つながらない権利 厚生労働省 略史
2020年11月から2026年8月にいたる「つながらない権利 厚生労働省 略史(年表)」を「Hiromasa Saeki」のnote記事などを基にして作成しました。なお「これからのテレワーク での働き方に関する検討会議事録」「これからの労働時間制度に関する検討会報告書」「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」については厚生労働省のサイトから削除されていますので貴重な資料になります。
つながらない権利 厚生労働省 略史(年表)
これからのテレワークでの働き方に関する検討会
・2020年11月16日 第4回 これからのテレワークでの働き方に関する検討会において濱口桂一郎委員によるプレゼンテーション実施。
・濱口委員
(略)ヨーロッパ、特にフランスをはじめとしていろいろな諸国で、今、つながらない権利というのが注目を集めているのですが、ドイツはこれについては、少なくとも連邦労働社会省は、これをわざわざ規定しようといった方向性はあまりなく、消極的だというこ とです。(略)
・萩原委員
(略)質問なのですけれども、ドイツでつながらない権利に対して消極的だったというところ の背景をもし御存じであれば知りたいのです。
・濱口委員
そこは正直よく分からないのです。テレワークをする権利については、ハイ ル労働社会相が大変熱心で、政府内で議論を先導しているということは分かるのですが、 逆に、つながらない権利に対してあまり積極的でない理由というのは、私の見た限りでは あまり出てきません。
実は、ドイツ以外のヨーロッパ諸国、どちらかというラテン系の国々でつながらない権利が論じられています。フランスの場合、毎年、労使交渉をするということが義務づけられているのですが、その義務的交渉事項の中に、つながらない権利についても含めるとい う規定が数年前に設けられたということがあります。
同じように、イタリアとかスペイン とかベルギーといった、ラテン系の国々では、そういうつながらない権利に関する問題意識というのがあるようですが、ほかの国々ではあまりないようです。その辺はもしかしたら国民性が影響しているのかもしれません。
いずれにしてもドイツ人は、テレワークする権利ということについては非常に熱心とい いますか、ホットな議論をしているけれども、つながらない権利ということについては、 それほどの熱心さでは議論はしていないということのようです。
・2020年12月25日 厚生労働省が「これからのテレワークでの働き方に関する検討会報告書」公表。
フランスでは、労使交渉において、いわゆる「つながらない権利」を労働者が行使する方法を交渉することとする立法が2016年になされ、「つながらない権利」を定める協定の締結が進んでいる。
テレワークは働く時間や場所を有効に活用でき、育児等がしやすい利点がある反面、生活と仕事の時間の区別が難しいという特性がある。このため、労働者が「この時間はつながらない」と希望し、企業もそのような希望を尊重しつつ、時間外・休日・深夜の業務連絡の在り方について労使で話し合い、使用者はメールを送付する時間等について一定のルールを設けることも有効である。
例えば、始業と終業の時間を明示することで、連絡しない時間を作ることや、時間外の業務連絡に対する返信は次の日でよいとする等の手法をとることがありうる。
労使で話し合い、使用者は過度な長時間労働にならないよう仕事と生活の調和を図りながら、仕事の場と私生活の場が混在していることを前提とした仕組みを構築することが必要である。
テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン
・2021年3月25日 厚生労働省は、現行のテレワークガイドライン(指針)「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(指針)に改定し公表。
テレワークについては、業務の効率化に伴い、時間外労働の削減につながるというメリットが期待される一方で、
・ 労働者が使用者と離れた場所で勤務をするため相対的に使用者の管 理の程度が弱くなる
・ 業務に関する指示や報告が時間帯にかかわらず行われやすくなり、労働者の仕事と生活の時間の区別が曖昧となり、労働者の生活時間帯の確保に支障が生ずるといったおそれがあることに留意する必要がある。
このような点に鑑み長時間労働による健康障害防止を図ることや、労働者のワークライフバランスの確保に配慮することが求められている。 テレワークにおける長時間労働等を防ぐ手法としては、次のような手法が考えられる。
(ア) メール送付の抑制等
テレワークにおいて長時間労働が生じる要因として、時間外等に業務に関する指示や報告がメール等によって行われることが挙げられる。 このため、役職者、上司、同僚、部下等から時間外等にメールを送付することの自粛を命ずること等が有効である。メールのみならず電話等での方法によるものも含め、時間外等における業務の指示や報告の在り方について、業務上の必要性、指示や報告が行われた場合の労働者の対応の要否等について、各事業場の実情に応じ、使用者がルールを設けることも考えられる。
