${u,v,w}$$相とのパラメータと$${dq}$$座標でのパラメータには、以下の関係性があります。
(コイル抵抗は$${u,v,w}$$相と$${dq}$$座標とで同じ)

$$
L=l+\cfrac{3}{2}\cdot M'
$$

$$
\begin{array}{lll}
\phi_f=\cfrac{3}{2}\cdot \phi_f&:&\text{相対変換の場合}\\
\phi_f=\sqrt{\cfrac{3}{2}}\cdot \phi_f&:&\text{絶対変換の場合}
\end{array}
$$


IPMモータの場合、方向によって相互インダクタンスが変わるので、インダクタンスの関係式がSPMモータと異なります。
(磁束はSPMモータと同じ)

$${dq}$$軸コイル相互インダクタンスという考え方を導入し、それらを$${M_d,M_q}$$とすると、IPMモータのインダクタンスは以下のように求められます。

$$
\begin{array}{ll}
L_d&=l+M_d\\
L_q&=l+M_q
\end{array}
$$


6. ベクトル制御の具体例

前述のとおり、ベクトル制御は、$${dq}$$軸方向の電流(向きと大きさを持つ電流ベクトル)を制御する技術です。

$${dq}$$軸の電流制御の構造は、応用編(1)の4章で紹介したDCモータ想定の電流制御とほぼ同じです。

ただ、$${dq}$$軸の電圧方程式には、2リンクマニピュレータにも見られた軸間干渉があります。
これについても、非干渉化制御をかけておくのがベターです。
(非干渉化制御なしでも、それなりに動きますが)

下図は、ベクトル制御をかけたときのブロック線図の一例です。

ベクトル制御のブロック線図
ベクトル制御のブロック線図


非干渉化制御の具体的なやり方は、逆起電圧補償と同じです。
軸間干渉成分を相殺するよう、電圧指令を決定すれば良いだけです。
 
PI制御ゲインの決定方法は、DCモータ想定の電流制御と同じです。

電流制御応答周波数を$${\omega_i}$$としたい場合、各ゲインは以下のように設定すれば良いです。

$$
\begin{array}{lll}
K_{pd}&=&L_d\cdot\omega_i\\
K_{id}&=&R\cdot\omega_i\\
K_{pq}&=&L_q\cdot\omega_i\\
K_{iq}&=&R\cdot\omega_i
\end{array}
$$


SPMモータの場合は$${L_d=L_q}$$なので、$${d}$$軸と$${q}$$軸のPI制御ゲインは同じになります。
 
なお、電気抵抗の温度依存性やコイルインダクタンスの電流依存性まで考慮した精密制御をしたい場合、以下のような方法が考えられます。

  • それらのデータを予め測定しておき、テーブル化したデータを参照して、PI制御ゲインにリアルタイム補正をかける

  • リアルタイムパラメータ同定(寄り道編(4)を参照)と組み合わせて、PI制御ゲインにリアルタイム補正をかける


制御構成やゲイン調整については一通り説明したので、電流指令の決め方を説明します。
 
基本的に、下式のようにトルク指令$${\tau^{ref}}$$をトルク定数$${K_t}$$で割れば、$${q}$$軸電流指令$${{i_q}^{ref}}$$を決定できます。

$$
{i_q}^{ref}=\cfrac{\tau^{ref}}{K_t}
$$


また、基本的に、$${d}$$軸電流指令$${{i_d}^{ref}=0}$$で問題ありません。 


ただ、モータ回転数上昇に伴って逆起電圧が上がるときは、その限りではありません。
モータ電圧の上限は、コントローラが供給できる最大電圧です。

高速動作が要求されても、逆起電圧によって、それ以上の高速動作をさせられない場面はあります。


そんなときは、$${{i_d}^{ref}}$$をマイナスの数値にします。
そうすると、$${d}$$軸コイルは$${L_d\cdot i_d}$$の磁束を発生させ、見た目の磁束が$${\phi_f+L_d\cdot i_d}$$に変わります。
($${i_d}$$がマイナスだと、磁束$${L_d\cdot i_d}$$もマイナス)


$${d}$$軸方向というのは、ロータ内永久磁石の磁極方向です。
このため、$${d}$$軸コイルが発生する磁束は、磁石の強さを変えるかのようにはたらきます。

$${i_d}$$をマイナスにして磁束が弱まると、逆起電圧は低下します。
そうなれば、同じ電圧でも、より高い回転数でモータを動かせます。
 
このように$${d}$$軸電流を使う方法を「弱め界磁制御」と呼びます。


逆に、$${i_d}$$をプラスにすると、逆起電圧が大きくなります。
産業用ロボットやサーボモータ分野ではあまり使いませんが、鉄道分野では電気ブレーキを強める目的で使われる方法だそうです。


