見出し画像

戦時下の絆と生涯未婚で孤独な現代|小説『パチンコ』を読んで

少し前のものだが在日コリアンの4世代にわたる年代記を描いた『パチンコ』という小説を読んだ。時代と共に家系を追っていく大河小説を読んだのはスタインベックの『エデンの東』以来かもしれない。

『パチンコ』の舞台は日韓併合下の韓国釜山から始まる。釜山で生まれた主人公の女性ソンジャは年上の裕福な仲買人コ・ハンスに誘惑され妊娠するが、実はハンスには日本に妻子がいた。

「結婚はできないが面倒は見る」というハンスの誘いをソンジャは拒否する。当時の韓国の田舎町で結婚していない女性が身籠るのは醜聞とされ、ソンジャは自分の苦境に苦しむことになるが、過去に看病をしたイサクという男性が現れソンジャを救うべく結婚を申し込み、イサクの兄が住む日本の大阪へ移住する。

しかし、移民としての暮らしは経済的にも厳しく彼らは生活難に直面。なかなか生活が楽にならないなか、政情が不安定になり時代は戦争に突入していく。

戦後は移民であるソンジャの子供たちの暮らしが描かれていくが、彼らも在日コリアンとして日本で生活するうえで多くの苦難に直面し、それぞれが時代に翻弄されながらも必死に生活を続けていく。詳細はぜひ本書を読んでもらいたい。

当時の経済的な事情に加え、移民であることの苦難が重なり、登場人物全員に深く感情移入しながら最後まで一気読みをしてしまった。苦難があるからこそ、家族全員で助け合って生きていく様に心打たれたのは僕だけではないだろう。

翻って現代の日本は未婚率が高まっている。生涯未婚率の推移を見れば明らかに、ここ30年でその割合が高まっていることがわかるだろう。

出典:国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」2023年度改訂版

生涯未婚率が増加している理由は、経済的な事情だと考えるのが一般的だ。日本では若い世代の年金や社会保障料の負担が大きく、結婚して子供を産むための経済的なビジョンを描くのが難しくなっている。

一方で、『パチンコ』で描かれた時代に比べて、物質的には非常に豊かになってきている。そのため、贅沢さえしなければひとりで充分に暮らしていくことができてしまうのも、未婚率が高まっている理由だろう。貧困や戦争に翻弄されるような苦難に直面することはまずない。

結婚することは、経済的に困難でありながら、必要性も薄まってしまったのだ。

『パチンコ』を読んでいると、生きていくのは大変で苦難に満ちているからこそ、家族で力をあわせて生活していくのが本来のかたちであることを強く意識させられた。しかし、現代の日本社会は生きていくために敢えて結婚しない人が増えているのである。こんなかたちに世の中が変わってしまうことはなかなか想像できなかったと思う。

人は誰でも苦難には直面したくないだろうが、苦難があるからこそ人との繋がり(特に家族)を強くして乗り越えていくのだと思った。その過程で家族への愛情は高まり、かけがえのないものになるのだろう。

今はわかりやすい苦難が存在しない妙な時代ではあるが、そんなイージーな人生が続くわけがない。そう考えると、僕も含めた現代の日本人はもう少し結婚を渇望した方がいいのかもしれない。そんなことも考えさせられる小説だった。

しばらくは『パチンコ』の余韻に浸って生活することになる。そのくらい強烈に感動できる小説なので、未読の方はぜひお読みいただきたい。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集