(イ) システムへのアクセス制限
テレワークを行う際に、企業等の社内システムに外部のパソコン等からアクセスする形態をとる場合が多いが、所定外深夜・休日は事前に許可を得ない限りアクセスできないよう使用者が設定することが有効で ある。
テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(PDFファイル)
これからの労働時間制度に関する検討会
2022年3月29日 これからの労働時間制度に関する検討会で「労働者の健康確保に係るヒアリング」実施。ヒアリング準備資料「オフの量と質から考える働く人々の疲労回復」(独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センター・久保智英上席研究員)には「裁量が高くても不規則な働き方は睡眠の質と疲労回復を阻害する」「労働時間への裁量度が高くても、不規則に働くことは睡眠の質の低下と疲労回復を遅延させる」と記載。また、つながらない権利についても記述があり、「『勤務間インターバル制度』や『つながらない権利』は新しい時代における働く人々の疲労回復機会の確保には有効だと思われる」と。
オフの量と質から考える働く人々の疲労回復(PDFファイル)
・2022年7月15日 厚生労働省は「これからの労働時間制度に関する検討会」報告書を公表。
テレワークが普及し場所にとらわれない働き方が実現しつつあり、またICTの発達に伴い働き方が変化してきている中で、心身の休息の確保の観点、また、業務時間外や休暇中でも仕事と離れられず、仕事と私生活の区分があいまいになることを防ぐ観点から、海外で導入されているいわゆる「つながらない権利」を参考にして検討を深めていくことが考えられる。
今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)
2022年12月27日 厚生労働省が労働政策審議会・労働条件分科会報告「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」を公表したが「つながらない権利」を参考にして検討を深められたような形跡は見受けられなかった。
労働基準関係法制研究会報告書
・2025年1月8日 厚生労働省は「労働基準関係法制研究会報告書」を公表。
(4)つながらない権利
本来、労働契約上、労働時間ではない時間に、使用者が労働者の生活に介入する権利はない。しかし現実には、突発的な状況への対応や、顧客からの要求等によって、勤務時間外に対応を余儀なくされ、私生活と業務との切り分けが曖昧になり、仕事が私生活に介入してしまうことになる状況も容易に発生し得る。
欧州等では、「つながらない権利」を行使したことや行使しようとしたことに対する不利益取扱いの禁止、使用者が労働者にアクセス可能な時間帯の明確化や制限、「つながらない」状態を確保するための措置の実施(より具体的には労使交渉の義務付け)等を内容とした、「つながらない権利」が提唱されている。例えば、「つながらない権利」を法制化してい るフランスの例を見ると、具体的な内容の設定の仕方・範囲は労使で協議して決めており、その内容は企業によって様々であるが、労使交渉で合意に至らない場合には、つながらない権利の行使方法等を定めた憲章を作成することが使用者に義務付けられている。
また、実際に勤務時間外に労働者に連絡をとる必要が生じる際は、労働者と使用者の関係だけでなく、顧客と担当者の関係等も含めた複合的な要因が生じていることが多いと考えられ、当該連絡の内容についても、具体的な仕事が発生して出勤等をしなければならないこともあれば、電話等での対話を行わなければならないもの、メール等が送られてくるだけといったような、様々な段階のものが存在し得る。こうした点を整理し、勤務時間外に、どのような連絡までが許容でき、どのようなものは拒否することができることとするのか、業務方法や事業展開等を含めた総合的な社内ル ールを労使で検討していくことが必要となる。このような話し合いを促進していくための積極的な方策(ガイドラインの策定等)を検討することが必要と考えられる。
日本成長戦略会議 労働市場改革分科会とりまとめ
・2026年6月2日 厚生労働省が「日本成長戦略会議 労働市場改革分科会とりまとめ」公表。
(略)労働者の健康確保や生活時間の確保が重要であり、これらは多様な人材の労働参加に当たっても重要であることから、連続勤務規制や勤務間インターバル制度の法的位置付け、「つながらない権利」の在り方、副業・兼業に当たっての健康確保、テレワークの活用促進などについて、現場の実態や労使双方の立場を十分に踏まえて、検討を進める必要がある。
