問3(2)オムライスの定義を述べよ
「問3(1)オムライスの材料を答えよ」
台所で調理中のユカリに尋ねられて、マサキは首を捻った。
「そんなもん、ケチャップとご飯、それに卵があればいいんじゃないの?」
ユカリは、「まあ、正解としましょう」と口をへの字にしながら、頭を上下に動かした。
「なんなの一体」
そう言いながらも、マサキはユカリとの茶番を楽しんでいた。
ユカリと付き合って五年になる。そろそろ結婚したいと、マサキは考えていた。とはいえ、ユカリは結婚話をスラロームのように避けていくので、プロポーズには至っていない。
つい先日のユカリの誕生日も、そうだった。夜景の見えるレストランを予約してユカリを誘ったのに、「その日は予定があるから」と断られた。浮気かと思い、マサキは予定を尋ねる。
「何かに縛られるのは嫌いなの」
そう答えられると、それ以上は聞けなかった。
帰宅後すぐに、洗面所でゴシゴシと手を熱心に洗うユカリを、マサキは背後からじっと見つめる。夏らしい水色のワンピースには、ケチャップのような赤い粘り気のある液体がついていた。
「なんか赤いのついてるよ」
マサキが声をかけると、ユカリは「どこに?」と振り返る。
「首元。少し後ろ」
ユカリは洗い立ての手で、首元を拭う。
「もうちょっと右」
右に動いた手が、赤い液体に触れた。
「あ、そこ」
ユカリはぐっと拭うと、自分の手を一瞥する。そのまま口元に手を持っていき、赤い液体をペロリと舐めた。鏡に映るユカリがニヤリと笑う。
「何それ」
マサキが尋ねると、「ああ、ケチャップかな。ハンバーグを食べてきたのよ」と答えた。
「ハンバーグを食べて、首元にケチャップがつくわけがないだろ」
マサキが突っ込むと、ユカリは口をつぐんで再び手を洗い始めた。機嫌を損ねたのが分かる。
取り繕うように「誕生日おめでとう」と伝える。
「めでたくもないけど」と、ユカリは鼻でふっと笑った。
ユカリは謎が多い。
どこで何をしているのかが、よくわからない。同棲はしていないが、連絡は取れる。マサキの家にも、よく泊まりに来た。出会いはマチアプだった。結婚願望はないと書いてあったが、そろそろ頃合いだろうとマサキは考えていた。
マサキがユカリと結婚したいと思ったのは、彼女のことをもっと知りたいと思ったからだ。猫のようなユカリは、時折ものすごく甘えてくる。茶色のふわふわの髪を撫でてあげるとすごく喜ぶし、笑顔も可愛い。体の相性だって悪くないし、ユカリが一緒にいるとマサキはとにかくよく眠れた。謎の多いユカリを自分のものにしたくなったというのが、本音かもしれない。
「次の問題ね」
ユカリは、台所から再びマサキに向き直る。
「はいはい」
マサキはソファーで寝転びながら、返事をした。日曜日の昼間は、どこか気だるい。やる気も出ないし、転がっているのが心地いい。
「問3(2)オムライスの定義を述べよ」
今日の昼ごはんは、オムライスだと言うことがわかった。ケチャップの甘酸っぱい香りが、台所から漂ってくる。じゅうじゅうとフライパンの上で、ケチャップご飯が焼けているところだろう。
「オムライスの定義?」
「そ。オムライスの定義」
マサキは逡巡した。
「それは、ケチャップご飯が卵に包まれてるってのが、絶対条件じゃないの?」
「そうですか」
ユカリの声のトーンが低くなったのがわかる。エアコンの冷たい空気が、部屋に漂った。機嫌を損ねたかもしれないと、マサキは焦る。
ユカリは台所からツカツカと歩いてきた。手には大皿を持っている。ソファーの前のローテーブルにドンっと置いた。

「問3(3)これはオムライスと呼べるでしょうか」
マサキはふっと笑う。
「これは、流石にオムライスじゃないでしょ。何これ」
酷い出来栄えのオムライスに、思わず吹き出した。
その時、ゆらっと影が頭の上を横切るのが分かる。
マサキは振り返った。そこには、鬼の形相をしたユカリがフライパンを大きく振り上げている。
「ユカリっ!」
マサキは叫んだ。その瞬間、ガンッと鈍い音がした。マサキの視界が真っ白になっていく。薄れゆく景色の中で、ユカリの首元に赤い液体が付着しているのが見えた。
***
ユカリはソファに腰掛けた。
「問3(4)私のオムライスをバカにした男の末路を予想しなさい」
頭から血を流したマサキを一瞥し、ユカリは呟いた。
「時間切れです。はい、しぼー」
形にならなかったオムライスを頬張る。
「形なんて関係ないのにね。味が美味しければいい話じゃない。器のちっさい男って、ほんと無理。私は何にも拘束されたくありません」
ユカリは皿を持ち上げて、オムライスをかき込んだ。
「次の問題は何にしようかな。一問目は、シュークリームでしょ? 二問目はハンバーグ。三問目がオムライス。どれも味は美味しかったんだけどな。私を独り占めしようとしなくて、でも甘えさせてくれて、なんでも許してくれる男はいないもんですかね」
ユカリはマッチングアプリを開いた。何かを思い出したかのようにカレンダーに目をやる。
「え? 人間って燃えるゴミだっけ、燃えないゴミだっけ」
自然発生的に生まれたらしい企画に飛び込み参加してみました!
#今2000字で書けって言われたらどこからの発想で書き始めますか
ということらしいです。
秋谷りんこさんの記事を読んで、面白そう!と思って参加してみました!
始まりは豆島圭さん!
2,000字なら、書けそうと思って早速トライ!
今日の昼ごはんがオムライスで、包むのを失敗したので、これを日記にしようかなと思っていましたが、ショートショートにしてみました。
どこから書くかな〜と思ったけど、目に入ったものからかも。あとは一行目。特にどんな話かは考えずに、ザクっと書いたので、矛盾が生じていたらすみません。完全に書いて出しです。こういう企画って楽しい!
マガジンもできてた!他の方の2,000字もめっちゃ面白かったです!
飛び込み参加、失礼しました〜!