また、IPMモータのリラクタンストルク($${L_d\neq L_q}$$のとき発生し得るトルク)を積極活用したい場合も、$${{i_d}^{ref}}$$を0でない数値にします。

ただ、下手に$${d}$$軸電流を流すと、かえってトルクが出なくなります。
そこはよく計算して、$${d}$$軸電流をどう流すか決める必要があります。


7. おわりに

この記事では、ACモータのベクトル制御について紹介・解説しました。
これで、全8回の応用編は終了です。おつかれさまでした。
応用編で紹介した知識・技術が身につけば、中級者くらいだと思います。


ちなみに、規模が大きい企業だと、
メカ制御(≒位置や速度の制御+モーション生成技術)と、
電気制御(≒電流制御+電気回路やモータをうまく使いこなす技術)とで、
異なる開発部門を設けるケースが、しばしば見られます。

おそらく、どちらかに専念させないと、実戦レベルの人材が育ちにくいという判断もあるのでしょう。
制御技術全般について習熟するのは、それくらいハードルが高いことです。

逆に言えば、それができれば他者から一歩抜きんでるための強い武器になります。


ただ、上級者を目指すなら、どれだけやっても勉強だけでは足りません。
上級者には、オリジナリティ(独創性、自分ならではの新規性・進歩性)が必要です。

学術論文にしろ、特許技術にしろ、新規性・進歩性は必ず要求されます。
こればかりは、自分で創意工夫してもらうしかありません。

 
さて、この全8回の応用編で、モータ制御に関する上位層のモーション生成から下位層のベクトル制御まで1本の線でつなげる土台が整いました。
(加えて、寄り道編で紹介した「PWM制御」「システム・パラメータ同定」が、土台を補強します) 


次の記事シリーズ「実際に使える制御工学:ロボット編」では、これまでに整えた土台の上で、近年注目されているフィジカルAIを実機で動かすためのキネマティクス(運動学)やダイナミクス(動力学)を紹介していこうと思います。


また、私が紹介・解説できる制御技術やその周辺技術は、まだそれなりに数があります。
それらも追々、記事にしていこうと思っています。
 
これからの記事も読んでもらえれば幸いです。
 
 
前回:応用編(7)「制振フィードフォワード制御」はこちら
次回:ロボット編ロードマップはこちら


付録. 3相電流とトルクの関係式

電流制御だけをする分には、これが分からなくとも問題ありません。

ただ、モータ電気部分をAC3相にした凝ったシミュレーションをしたい等には必要になります。

3相電流とトルクの関係式は以下のとおりです。

$$
\begin{array}{ll}
\tau&=\cfrac{p}{2}\cdot
\left(
\phi_f'-\cfrac{2}{3}\cdot(M_q-M_d)\cdot(i_u\cdot cos\theta_e+i_v\cdot cos(\theta_e-\frac{2\pi}{3})+i_w\cdot cos(\theta_e-\frac{4\pi}{3}))
\right)\\
&               \cdot \left(
-i_u\cdot sin\theta_e-i_v\cdot sin(\theta_e-\frac{2\pi}{3})-i_w\cdot sin(\theta_e-\frac{4\pi}{3})
\right)
\end{array}
$$

なお、SPMモータでは$${M_d=M_q}$$なので、3相電流とトルクの関係式も以下のように変わります。

$$
\begin{array}{ll}
\tau&=\cfrac{p}{2}\cdot\phi_f'
\cdot \left(
-i_u\cdot sin\theta_e-i_v\cdot sin(\theta_e-\frac{2\pi}{3})-i_w\cdot sin(\theta_e-\frac{4\pi}{3})
\right)
\end{array}
$$


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