日本成長戦略会議 労働市場改革分科会とりまとめ(PDFファイル)
日本成長戦略
・2026月7月21日 高市早苗内閣は「日本成長戦略」を閣議決定。日本成長戦略には「つながらない権利」の在り方について「現場の実態や労使双方の立場を十分に踏まえて、(夏以降の労働政策審議会で)検討を進める」と記載。
(柔軟で多様な働き方の実現に向けた労働時間法制等)
心身の健康維持と従業者の選択を前提に、柔軟で多様な働き方を実現するため、労働時間法制等に係る政策対応について、2026年夏以降の労働政策審議会において議論を行う。
裁量労働制については、現場の実態や労使双方の立場を十分に踏まえて、健康確保、長時間労働防止、適切な処遇確保などの濫用防止措置を前提に裁量労働制の対象の在り方について、見直しの検討を行う。
また、変形労働時間制については、他律的な要因に十分対応できていない現場の実態や、労働者の生活時間や予見可能性の確保にも留意しつつ検討を進める。
また、連続勤務規制や勤務間インターバル制度の法的位置付け、「つながらない権利」の在り方、副業・兼業に当たっての健康確保、テレワークの活用促進などについて、現場の実態や労使双方の立場を十分に踏まえて、検討を進める。
また、労働時間制度の運用については、時間外労働の実態を踏まえた、36協定の締結や柔軟な労働時間制度の活用について、よろず支援拠点等との連携を強化しつつ、「働き方改革推進支援センター」や労働基準監督署による相談支援の充実を速やかに実施するとともに、必要な体制整備については2027年度以降も着実に実施を図る。
あわせて、労働基準監督署において、重大・悪質な事案に対しては厳正に 対応しつつ、労働時間や労働者の健康確保措置に関する労使の合意にのっとった指導が行われるよう速やかに見直す。
これらの施策について、実施後の政策効果を検証し確認できるよう、あらかじめモニタリングとデータ収集を行うためのフォーマットを作成し、厚生労働省と地方支分部局において確実にフォローアップを行う。
日本成長戦略概要(PDFファイル)
Outline of the Japan’s Growth Strateg(PDFファイル)
経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2026
・2026年7月21日に高市早苗内閣は「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2026」を閣議決定。「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2026」には「労働力供給制約下での雇用保険制度における対応の在り方について、2026年内を目途に結論が得られるよう検討する。心身の健康維持と従業者の選択を前提に、柔軟で多様な働き方を実現するため、労働時間法制等に係る政策対応について、夏以降の労働政策審議会において議論を行う」と記載。また脚注65には「日本成長戦略」中の労働時間法制に関する箇所が引用。つまり脚注65には「つながらない権利」の在り方について「現場の実態や労使双方の立場を十分に踏まえて、(夏以降の労働政策審議会で)検討を進める」と。
(人材の育成・能力発揮)
17の戦略分野やエッセンシャル分野を始めとする幅広い人材の育成・確保のため、国・地域における取組を推進する。教育政策、産業政策と雇用政策を始めとする関係政策を連携させ、人材育成を一気通貫で推進する。人づくりの礎である教育の質を向上させる。産学官が連携し、必要なスキルや処遇の明確化、プログラム開発、費用負担の軽減や情報提供の充実、大学の体制強化、社会人による奨学金の活用の更なる向上に向けた検討を通じて、リ・スキリング機会を拡充する。アドバンスト・エッセンシャルワーカーの育成に取り組む。これらにより、処遇や生産性の向上を図る。
こうしたスキルアップや技能尊重の機運醸成に向けた「全世代型リ・スキリング国民運動」を展開するとともに、2028年技能五輪国際大会の日本開催の準備を進め、技能士・業界団体等の連携による人材育成の取組を推進する。
労働力供給制約下での雇用保険制度における対応の在り方について、2026年内を目途に結論が得られるよう検討する。心身の健康維持と従業者の選択を前提に、柔軟で多様な働き方を実現するため、労働時間法制等に係る政策対応について、夏以降の労働政策審議会において議論を行う。(脚注)65
国家公務員が持てる能力を遺憾なく発揮し、国民生活と国益を支える役割を果たせるよう、採用活動を幅広く強化するとともに、民間企業等に伍する職場環境の整備、人材マネ ジメントの強化、人事管理機能の高度化、処遇改善を進め、公務を選ばれる仕事とする。
(脚注)65
「成長戦略」から抜粋。
裁量労働制については、現場の実態や労使双方の立場を十分に踏まえて、健康確保、長時間労働防止、適切な処遇確保などの濫用防止措置を前提に裁量労働制の対象の在り方について、見直しの検討を行う。
