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自死問題への取り組み - 実践編 その2(埼玉いのちの電話研修講師)

 2026年2月に行った、埼玉いのちの電話電話相談員の継続研修の報告の続きです。引き続き村松英之先生のご著書を踏まえた講義内容をご紹介します。 

 ▼傷と“ほどほどに”付き合う

 村松先生は著書の第1章「自分を傷つけることで生きてきた」で、自傷してしまう心理を詳細に紹介した後、次の章で「傷と、“ほどほどに”付き合う」方法を解説しています。医療者の立場から、傷とどう付き合うかをここまで具体的に書いた本は、非常に珍しいのではないでしょうか。これもまた画期的な点だと思いました。
 先生はまず、「傷の部位を軽く押さえながら一度ゆっくり深呼吸をして、傷口を観察してみよう」と勧めています。
 その上で病院受診を考える傷の程度として次の3つを挙げています。

・傷がぱっくり開いている
・出血が止まらない
・傷跡が汚れている

 一方、緊急を要しないと判断したら、水道水で傷口の血をさっと洗い流してください。消毒薬はかぶれる原因になりやすいので不要です。その後のケアについても詳しく書かれていますので、関心ある方はぜひ目を通してみてください。
 どうしていいか判断できない時は#7119に電話するか119番してください。
 
 そして村松先生のこの一言が印象に残ります。
 「傷跡の処置は自分を大切にする第一歩です」
 そうなんです。書籍の初めの方で、傷を丁寧に処置することについて、「体をいたわることの心地よさを少しでも感じられるように」と述べられていました。
 「ならば傷つけなければいいのに」と思うかもしれませんが、それができない状況に心理的に追い込まれていたのです。やってしまったけれど、改めて傷を眺め、手当てし、自分を労わることで、自分を大切にする感覚が少しでも得られるかもしれない。実際、傷を大切にするなんて考えたこともなかった、という患者さんが少なくないようです。

▼支援者のための「しないことリスト」

 そして村松先生は「支援者がしない方がいいこと」についても、次のように示してくださっています。

・自傷行為を非難しない・否定しない
・自傷の理由を決めつけない
・自傷行為をやめる取引・交渉をしない
・自傷する道具を奪わない

 特に最後の「自傷する道具を奪わない」は支援者として戸惑うのではないでしょうか。私自身も、目の前で実行しようとしていたら、「やめて!」と取り上げると思います。しかし今後やらないために取り上げるのは、あなたを信用していないと伝えていることになりかねません。それに取り上げても他の自傷行為に移行するだけかもしれません。道具の管理は本人にゆだねるのが、本人の主体性を奪わないことにつながるとおっしゃっています。
 
 書籍ではこのあと、

第3章「傷を人に打ち明ける」
第4章「そして周囲との関係を結び直す」
第5章「傷跡を手放すこと、手放さないこと」

と続きます。研修では第2章までしか紹介できませんでしたが、3から5章にも大切な内容が丁寧に描かれています。自傷だけでなく、自死の問題に関心のあるすべての方にお勧めしたい一冊です。

▼自死につながる行為の“実行中”の電話が入ったら…

 研修前半の最後には、自死につながる行為の実行中の電話が入ったらどう対応するのかについて、私なりの考えを紹介しました(これは村松先生の本には書いてありません)。自死に悩む相談を受けるだけでも緊張するものですが、「実行中」と思われる電話は、相談員にとって最も精神的な負荷が高いものです。しかしそうした場面での対応を具体的に扱った本は、私の知る限りありません。サマリタンズのHPをよく探せばあるのかもしれませんが、今回は私自身の経験をもとにお話ししました。相談員としては、多少なりとも知識があるだけで対応は異なってくるのです。そして知識を持つことは次号でお話しする予定のヒューリスティックな応答を防ぐ面もあります。

▼大事なのは「安全確保」

 もしも自死につながる行為の実行中であるならば、まず必要なのは安全を確保することです。電話をかけてきた以上、その状況を何とかしたい、誰かとつながりたいという思いがあるのです。少なくとも実行に踏み切ることへの迷いが残っている、と受け止めることができます。
 講義では、自傷直後の場合、多量服薬が疑われる場合、高所・交通機関・ガス栓をひねったなど生命危機が切迫している場合などについて、それぞれ「私ならどう応答するか」を紹介しました。
 以下に手首自傷の応答例をご紹介しますが、もちろん状況・切迫度・相談者の反応に応じて柔軟に考える必要があります。

<電話が入り、実行中と判断できたら>
・よくお電話してきてくださいました。
・この電話はどのようにお知りになりましたか。
・お話できる範囲で構いませんが、どうして電話をかけようと思ったのか、教えていただけますか。
 
<自傷後だったら>
・傷の様子を教えてください。
<傷がぱっくりと開いている/出血が止まらない/傷跡が汚れている>
・傷口をしっかりと押さえ、救急病院を受診してください。
・病院はわかりますか?こちらで探しますか?
・治療が終わったらぜひまたお電話ください。お話ししたいことがあったと思うので。
 
<傷が浅そうなら>
・お話を伺いたいのですが、もしもまだ血が出ているようなら水道水でさっと洗い流して、カットバンを貼って戻ってきていただけますか。消毒は不要です。
・お電話をくださったのは、何かお話ししたいことがあったのだと思うのですが、お話できそうですか。 

 この後、話の流れがどのように展開していくかはさまざまですが、相談員にとっては通常の相談と同じように、目の前の語りを丁寧に聴いていくことになるわけです。
 
 改めてこれを書いていても、自分の緊張が高まるのを感じます。どんなに経験を積んでいても、どんな相談も一つとして同じものはなく、いつも「初めて」です。だからこそ、いま何が起こっているのかを、注意深く聴いていかねばなりません。
 次号その3では研修後半でお話しした「聴き方」についてご紹介します。


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