誰も行きたがらない社内イベント|プロパガンダ的の懇親会動画
会社のイベントで幹部や上司から現場スタッフへのメッセージを動画にして流すという仕事に携わった。今は特別なスキルがなくても簡単に動画編集ができるので、外注せずに自分たちで動画を制作する事になる。僕にとって動画制作は初めての経験だった。
この動画の目的は社員の志気を高めることだ。普段は雑務に追われてしまっている現場の社員たちが、仕事のやりがいや本来の仕事の意義を再確認できるようにすることを狙いとしている。
動画では上司や先輩にあたる社歴の長い社員が、入社したきっかけやこれから会社で実現したいことなどを話す。あわせて現場社員に普段は伝えることができていない感謝の気持ちを話し、BGMを流すことで感動的な雰囲気も醸成する。
普段は目の前の仕事に忙殺されてしまうので、年に数回でもこういった感謝の気持ちを伝えられる機会があると、仕事の意義を感じることができて退職の予防になるかもしれない。更には社員ひとりひとりの志気が高まれば売上の向上にも繋がるだろう。
ただ、これを制作している時に社内では退職者が続出していた。年に何回か訪れる「退職の連鎖」のような現象が起こり、それによって現場は労働力不足に陥り、残された社員は誰もが疲弊していた。それは僕も同様で、現場の日常業務が格段に増えてしまっているなか、イベントの動画制作に取り掛かることとなってしまったのだ。
「退職の連鎖」が起こっているということは、組織に何らかの問題が生じているのだと思う。実際に現場の社員から話を聞いてみると、会社への不満がたくさん出てくる。
そんな状況で撮影された動画を編集していると、ひとりひとりの言葉が急に嘘くさく見えてくるようになってしまった。さっきまで会社の不満を口にしていた社員が急に真面目な顔で仕事の意義や仕事で実現したいことを熱く語っているのだ。
しかし動画編集ツールでそれらをうまくまとめることで、社員の志気を高められる感動的な動画が簡単にできあがった。コース料理と飲み放題付きの懇親会会場でこの動画を流せば、ほどほどにお酒がまわってきた社員が感動して泣いたりするようになる。
この作業をしながら、政府が国民に対してプロパガンダを流す光景をイメージしてしまった。プロパガンダとは、特定の意見や信念を広めるために情報操作を行うことで、主に政治や社会的な目的で使われる。戦争への徴兵がわかりやすい。
戦前の日本でも軍部はプロパガンダを流していた。戦況が悪化して敗戦が濃厚になっていた時にも、日本軍が順調に進撃を続けているストーリーを国民に報じ続けていたのだ。
しかし、国内の工場で働く労働者たちは、その報道が嘘であることに気づいていたらしい。工場の物資は不足していて乏しく、そんな状況で日本軍が順調に進撃している報道を見ても、疑問に思ったのは間違いないだろう。彼らの志気があがることはなかったんじゃないか。
これらを振り返ると、今回の社内イベントで動画を流す施策が成功するようには思えなくなってきた。簡単に作れる動画のマジックで何名かの社員は感動させられるかもしれないが、反対に興ざめする社員も出てくる気がする。
今回、動画を作成する経験ができたことから、こういった演出に心を揺さぶられることがないようにしたいとあらためて思った。演出は簡単に作れる。しかし、本当に大切なのは健常な仕事現場を整えることだろう。
戦前から現代まで組織がやることは根本的に変わっていないのかもしれない。やっぱり歴史に学ぶことは多い。簡単な演出に騙されてしまわないように、冷静な視点を持ちながら組織と関わっていこう。