また、変形労働時間制については、他律的な要因に十分対応できていない現場の実態や、労働者の生活時間や予見可能性の確保にも留意しつつ検討を進める。
また、連続勤務規制や勤務間インターバル制度の法的位置付け、「つながらない権利」の在り方、副業・兼業に当たっての健康確保、テレワークの活用促進などについて、現場の実態や労使双方の立場を十分に踏まえて、検討を進める。
また、労働時間制度の運用については、時間外労働の実態を踏まえた、36協定の締結や柔軟な労働時間制度の活用について、よろず支援拠点等との連携を強化しつつ、「働き方改革推進支援センター」や労働基準監督署による相談支援の充実を速やかに実施するとともに、必要な体制整備については2027年度以降も着実に実施を図る。
あわせて、労働基準監督署にお いて、重大・悪質な事案に対しては厳正に対応しつつ、労働時間や労働者の健康確保措置に関する労使の合意にのっとった指導が行われるよう速やかに見直す。
これらの施策について、実施後の政策効果を検証し確認できるよう、あらかじめモニタリングとデータ収集を行うための フォーマットを作成し、厚生労働省と地方支分部局において確実にフォローアップを行う。
経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2026(PDFファイル)
経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2026概要(PDFファイル)
規制改革実施計画(2026)
・2026年7月21日 「規制改革実施計画」閣議決定。規制改革実施計画には「公衆衛生学の観点から」と記載。公衆衛生学の観点とは堤明純・北里大学医学部公衆衛生学教授の提言のこと。規制改革推進会議(第8回)働き方・人への投資ワーキング・グループ、が2026年4月14日にオンラインで開催、議題は「労働時間法制に係る政策対応の在り方について」、堤明純教授が『裁量労働制における健康確保措置の在り方』と題して提言。なお堤教授は「これからの労働時間制度に関する検討会」(2021年7月~2022年7月)のメンバーの一人。
公衆衛生学の観点からは、 裁量労働制の運用について、以下の指摘がある。
・長時間労働や概日リズムの乱れ、心理的に仕事から距離を置けないこと、裁量のない労働者への制度の適用、努力に見合わない報酬や評価等が生じた場合には、健康上のリスクとなりやすい。
・使用者には、正確な労働時間の管理や裁量に見合うタスクの設定、適切な成果の評価が求められるほか、健康・福祉確保措置として、勤務間インターバル(企画業務型裁量労働制指針等に基づき、終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保することをいう。)、深夜労働(労働基準法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させることをいう。)の回数を1か月について一定回数以内とすること、使用者が把握した労働時間が一定時間を超えた場合の制度適用解除、年次有給休暇の連続取得の促進等の予防的措置を講ずることが重要であり、さらに、時間外の連絡方法に関するルールの作成や仕事を与える管理監督者に対する心理的安全性に関する教育の実施、労働者に対する労働時間等の自己管理能力を醸成する教育の実施等も考えられる。
以上の声や指摘などを踏まえ、心身の健康維持と労働者の選択を前提に柔軟で多様な働き方を実現する観点から、厚生労働省は、健康確保、長時間労働防止、適切な処遇確保などの濫用防止措置を前提に、裁量労働制の対象の在り方について労働政策審議会において見直しの検討を開始し、結論を得次第、 必要な措置を講ずる。
つまり閣議決定された規制改革実施計画には「公衆衛生学の観点から(略)指摘がある」「長時間労働や概日リズムの乱れ、心理的に仕事から距離を置けないこと(略)生じた場合には、健康上のリスクとなりやすい」「使用者には(略)健康・福祉確保措置として、勤務間インターバル(略)、さらに、時間外の連絡方法に関するルールの作成(略)等も考えられる」と記載されました。
労働政策審議会 労働条件分科会
・2026年7月14日 労働政策審議会 労働条件分科会が開催。事務局(厚生労働省)より「日本成長戦略会議 労働市場改革分科会とりまとめ」、および「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2026(案)」「日本成長戦略(案)」「規制改革実施計画(案)」の(労働条件分科会に関係する部分のみ報告。連合ニュースには「労働者側委員は、労働者の健康確保について明確なエビデンスが確立している、勤務間インターバル制度の導入義務化や長期の連続勤務規制の導入、『つながらない権利』の法制化などが必要」と。
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