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学会参加報告:「患者カルテ」(家族療法学会講演)

 数年ぶりに家族療法学会に参加しました。産業精神保健学会の学会誌の特集で、ナラティブセラピーの国重浩一さん(コウさん)に寄稿してもらったのですが、実はまだお会いしたことがありませんでした。今回、コウさんが9月7日にワークショップを行うと知り、これはチャンス!と申し込みました。その報告はまた別のnoteで。
 
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日本家族療法学会 第42回大宮大会
日時:2025年9月5-7日
会場:大宮ソニックシティ
テーマ:「家族療法 温故知新-Bridging basics and beyond-」
https://omiya2025.jaft.org/
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 2017年から産業領域の仕事がメインになり、家族と面接することはほとんどなくなりました。家族療法学会、そろそろ抜けようかと考えることもあるのですが、この学会は論客が多く、やはり目が離せないのです。プログラムを見ると今回は野村直樹さん(文化人類学者)の講演が。久しぶりに野村さんにもご挨拶したいし、「患者カルテ」というタイトルにも興味をそそられ、ワークショップ前日の9月6日も何とかやりくりつけて大宮まで出かけました。

▼「患者カルテ」とは何か

 「患者カルテ」とは、「患者さんが書くカルテ(Patient-authored medical record)」という意味ですが、これは患者さんが一人机に向かってカルテを書くということではありません。抄録によると、「看護師が対話する場を確保し、患者は『自分はどうしたら治るか』というテーマを中心に自分自身を語るのです。看護師はそれを聞き、質問を投げかけ、手元のパソコンにその語りを打ち込んでいきます。そこに一つ文体があります。主語を『ばくは、私は』という『患者本人の一人称』にして看護師は書きます。対話を終えるにあたり、書かれたことを患者が確認し、訂正し、あるいは加筆して、その文章を承認します。これが『患者カルテ』です。それをコピーして患者に渡します。この共同文書の著者は患者と看護師で、両者が同意すればその『患者カルテ』は外部と共有されます」と紹介されていました。
 講演でこのあたりまで聞いた段階でワクワクしてきました。これは世の中のデジタル化が進んだからできることとも言えます。看護師は聞いたことをただ書き取るのでなく、質問して話を展開し、患者さんに訂正あるいは加筆してもらい一つの形にし、印刷して患者さんに渡す。これは対等性を重んじた共同作業です。

▼話したことを記録として渡される意味

 普通のカウンセリングは話しっぱなしです。録音する方もいるかもしれませんが少数でしょう。しかし自分の話したことを印刷して渡してもらえば、いつでも、何度でも、手軽に読み返すことができます。そうすると、このことはまだ話していなかったとか、この部分はちょっと違ったかなとか、改めて読み直すとこんなことを思い出したなど、さまざまな思いが新たに浮かんでくるのではないでしょうか。
 私は診察の際、基本的には患者さんが話したようにカルテを記録します。もちろん話すスピードにタイピングが追いつくわけがないので、走り書きではありますが、患者さんの語りに加え、自分が質問したことやコメントしたことも、後で思い出せるように対話形式でメモします。
 そうか、あの記録をそのまま印刷して渡せば良かったんだ!紹介状や診断書は印刷してお渡ししていたのですが、カルテ記録を渡すことまでは考えませんでした。ただ、いつ見せてもいいようには書いていました。

▼その先があった!

 そしてその先があったのです。ここからがいかにも家族療法らしいのですが、「患者カルテ」を作成後、患者と看護師は家族や主治医、その他関係者に声をかけ、フォローアップ・ミーティングを開きます。その冒頭で看護師が患者カルテを参加者に配布し朗読します。それをスタートに「開かれた対話」を始めるわけです。そういった過程を通して自らへの新たな知見を手にしやすくなるでしょう。そして患者と看護師の共同作業によって作られた「患者カルテ」を参加者の前で朗読することは、祝祭的な意味合いも持ち合わせるというのです。祝祭的かあ。確かにサポーターが集まって、本人と看護師が作り上げた「朗読」を元に語り合うわけですから、そんな感じになっていくんだろうな。不思議な空間になるだろうなと感じました。野村さん、「患者カルテ」、凄いです!
 もう一つ凄かったのは、実は抄録。学会の抄録って、何言いたいんだかわかんないものが少なくないんですが、野村さんの抄録は読むだけで何をすればいいのかわかるのです。頭にスーッと入ってくる。こういう文章を書きたいものです。
 一点だけ、抄録に書いていなかったことを補足します。患者カルテの作成は2セッション、その後のフォローアップミーティング(朗読+対話)が2セッションで運用したそうです。

▼野村直樹さんとの出会い

 野村直樹さんと初めてお会いしたのは、私が成増厚生病院東京アルコール医療総合センターに勤務していた1990年代です。当時センター長だった市川光洋先生と共にお酒を飲みに行ったこともありました。先生とは時々メールでやり取りさせていただき、光栄にもこちらの本までいただいたのです。 

 ナラティブセラピーのことは1994-1995年頃に知りました。日本で最初に飜訳されたナラティブセラピーの本、「物語としての家族」(金剛出版)を読んだり訳者の小森康永さんのワークショップに出て「問題の外在化」という概念を知り、患者さんに手紙を書いてみたりしました(続きませんでしたが)。その後、ナラティブセラピーに精力的に取り組んでおられた、故・髙橋規子さんの研究発表を聞いたりして、徐々にその輪郭が見えてきたのですが、野村さんからいただいたこの本が決定打となり、ナラティブセラピーを理解できたのです(そのつもり)。今考えると何で私のような無名な人間にくださったのだろうと思うのですが、ともかく私にとってバイブルの一つなのです。本を頂戴してから30年近く経ってしまいましたが、「患者カルテ」はこの青い本を土台とし、緑豊かな大きな木に育ったように感じました。あれこれ手を出しすぎる私からすると、野村さんの取り組んでこられたこの業績・成果は一本の筋が通っていて、とても眩しく見えます。

▼「オープンカルテ」のアイデア

 私が産業医で出向いているある会社で、「オープンカルテ」というものを保健師さんと実践していたことがあります。健康管理室では毎年行っている健康診断の結果を元に健康指導を行うのですが、その成果は必ずしも十分のものではありません。毎年のように痩せろ、運動しろ、甘い物を食べるななどと指導されながら、一向に変わる気配のない人が少なからずいるのです。よくよく話を聞いてみると、前年度の面談で伝えた内容を従業員さんがろくに覚えていないことがわかりました。そこで健康診断事後指導の面接の記録をメールに添付して送ることにしたのです。この方法は自分がどんな指導を受けたか確認できてよいと好評でした。私はこれを「オープンカルテ」(従業員との健康情報の共有)の第一歩と考えており、学会発表の準備も進めていたのですが、コロナが始まりそれどころではなくなり、保健師さんが転職されたこともあり、研究は頓挫してしまいました(嘱託産業医の立場からはなかなか研究推進ができない。保健師さんが頼りなのです)。そういった経緯もあったので、今回「患者カルテ」に出会えたのはとても嬉しかったのです。
 次のnoteで産業現場での活かし方を考えます

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