就職しない金持ちと会社員
大学生の頃にバンドを組んでいたが、バンドをやっている大学生のなかには一定の数で「就職しない」と宣言する奴がでてくる。
バンドで食べていこうと息巻いている側面もあるが、ロックの価値観に感化されたことで「会社の言いなりになんてならない」「組織に縛られる人生なんて嫌だ」といった、思想的な理由で会社員になることを拒否する傾向にある。
そんななか大半はなんだかんだで就職することになるが、サークルの様なひとつのコミュニティの学年に1人くらいは本当に就職しない人がいる。僕が一度バンドを組んでいた時のギター担当がそうだった。彼は「音楽で食べていく」と言い、就職することを拒んだまま大学を卒業することとなった。
音楽で食べていくことを志すのは良いことだが、実際のところ彼は実家が金持ちでありアルバイトもしたことがないような青年だった。就職しなくても生きていけてしまう環境に身を置いていたことも大きな要因だったのかもしれない。
その後、大学卒業後の数年はバンド活動をしていたらしく、SNSやブログなどで活動の様子は噂レベルで聞いていたが、数年が経過すると同年代の仲間も就職する人が増えてしまい、彼が所属しているバンドはほぼ解散してしまったように見えた。
結局その後はひとりで自宅で音楽制作をしていたようで、何らかのつながりでアイドルグループに曲を提供するくらいにはなれたらしい。それからの活動状況は残念ながらわからない。
当時の彼の思想や発言を思い出してみると、音楽が好きでその道を志したというよりも、就職を拒否したい気持ちがまずあって「音楽の道を志す」という理由を利用して実際に就職しない道を選んだように思えた。おそらくだが、彼は未だに働いたことがなく40歳近くになった今も実家で暮らしているのだと思う。だとすると、年老いていく親を見ながら働かずに実家にいるその状態は、じわじわと将来への不安が募るのではないかと予想する。
もちろん彼はそれで人生に満足している可能性もあるし、僕の推測が間違っていて実は立派に就職したり起業したりしているかもしれない。
しかし、こういった状況によって中年男性が社会に出るきっかけを逸するケースは実は結構多いんではないかと思う。金が足りている状況で働く理由を見つけるのは確かに難しい。
先日、彼のXのアカウントを見つけ、興味本位でポスト内容を見てみたが、個人的な趣味の範囲で音楽やアニメのことをつぶやいていた。いいねやコメントはほぼゼロだ。
これらの投稿を見る限り、就職していないことが問題なのではなく、自分の表現や存在が社会から認められておらず、社会との繋がりを見出せていないことに問題があるように思う。
金があれば働かなくていい。しかし、働かなくていい環境がかえって社会と関わるきっかけを取り除いてしまっている。
僕自身のことを振り返ってみると、どうだろうか。会社員として転勤を繰り返し、人生の貴重な時間を無意味な残業に捨て値で売り払い、組織の都合に振り回される日々に、正直ウンザリしている。しかし、それでも多くの場所でたくさんの人と関わりあいながら生きていられるのも事実。
結局のところ、どちらがいいのかわからなくなってしまった。理不尽な社会に揉まれながら生きていくのも、社会と繋がらずに孤独と向き合うのも、どちらも無限に続く厳しい人生である。
