メンタルが強い理由はジャズ?|憂鬱への処方箋
僕は職場でタフに働き続けており、周囲がバタバタと休退職を繰り返してもかれこれ7年近く今の仕事を続けており、みんなから「タフですね」とよく言われる。
プライベートでも性格が前向きだとよく言われる。辛いことがあってもどうにかこうにかやり過ごして笑いに変えるようなことをよくしているからだろうか。
そんな僕は20代前半に胃がんを経験しており、死を意識した経験もあれば、胃を全摘出した身体で生き抜いた経験もある。タフであることを語られる時、闘病経験がメインで語られがちだが、それは理由のひとつであるだけで本当の理由ではない。それが理由だったとすれば、病気を乗り越えた人は全員タフだということになるが、病気を経験している人には、どちらかというとタフな人よりも繊細な人の方が多いだろう。
実は僕のメンタルが強い理由は音楽が好きだからだと思っている。その中でも特にジャズの影響が大きい。メンタルが強い理由は「ジャズが好きだから」ということになるのだ。
もう少し広義に言うと黒人音楽から影響を得た音楽を好んでよく聴いていた。ビートルズもローリングストーンズも元を辿れば黒人音楽がルーツにある。
現代においてはジャズをおしゃれで洗練された音楽と捉えている人も多いかもしれないが、ジャズの発祥の歴史を紐解くと決してそんなことはないと気づくことができる。
アフリカから新大陸アメリカに連れてこられた奴隷労働者たちは、白人の下で綿花を収穫する過酷な労働に従事させられていた。主な舞台は綿花プランテーションだが、サトウキビ畑やタバコ農園でも同じような状況で、彼らは長時間の労働で身体が悲鳴を上げても働き続けなければならなかった。
そこで、彼らは歌を歌うことで痛みを誤魔化しながら労働に従事することになる。この自然発生的な現象がブルースの原点だ。そして奴隷制が廃止された後も、黒人労働者たちは鉄道建設や港湾作業で同じように歌い続け、ブルースは形を変えて生き延びる。
一方で、当時のニューオーリンズには、南北戦争後の軍楽隊で使われた金管楽器(トランペットやトロンボーン)が中古市場に溢れていた。黒人音楽家たちはこれらの楽器を手に入れ、ヨーロッパの軍楽隊リズムや、ピアノの「ラグタイム」のシンコペーションを取り込みながら、独自の音を作り始める。
特に、ラグタイムの「ズレたリズム(シンコペーション)」と、アフリカ由来の「ポリリズム」が融合したことで、ジャズの特徴的な「スウィング感」が生まれ人気を博すこととなる。
さて、ここでメンタルの話に戻る。ジャズを聴くことでメンタルがどうなるかと言うと、黒人音楽の歴史に思いを馳せることとなり、当時の彼らのように憂鬱な気持ちを誤魔化すことに繋がっていくのだ。
アメリカの作家、カートヴォネガットは『国のない男』のなかで、ジャズのもとになったブルースについてこんなことを書いている。
わたしはシュトラウスやモーツァルトが大好きだが、アフリカ系アメリカ人がまだ奴隷の頃に全世界に与えてくれた贈り物はとても貴重だと思う。この音楽こそ、いまでも多くの外国人がわれわれのことをほんの少しは好きでいてくれる唯一の理由だといってもいい。この、世界中に広がっている鬱状態によくきく特効薬は、ブルースという名の贈り物だ。
本章では雇われた黒人奴隷よりも白人の雇い主の方が自殺率が高かったことにも触れている。ジャズは鬱状態によくきく特効薬なのだ。
闘病の様な辛い出来事をどうにか乗り越えた経験というのは、メンタルを強くしてくれるのかもしれないが、ジャズの様な効き目の強い特効薬の影響なしには乗り越えることはできなかったと思う。
僕はメンタルが強いわけではなく、効き目の強い特効薬の力を借りているだけに過ぎない。健やかなメンタルであり続けたい人にはジャズを強くおすすめする。
